第15話 美玲と写真部

「私、日影美玲です」

何事もなかったかのように、美玲は、ウインクをしている。それにやられたのか、橘と更科がズキュンという変な声を上げている。

「俺、橘紅志。写真部でーす。今日は、美玲ちゃんの写真をいっぱい取らせてね」

美人の美玲に会えたのが嬉しかったのか 、橘は変なテンションになっている。

「俺、更科翠。俺も写真部。美玲ちゃんの写真もいいけど、ミチルちゃんとのツーショットも個人的に欲しいな」

更科は、欲望をぶちまけている。やりたい放題になりそうだ。

一通りお互いの自己紹介を済ませ、俺は、リビングに招き入れる。

「まず、俺からな」

橘が、カメラを取り出し、美玲に向けてシャッターを切る。

「おい、撮ったただろ。次俺だ。代われ」

「まだだ。俺が満足するまで、美玲ちゃんを撮り続ける」

橘は、意気込み始め、その場から離れようとしない。

「早く代われ。橘はこうなると夕方まで撮り続けそうだからな」

「そんなことねーし」

二人は、美玲を正面から撮ることをめぐりもめている。

「大丈夫ですよ。私は、何時間撮られても平気です」

美玲は、これまでに見たこともない笑顔を向ける。

「もう、天使だ」

これは、二人の心の声だろうか。口に出ている。

「そういえば、朝比奈って変わっているよな。天使な美玲ちゃんよりミチルちゃんを選ぶなんて」

橘が、思い出したようにミチルを軽くディスる。もう一度言ったら俺が殴ってしまおうかと思わせるぐらいに。こう思っていると、ミチルが心配になってきた。朝比奈は、橘と更科と違って奥手なほうだと思うから手は出さないと思うけど。なにせ、初めて会った、男女というものだから……。そして、内側から湧き上がってくる、経験したこともない感情。これは、兄としての妹を思う感情なのだろうか

「怜、どうした」

俺は、輝の声で我に帰る。

「俺、ちょっと忘れ物を取りに行ってくる」

俺は、そう言ってリビングを後にする。

「お兄様」

美玲が小声でそう言った気がした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る