第12話 ミチルと美玲
「お兄様。」
家に帰ると、美玲が、頬を膨らませながら玄関で待っていた。泣いていたのだろうか、目元が少し赤くなっている。
「どうして、私よりも輝さんを優先するのですか。退屈でしかたありませんでした。」
俺は、まるで二股をかけた彼氏のような気分になった。輝は、彼女ではないのに。だいたい、高校生男子が、妹とイチャイチャするという発想がありえない。確かに欲というものはあるが、欲求不満だからと言って妹に手を出す奴はいないだろう。まあ、断定はできないが。
「あ、お兄さん。」
聞き覚えの可愛らしい声が、階段の方から聞こえてくる。この声は…
「お兄さん、今日は本当にありがとうございました。」
階段から降りてきた花園さんになぜかお礼を言われる。何かした覚えはないのだが。
「お礼を言うべき相手は、ミチル君だろ。」
桃山君は、花園さんを小突く。まるで、夫婦漫才のようだ。
「そうだった。ミチルさん、ありがとう。」
花園さんは、ミチルにお礼を言ったつもりだったが、肝心のミチルがいない。花園さんは、天然キャラでも被っているのだろうか。
「ごめん、お待たせ。」
ミチルが、足早に階段を降りてくる。
「部屋を片付けてた。間に合ってよかった。」
ミチルは、安堵の表情をみせる。
「ミチルさんって、頭良くて、綺麗好きでうらやましい。」
花園さんは、不意にそんなことを言った。確かに、ミチルは、俺に比べて自分の部屋はいつも綺麗。一度だけ、妹の学年末テストの点数を見たことがあったが、国語が、満点であった。数学も英語も理科も社会も同じくらいである。だが、あのときは、なんとなく勝手に部屋に入って点数を見てしまい、ミチルにこっぴどく叱られた。その叱り方は、母そっくりだと反省しながらも感心していたが。
「ああ、そこの毎日男にチヤホヤされて調子をこいている女とは、大違いだ。本当にミチル君の妹なのか。」
俺は、桃山君の言葉につい笑ってしまった。確かに、言われてみればそうである。実力は、雲泥の差であり、勉強を教えてほしいと頼まれたことがある。しかし、美玲は、頼んだものの、俺の手をとり、むりやり自分の胸にあっててきたり、俺の股間を触ってきたりで勉強を教えることなどできなかった。つまり、ただの口実だったのである。そんな、痴女でいるのをやめれば、美玲だって、ミチルの実力に少しでも近づけると思うのに。
「ひ、ひどいです。お兄様。」
美玲は、花をヒクヒクさせ、泣き始める。やばい、妹を泣かせてしまった。この場合、どうすればいいのだろう。それに、お客もそうだが、ミチルに俺が泣かせたと言う事実を見せたくはなかった。このきもちは…
「めんどくさっ。だから女は。」
「瑠唯君も元は…むぐっ。」
花園さんは、何か言いたそうにしているが、ミチルの手によって塞がれる。まるで、何かを嗅がせる手つきで。
「ごめん。さわがしくて。今日は、もう帰って。」
ミチルは強引に花園さんを外に出す。
「ミチル君、また今度。」
桃山君は素直に帰っていった。
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