第4話 Gタレたちの撮影会

元アイドルの高松史乃(22)のコーデは黒髪のストレートロングに黒目がちのカラコン、白のワンピース姿という清楚系。


しかし、それでは時代遅れ。と周りのタレント達は言う。


「だって、みんなやってるし鉄板過ぎてマジ笑えるねんけど」


と全身ウロコの質感がリアルな半魚人スタイルのお笑い芸人日比谷かつとし(36)は史乃のコーデを鼻で笑い、


「やっぱり海辺が似合う元サーファー芸人、ひびたんがコンテストのグランプリいただきや!」


と指の間に水かきまで付けた右手を掲げて叫んだ。


「ふん、実は千葉出身のお笑い芸人が。エセ関西弁で何いきってんのよ」


とタバコをくゆらせながら腰までのロングヘアをかき上げるのは劇団女優の赤木凛(43)。

コットンシャツにジーンズとラフな格好だが顔から首筋、上腕と肌が露出した部分は全て白粉でバッチリメイク。


「いい?被写体として必要なのは演技力。いかにレンズを通して自分の凄みを伝えるか、なの」


まーたリン姐さんの説教が始まった。


とアイドルとお笑い芸人は表向き神妙な顔してはい、はい、とうなずいてはいたが、


たかがイベントの撮影会になーにが演技力だよ。と内心バカにしていた。


コンテスト主催の権田原康道監督(65)はパナマ帽にレイバンのサングラス。フィッシングベストという撮影の時のいつもの格好で「現場」に入り、


「さあさ、まずは史乃ちゃん。キャメラに向けて自然に映るようお願いしますよー、はいアクショーン!」


エントリー1、しのちゃんこと高松志乃


ロフト付きアパートに引っ越した地下アイドル、常滑さゆりの新居紹介の自撮り動画。さゆりの「いぇーい、ピカピカの新居でぇす、きょうはひとりたこ焼きしてまーす」の笑顔。画面はたこ焼き製造に切り替わったが…


おわかりいただけただろうか?


ロフトの天井から長い髪を垂らした少女が首だけ出して部屋の住人を見つめているのを。


志乃

「えへへっ!チョー鉄板な登場の仕方、『ロフトの上からコンニチハ』でぇす!」


監督

「おっ、ネットで『貞子?』という書き込み増えてるよー。ベタな映りかただけど怖可愛いから許す!」


かつては社会派監督と言われながらも所詮は若い女の子に弱いオッサン…と芸人日比谷は監督の背中を一瞥し、よっしゃ、俺の渾身の芸見せたらあ!と次の現場でスタンバイした。


エントリー2、ひびたんことお笑い芸人日比谷かつとし


沖縄の海水浴場。

波打ち際で浮き輪を持って無邪気に笑う男の子。隣ではシュノーケルを装着した彼の兄が「いぇーい」とピースサインで笑う和気藹々としたホームビデオであるが…


おわかりいただけただろうか?


海中から伸びた鱗の付いた手が男の子の浮き輪を掴んでいるのを。


日比谷

「どうでしたか監督、僕、恐かったでしょ?」


監督

「メイクが特撮過ぎて恐くねえんだよ。生身の手でやった方がよかったのに」


そんなあー、と芸人日比谷が肩を落としている横をすり抜けて女優、赤木凛は心から役になりきり、現場に入った。


雛人形の七段飾りを背景にこっちを向いてーとホームカメラを向けた父親に向かう着物姿の女の子。しかし、ちらちら後ろを向く娘に撮影者である父親が「どうしたの?」と声をかける。


「だってりんおばさんが」

父親

「え?」


おわかりいただけただろうか?


最初は雛飾りの脇から、次に女の子の後ろから、最後にカメラの前に現れた女に父親はひっ!と叫んでカメラを下ろした。


監督

「いやあー素晴らしいねえ!さっすがサスペンスドラマオープニング五分の女王と呼ばれた演技!」


「自分の全てを出しきりましたから」


ふっ、これで今回の優勝は私ね、と凛が得意げに髪をかき上げた時、



「あいやそれまで」

と彼女の背後から…


黒漆の傘を被った若い同心とハンチングを被ったアロハシャツの中年男二人組が閻魔庁の「閻」を象ったバッヂを掲示しながら出てきた。


「お主ら、現世映像干渉法項の三、動画映り込みによる心霊動画作成の現行犯で逮捕する。幼子をたぶらかすとは怪しからぬ!」


「あ~あ、このご家庭に一生思い出したくないホームビデオ残してくれちゃってどうすんだよ?」


と同心、小田島勘解由が素早い動作で監督を始めモデル三人の親指の付け根を縛り上げて数珠繋ぎにし、引っ立てていく。


うわあ、リアル親指縛り初めて見たよ…


と勘解由の相方、今川康次郎刑事がホームビデオの映像にわざと映った悪質ゴーストタレント、


略してGタレ。


たちを一斉検挙した。


「いけないねえ、現世の写真や動画にわざと映り込んで人様を恐がらせる迷惑行為は。あんたら『いかに恐く現世の映像に映るか』でコンテスト開くなんて悪質だよ」


だって…と取調室で凛は白塗りメイクが落ちる程大粒の涙を流しながら


「生前ではサスペンスドラマの第一死体役でしかテレビに出られなかったんですう~…

もう一度キラキラした世界で輝きたい。と思って何が悪いのっ!?」


と訴えたが、


「だって、あんたら輝けないって。みんな幽霊なんだもん」


とすげなく言った。


その様子をマジックミラー越しに見ていた勘解由は、


「相次ぐ名誉毀損で叩かれまくった自称社会派監督。

一年も人気が持たなかったお笑い芸人。

ほとんど素人の地下アイドル。

昭和サスペンスの死体役。


…いやはや、半端なタレントのまま人生を終えた霊の執着は凄まじいのう。きゃつらこれで13回目の逮捕ぞ」


とかぶりを降り、朋輩(相棒)の康次郎がミラー越しにこちらに向かって



この女優、演技が全く大根だぜ!


と言っている唇の動きを読み、ぷぷっ!と肩を上下に揺すって笑い、



今夜は風呂吹き大根にしてくれ。辛子味噌を付けてな。


と操作を覚えたてのガラケーで娘にメールを送り、


それを見た勘解由の娘、縫は


文末にショートケーキの絵文字付ける父のメールを見て、これじゃスマホ操作仕込むの当分先だわ…

とため息を付いた。


















































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