けものフレンズ短編
みずかん
危険な好奇心
「ん...」
静かに目を覚ますと、そこは図書館だった。
真夜中であるが、月明かりが僕を照らしている。
僕は最初、状況がわからなかった。
しかし、手足を動かせないのは直ぐに気づいた。
「え...」
だが、理由がわからない。
すると、そこへこの島の長がやって来た。
「夜分遅くに済まないのです。かばん」
僕はその一声で心の中に余裕が生まれた
「あぁ...、博士さん...」
知り合いのタイリクオオカミにでも、
こういうドッキリでも仕掛けてくれとお願されたのか、それとも
「夜食でも作って欲しいんですか?」
しかし、その問には答えず、すこし、
楽しげな顔を浮かべてこちらを見つめるばかりだった。
「私は、この島の長として、知識を得る必要性があるのです。特に、私は、
“医学”の分野に興味を持ちましてね」
「え?」
「あなたの身体、実に興味深いので
す」
僕の肌に何故か、ゾクゾクと鳥肌がたった。
「本では読みましたが、実物を見てみたいのです...。特にヒトのフレンズで
あるあなたの。中を割って見てみたいのですよ」
ぞっとしない冗談を呟く。
しかし、本気だったとしても小柄な博士が僕に何か害を加える事など出来ない。
どうせ大口を叩いているだけだ。
安心感を得る為かそういう理屈を量産する。
「では、準備をしますからね。
ふふふっ....」
そう言って、博士は奥の方に戻る。
はぁ...、と溜息が出た。
(僕にどうして貰いたいんだろう…)
夜は答えを告げない。
僕も黙ってることしか出来ない。
静寂の空間に、足音が響く。
そして、現れたのは。
「お待たせしたのです」
見慣れぬ道具を手にした博士だった。
長くて、銀色、側面にはギザギザ。
「な、なんですか...、それは...」
すると、片手で何かを引き始めた。
「こ、答えてくださいよ」
ウィイイイイイン...
桁魂しい轟音が響く。
五月蝿くて声が届かなそうなくらいに。
銀色の部分が回転する。
それを目の当たりにし、本能的にか
冷や汗が垂れる。
キヒイイイイイン
重いのだろうか。
博士が一瞬、それを床に付けると轟音と共に破壊され、傷が出来た。
これはヤバい物だ。
ゴクリと唾を呑み込む。
「中を...見てみたいの...です...」
騒音に紛れ、何かに憑依された様な博士の声が聞こえる。
「じょ、助手さん!!」
そう、叫んだ。
ここは図書館だ。
博士がダメなら助手さんしかいない。
しかし、博士は何故か笑った。
「助手はもういませんよ…。
私の実験に付き合って貰ったのです。
これのチェックで、私がバラバラにしたのです。
残念ですが、ま、些か科学の発展に犠牲は付き物です」
「そ...、そんな...」
狂ってる。そう感じた。
「さて、助手の中身は美しくありませんでした。元が鳥だからでしょう。
人間の美しい中身を見せてもらうのです」
彼女はそれを構えると、此方に近付く。
「あ...あ...」
ウイイイイイイン...
「や...、や、やめっ...」
僕の声は騒音に掻き消され届かない。
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!
そんな事したら料理が食べれませんよ!」
声を張り上げて抵抗する。
「そんなのどうでもいいのです。
あなたの料理なんて。
助手もあなたも、代わりなんていくらでもいるのです」
無茶苦茶だ。
もう助かる術は...
ダメだ。もう無い。
サーバルに助けを求めたって耳の良い
彼女でも聞こえるかわからないし、
第一にバラバラにされるリスクもある。
絶望しかない。
「やめてください...」
「ふふっ、どこから見ましょうかね…
脚から見てみるのです」
銀に輝く刃が月光に反射する。
「やだっ...!死にたくないッ!!」
感情を崩壊させて、そう訴えたが却下された。
キッシャアアアアアアアアアア!!
「ああああああぁぁぁぁぁぁっ!!!」
痛さを通り越した、形容しがたい衝撃。
そして、精神的な苦痛。
「ああアッ!あああああぁぁぁッッ!」
何かに取り憑かれたかのように叫ぶ。
右脚は付け根から切られ更に、膝の所で
2つに切られている。
博士はその白い体を燃え盛る炎の様な赤色に染めた。
「あっはは...!美しいのです!」
感嘆とする博士に対し僕は生まれて初めて経験した痛さの狭間、辛うじて意識を保っていた。しかし、そこにあるのは他でもない、絶望だった。
(あっ....あっ...もう自分の足で歩けない....狩りごっこも出来ないし...立つことも.....ああぁぁ....)
「次は、そうですねぇ...腕でも行ってみますか」
「イヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだ!!」
呪文の如く繰り返すが、何も変わらない
「悔しいですか?
ですよね。腕が無くなったら、サーバルに触れませんし、撫でることも、愛でることも不可能です。しかし、知るという行為はそんな愛や友情よりもっと価値があるのです。
ここにあった本で読んだヒトの科学者、
“アインシュタイン”はこんな言葉を残していたのです。
『学べば学ぶほど、
自分がどれだけ無知であるか思い知らされる。自分の無知に気づけば気づくほど、より一層学びたくなる』
彼の言葉は的を射ている!!
だからこそ、私は学び続けるのです!
さあ、私に知識を捧げるのです!!」
そうして、再び振りかざした。
キッシャアアアアアアアアアア!!!
「あああああああああぁぁぁぁぁ...」
左腕を切られた。
もう、サーバルをめいいっぱい抱きしめてあげることは出来ない。
「いいですねぇ...!!
いいですよお...!!
これは美しい標本になるのです!!」
また、博士は喜ばしい声をあげた。
「かばん、何でそんなに顔が濡れているのですか。いい事もありますよ。
ご飯を食べる時はサーバルが食べさせてくれるんじゃないですか?ふふっ...」
嘲り笑いを浮かべた。
先程から知識の為だとか医学のなんとかとか言ってるが、その理屈の中に垣間見る博士の本心と言うべきものは本当に狂っている。
頭が働かなくなってきた。
痛さをもう感じない。
どこもかしこも、ぐちょぐちょ。
「サ...、サー...、サ...」
友の名を言うことさえもままならない。
「お次は...」
「いあああああああああああッッッ!」
かばんは悶絶した。
下半身を切られた。
しかも、一番“アレ”な所から
「あっはは...!楽しいのです!
もっと、もっと解剖するのです…!!
そして、勉強するですよ!!」
ギッシャアアアアアアアッ!!
シャアアアアアアァァァッ!!
その音は、深夜の森に響き続けた。
「あれぇ...、かばんちゃん、どこに行ったのかなぁ...」
「サーバル、どうしたのですか」
「あっ、博士!かばんちゃん見てない?」
「ああ、かばんなら図書館にいますよ」
「そうなんだ!ありがとう!」
「ん、サーバル、後ろを向くのです」
「えっ、なになに?」
「...ふっ」
ゴスッ
「うっ....」
バタッ...
「サーバル...、あなたの耳がどうなっているのか、気になるのです...」
静寂な森の中、不気味な音が響き渡っていたらそれは...
“好奇心の音”かもしれない
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