犯人を裁くのは貴方だ!実況中継48時!

@andaka

第1話 秘密

 2100年、日本では犯罪者が爆発的に増えた。

 警察だけでは手がまわらなくなり、そこで、警察より鼻が利き、足の早いTV局やマスメディアに一定の責任を条件に、犯罪者(容疑者)を逮捕してもよいという権利を与えた。

 そのタイミングはまさに瞬間的で、事前に政治力の強い議員の利権が絡んでいるのではないかという早さだった。

 この権利はインターネット番組や地方TVにはあまり好まれなかったが、全国放送のオーナーはとびついた。

 権利を得た大手番組は急遽、「放送局がリアルタイムで犯人を捕まえる」ことをテーマにした新企画を続々と出した。

 犯罪者との激しい争い、臨場感が視聴者のストレス解消に火をつけた。

 視聴率は回を重ねるごとにみるみるあがっていった。

 しかしそうなると、当然、他のテレビ局も真似をする。

 より差別化をはかろうとしたディレクターはさらに過激な番組を考えた。


新企画書 : 『犯人を裁くのは貴方だ!実況中継48時!』



「つまりこういう内容です」

 少し薄暗い、秘密の会議室で重役五人の前でディレクターが資料を手に持ちながら、語り始めた。

「番組が徹底的に調査、取材した容疑者数名をひとつの部屋に閉じ込め、ゆっくりとその模様を生放送で実況中継するのです。犯罪者たちの個人情報から、どんな罪を犯したのかを流し、視聴者による有罪判決が出たら、番組スタッフが視聴者の代わりに刑を執行するという企画です。番組時間はタイトルにありますように、48時間」

「そんなものいくら犯罪者を確保できる権利をうちが持っていたとしても、人道的問題でとても通常の番組では無理だな。もしかしてインターネットの番組か?」

 資料を見つめながら、メガネを直す中年の男性が口を開いた。

「その通り。従来の放送では企業広告をCMして、その宣伝料で番組を製作してきました。ですが、この番組はお茶の間で家族と一緒に観る事はとてもできない、観たくても意識して観る事は恥のようなものを感じて、あえて観ないでしょう。ゆえに個室でゆっくりと自分のPCで観てもらうのに適しているインターネットで放送したいと思います。こちらの方が口コミの速さも世界中に一瞬ですし。視聴者もワンクリックで入金できます。有料版でも確実に固定客がつく事が予想され、回数をこなすごとに利益は倍増していくと考えられます」

「だがな……」

 利益増大の言葉に心揺れた右端に座っている男性がしきりに髭を触りながら口を挟む。

「犯人にもプライバシーがある。それに、逮捕する権利はあっても、容疑者を犯人と断定し、裁く権利は当局にはない……」

 利益は追求したいが、同時に人としての良心とも葛藤しているのか、それとも権利を多いに超えた行為に対する処罰に脅えているのか。

 おそらく両方だろう。

 髭の男性はディレクターと資料を互いに見比べている。

「問題は確かにあります。いま言われた不安、それから……犯人たちの動向です。打ち合わせもリハーサルもない他人同士の生放送。どんな予期せぬエラーがあるかわかりません」

 そこでディレクターは深呼吸をする。

「しかし、視聴者はそのリアルさに興奮するのです。フォローはスタッフの中でも特に腕がよくて、企画に賛成の者でします。この企画のテーマは『秘密』です。我々の提供する情報を観て、神秘のベールを自分の手で開けているかのような錯覚に興奮し、自分の手で犯罪者の命運を握るとなれば、あたかも自分が悪人を裁いているように考えるはずです。推理小説を読むかのように、手ごろな娯楽の延長線上のように、人事と考えて観るでしょう。自分の手で犯人を裁くとしても……自分の手を汚さぬ、善意に酔うのです。「自分が悪を滅ぼした」と、ね。大衆は残酷で、安易な刺激を求めています。いまのように毎日、誰かが殺されていても平和はタダと思っている日本人には特に……」

 じっと重役たちを見つめながら続ける。

「そして、そんな日本人はこの番組を知っているのだとネットで『自慢』、つまり宣伝をしてくれる。それが海外にも飛び火すれば、どれだけの利益がでるか。番組が爆発的に広まることで、ネット警察が番組を突き止める事についての心配ですが、こちらは複数の国のサーバーを使って見つかったと思った瞬間、次の回線に繋いで爆破させます。こうすればバレる不安はありません。それから、我々は容疑者を逮捕する権利と、警察に引き渡す前になんらかの事情があって渡せない可能性も考慮し、72時間容疑者を拘束する権利もあります。刑を執行するのは問題あっても、拘束してその模様を録画すること自体に重い罪はありません」

「……うむ」

 それでも全員の不安が払拭されることはなかった。

 しかし、過去の犯罪者を逮捕する番組がヒットしている事と、それによる予想利益を見せられてしまうと、却下するには惜しい企画だと重役達は考えた。

 だから、まず実験をすることにした。

 最初に選ばれたのは、若者たちに海外からのドラッグを売りさばいているピザ無しで五年以上在住しているアメリカ人のタイニー。そして、その恋人の宮田美千代。

 この二人は、最初こそは協力して抜け出そうと言っていたが、少しずつ番組側からお互いの秘密が暴露されていくごとに仲たがいをし、罵り合う 二人に視聴者は飽きてしまったのか、48時間どころか12時間もたたないうちに二人の罪に対する判決が決定してしまった。

 どちらも死刑どころか、三年から五年程で釈放されるような小者だったので、室長の意見は辛口だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る