7.2話 第一回おにぎり大会開催のおしらせ(1)

 土曜日の、もう少しで昼になろうかというころ。厨房の作業台の向こう側で、ヒフミが何かを決意した面持ちで口を開いた。

「一回目のおにぎり作る祭り、始めます」


 事の始まりは『ノリ』という食べ物だった。ヒフミはミス・ドレスの皆によくオニギリを作ってくれたが、どうやらいつものオニギリには決定的に足りない何かがあったらしい。ヒフミはイルケトリに頼みこんで、それを外国から取り寄せてもらった。

『ノリ』である。

『ノリ』を手に入れたヒフミは、せっかくだからみんなでオニギリを作りたいとイルケトリにかけ合ったそうだ。


 そして今、まさに『第一回おにぎり大会』がエミリーの目の前で開催されようとしている。ヒフミが言っていた『一回目のおにぎり作る祭り、始めます』は『第一回おにぎり大会を開催します』ということだろう。オニギリ大会というのがよく分からないが、皆でオニギリを作る会のはすだ、多分。

 作業台の向こう側には主催者であるヒフミ、作業台を挟んで、ミス・ドレスの全員が横一列に並んでいる。イルケトリ、シンティア、ハニール、マリアンヌ、エミリーだ。台の上には鍋から湯気をあげている白い米、サーモンの皿、コショウのふられた肉を小さく刻んだ皿、おがくずのようなものが乗った皿、そのほかいろいろな具材とおぼしきものが並べられたなかに、ひときわ異彩を放つ色合いがあった。

 四角くて、黒くて、薄くて、乾いていて、光っている。

 あまりにも見つめていたからだろう、ヒフミが四角くて黒くて薄いものを指さす。

「これがのり」

「え、これが『ノリ』?」

 エミリーに続いて皆からざわめきがもれる。

「本当に食べ物なのか?」

「中に入れるのかな?」

「ちょっと、お腹壊さないでしょうね?」

「何か……怖いわ」

 イルケトリ、シンティア、ハニール、マリアンヌである。イルケトリは取り寄せた張本人なのに実物を見たことがなかったのか、とエミリーは心の中でつっこんでおいた。

「食べる。おいしい」

 ヒフミがノリを皿からつまんで、エミリーにさし出してきた。なぜエミリーが代表なのか、と思ったが、ヒフミの国の料理はおいしいし、ヒフミが取り寄せを頼みこんだほどのものなのだから大丈夫だと、無理やり自分を納得させた。正直、食べ物には見えない。

 エミリーは意を決して、受け取ったノリを恐る恐るかじって、かんだ。

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