ミス・ドレス・メイドトゥオーダー
有坂有花子
本編(完結)
1話 心をこめたもの
手の中にある、ピンクのフェルトのウサギ。
「できたよ!」
エミリーは居間のソファーに座る母を振り返る。あふれる気持ちそのままに、立ち上がって勢いよく母のひざへつっこむ。
「痛! 何、エミリー!」
「ウサギできた! はじめて! うまいでしょ?」
エミリーが母へ差し出したのは、ピンクのフェルトに木くずをつめて、ビーズで目をつけたウサギのマスコットだった。
母は「おお」と驚いた声をもらして、ウサギをのぞきこむ。
「うまいうまい。やっぱり血筋かしらね?」
「やった! これでもうすてられない!」
エミリーは今まで紙でウサギを作っていたが、間違えて捨てられることがよくあったのだ。
「ああ……ごめんね、捨てて」
母はばつが悪そうに顔をそらす。
「もうすてないでね!」
「ああうん、ごめんね。でも布ならどこにでも連れていけるし、いつでも持ってられるでしょ? さすがに間違って捨てたりはしないから」
恐縮そうに身を小さくしている母に、エミリーは力強く
「わかればよろしい」
「名前はもう決めたの?」
エミリーは重大なことに気付いたように母を見つめて、ウサギを見つめる。
「ラピ!」
「ラピね。いいじゃない」
ラピ、と口に出すと、胸の中のきらめきがどんどん増えていくようで、エミリーはラピ、ラピと繰り返した。
母がふと思いついたように楽しげな笑みを浮かべる。
「心をこめて作るとね、魔法が使えるんだよ」
エミリーは首を傾ける。
「どういうこと?」
「心をこめて作ったものを身につけるとね、魔法が使えるの。服とか、アクセサリーとか」
「え、じゃあこれもまほうつかえる?」
エミリーは母に飛びつくように、握ったウサギをつき出す。母はいたずらっぽく顔の前に指を立てて振った。
「残念。心をこめてるのは合格だけど、魔法が使えるのは特別な布だけです」
「とくべつなぬのってなに? どこにあるの?」
エミリーが身を乗り出すと、母は「まあ座ったら?」とソファーの隣をさす。
エミリーはソファーに飛び乗った。今あるきらめき以上の期待を胸の中につめこんで、母を見上げる。
心をこめて作ったもので使える魔法は、まばゆいばかりの、とてもとても幸せなものに違いないと信じながら。
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