第16話 Ⅱ 足掻

 背中を取られた兵士が振り返り際に剣を上段から下段に振り下ろす。

 

 私は構わず突進して懐に入ると押し倒す。

 

 首を掴まれるが、持っていたサバイバルナイフの柄で頭を強打する。

 

 同時に背後から迫る刃を伏せて避けると逆立ちするように両手を地面に着いて地面を蹴り上げる。

 

 腹筋と背筋で勢いよく逆立ちした脚は遠心力も加わり兵士の顎にヒットする。

 

 そのままの勢いでくるんと立ち上がると反対側の敵に切りかかるルネサスとシルヴァに叫ぶ。

 

「できるだけ殺さないで!!」


 敵陣に飛び込んだのだから仕方ないのだけれど、叫ぶ瞬間も兵士の刃は私に迫る。

 

 紙一重で切っ先を避けると、剣を持っている方の手首を掴み背後にまわり足払いをして締め上げる。

 

 柄で頭を強打して無効化する。

 

 

 二人の加勢をするとルネサスに怒鳴られる。

 

「何をお考えですか!?私たちがどれほど心配したことか!!」


 ガキィン―――

 

 兵士の剣と私のサバイバルナイフがぶつかり合う。

 

 力勝負には勝てない。しゃがみ足払いをする。


「ごめんって!一応合図は出したっ、つもり!!」


 シルヴァに斬りかかろうとしていた兵士にタックルをする。

 

「嬢ちゃん、引いてくれ!!俺たちには嬢ちゃんを守る義務がある!!怪我でもされたら王都の連中に顔向けできねぇ!」


 タックする後、地に落ちるまで予想より時間が空いた。

 

 シルヴァが私のベルトを掴み、人が少ない場所に投げたのだ。

 

 その飛距離から、最初に共闘?した時にライフルのような長い銃を構えて狙撃種をしていたのはやっぱり嘘だ!と心の中で叫ぶ。

 

 そのくらい考える時間があるほど飛んでいたのだ。転がり、衝撃を分散すると腰を低くしたまま構える。

 

「あー……とても言いづらいんだけど、まだまだ二人には戦ってもらう作戦だから、ある程度片付けたら次行くからね?」


 その言葉に二人は呆れたような驚いたような表情をした。







 本隊の最前線の兵士たちはまるで もぐらたたき のように頭を出しては銃を撃ちすぐにひっこめ頭上を攻撃魔法を通りすぎるのを待った。

 

 地上に穴を開けたはいいが、魔法使いたちに作戦が漏れていて攻め入ることが出来なくなっていた。

 

 

 赤目系魔法使いたちは地下室からすぐに西側の地上に移動し、本隊が現れるのを待った。

 

 元執事長を中心とする幻魔法を使える者たちも赤目系魔法使いたちと肩を並べる。

 

 本隊に赤目系魔法使いが多くいるように見せるように元執事長が考えた作戦だ。

 

 その後ろに黄目系魔法使いが薄いながらも障壁を張り、穴からの攻撃に備える。

 

 そうやって時間を稼ぐと地下室からリンネルたち近接武器部隊が合流する。

 

 

「トンネル工事の時にもっとも怖いものはなーんだ?」



 作戦会議でリンネルが言った言葉だ。

 

 幻魔法で穴に幻の水を大量に流す。もちろん幻だから濡れることも溺れることもない。

 

 敵に一瞬隙を作れればいい。

 

 その隙を突くように近接武器部隊が突入する。

 

 後を追うように青目系魔法使いたちも突入して南側と同じことをする。

 

 役目を終えた赤目系と黄目系魔法使いは南側に向かい、拘束した敵を一か所に集める。

 

 リッシャローズ領地の象徴のようなローズラルは各場所を回り戦う領民を励ます。

 

 

 日が地平線から登り始める頃、リッシャローズ領民とリンネルたちは南側と西側の敵拠点を制圧していた。

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