テレホンカード

私の番!じゃあ、この前体験した不思議なお話をするね...。








あの日はかばんちゃんとロッジに行ったんだ。何回か行ってるんだけどね。


今日もいつもの様にタイリクオオカミが怖い話をしたんだけど、いつもの様にセルリアンが出てきて食べられるぞーみたいな話で、全然怖くなかった。ウソじゃないよ!

ホントだもん!...まあいいや。


夜になったからかばんちゃんに合わせて、

私も寝たんだけど…、やっぱり夜行性だから、全然眠れなかったんだ。


かばんちゃんを起こさないようにそっと、

廊下に出たんだ。そしたら、たまたまロッジを管理してるアリツカゲラに出会ったの。


「あら、サーバルさん。眠れないんですか?」


「なんかね...。アリツカゲラは何してるの?」


「お掃除ですよ」


よくよく見たら、布を持っていた。


「へぇー...、熱心だね!」


「お客様に気持ち良く滞在してもらいたいですからね…。あっ、サーバルさん」


「なに?」


「眠れないんですよね。

ちょっと、面白いものがあるんですけど、見たいですか?」


「何それ?見てみたいな!」


「わかりました。じゃあ、ちょっとついて来てください」


アリツカゲラの誘いに乗って、面白いモノを見に行くことにしたんだ。

案内されたのは受付の横の狭い扉の部屋だった。

アリツカゲラがその扉を開けると、その部屋の中に不思議なものがあったんだ。


緑色の箱みたいなモノ。


「これはなに?」


「博士さんによれば、公衆電話って言うんですって。電話って言うのは、遠くの誰かとお話できる機能の事みたいで」


「へえ...。これ使えるの?」


「お金か、カードを入れないと使えないんですよ」


「そっかぁ...、

どっちも持ってないなー」


「でも、カードはありますよ」


アリツカゲラはその“カード”を持ってたんだ。


「受付のテーブルの中に1枚だけあったんですよ。良かったらサーバルさんにあげます」


「えっ、いいの?」


「私は使う気ありませんし...

そもそも、使えないと思いますから」


「ありがとう!」


「...私は他の場所を掃除してきますね」


そう言ってアリツカゲラは出て行った。

1人残された私は貰ったカードを“公衆電話”に使ってみることにしたんだ。


「えーっと...、ここかな?」


カードが入りそうな場所に入れた。


「で...、うーんと...」


公衆電話に電話のかけ方の絵が書いてあった。それを真似して受話器を取って、耳に当てる。


「右のボタンを押せばいいのかな...?」


数字が沢山並んでいる。

かばんちゃんに教えて貰ったけど、

なんて押せばいいのかわからないから、

適当に押したんだ。


そしたら...。


プルルルルル...プルルルルル...


「あっ!」


音が聞こえたからビックリしちゃったよ。

しばらく待ってたんだ。

すると...。


『...はい?』


不思議な事に、電話の向こうから誰かの声が聞こえたんだ。

驚いて言葉が出なかった。


『...あの...』


「あっ...えっと...こんにちは!」


『....』


(あれ...?)


『その声...、サーバルさんですか?』


またまたビックリした。


「えっ、そうだけど...、何で?」


『私のこと忘れちゃったんですか?

よく遊んだじゃないですか!

アードウルフですよ!』


(アードウルフ...!!)


その名前を聞いて心臓が止まるかと思った。何でって言われたら…彼女は...


「い、今どこにいるの?」


『さばんなですよ。どの辺かって言われたら...、わからないですけど』


自信が無さそうな言い方。間違いなく、

100パーセントアードウルフ。


『ああ、サーバルさんに言っておきたかったんです。今度、ジャングルの近くに引っ越すんです。その前にお別れを言いたかったんですけど、サーバルさん寝てたので...、起こしたら申し訳ないと思って...』


(ジャングルの近く...、引越し...)


『...?サーバルさん?』


「...ダメだよ!」


『ど、どうしたんですか?』


「い、行かないで!」


私は咄嗟に呼び止めた。


「とにかく...、ジャングルの近くは危ないから、行っちゃダメ!」


『大丈夫ですよ。セルリアンが居るようなところには行きませんから...』


「ダメ...大きくて...」


そこで声が小さくなった。

早起き...、じゃない。

この後どうなるか、私にはわかってるから...。


『サーバルさん!確かに、私は臆病だし...、そんな強くないですけど、

自分の身は自分で守れますよ。カバさんに言われた通りにちゃんと...』


彼女の声を聞いて、あれ?って思った。

何でこの電話が繋がったんだろうって。


「...アードウルフ」


『何ですか...?』


「私、あなたのお友達で良かった」


『...え』


「もっと、色々遊びたいけど、今、遠い所にいて...、ゴメンね」


目を拭いながら、そう話した。


『...外の世界を見てみたいって、

仰ってましたもんね』


「...」


『あの山の向こうには何があると思う、

とか、パークの外には何があるんだろうって。そうやって何があるか想像するの、

とても面白かったですよ』


頭の中に、その会話をした時の映像が流れた。彼女もまた、その時の映像が流れているかもしれない。


「あの...、なんて言えばいいかわからないけど...、私のお話、聞いてくれる?」


時間の許す限り、あの先の出来事を彼女にもお話してあげよう。そう思って、話を始めた。


「それで...、かばんちゃんっていう

ヒトのフレンズがね、橋を作って...」


「こうざんで飲んだ紅茶が美味しくてね...」


「へいげんで合戦に巻き込まれちゃって...」


「おんせんっていう温かいお湯がとっても気持ち良くて...」


時折、彼女はうんうんって言ってくれたり、簡単な感想を言ったりした。

私に対して、変なことを言ってるって、

指摘することは無かった。


一通りお話を終えた。


『サーバルさんのお話、面白いですね!』


嬉しそうにそう言ってくれた。


『私も、いつか外の世界、見てみたいです』


「...今度、私と一緒に外の世界見に行こうね!」


『サーバルさんと一緒なら...、

楽しそうでいいですね!安心です!』


そう彼女に言われて、罪悪感を感じた。

私がもう少し早く、気がついていれば…。


『もうすぐ、新しい場所ですよ』


「...!!」


悔やんでる場合では無い。

もうすぐ、あの時が来ちゃう。


『今度サーバルさんも遊びに来てくださいね!』


「アードウルフ...!!」


今までよりも、強く明白に呼び止めた。


『...?』


「私...、アードウルフとの思い出忘れないよ...!お話したことも、一緒に、じゃぱりまん食べたことも...!会えないけど...!絶対覚えてるから...!」


『...私も、絶対に忘れませんよ。サーバルさん...』


涙で、顔が濡れた。

電話だけじゃ、お話だけじゃ、彼女を...


『...あっ』


プツッ


「あ、アードウルフ?」


呼びかけたけど、返事はなかった。


出てきたカードをまた入れようとしたけど、今度は吸い込まれなかった。


その後、彼女を思って泣いちゃった。


言い忘れたこと。あったかもしれない。

けど、もう伝えられない。


でも、ひとつだけ、スッキリしたことがある。


アードウルフとお話出来たこと。

一番最初の友達と。






電話を終えたあと、外に出たら、流れ星が見えたんだ。かばんちゃんに教えて貰った通り、お願い事をした。


“もう一度輝きが降り注ぎますように”

って。


...また、遊ぼうね。

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