第14話 Ⅱ 薔薇

 新月。真っ暗な中、黒アゲハは仄かに紫色の光を放つ。

 

 眼帯を左手に握りしめたまま、追いかけると明かりが見えてきた。

 

 宙に浮く青白い球。濃い灰色のローブを着た老人が杖をついて立っていた。

 

ヌシ、名はなんと申す」


 かすれた声に感情は無かった。

 

「私は、リンネル……と呼ばれている。創生の神子の一人です」


 臆することなく答える。ここまで如何にも魔法使いな人に出会うのは初めてだったので少し身体に力が入る。

 

 青色い球が私の顔を照らす。とっさに付けた眼帯を外すし、黒目が見えるようにする。

 

「創生の神子……儀式は成功しておったんじゃな……わし等の領地を治める方のもとに案内いたしましょう」


 青白い球が老人の足元に現れ、老人は明かりのほうに歩みを進める。

 

 念のため眼帯をすると後を追う。

 

「おじいさんは誰ですか」


「わしはリッシャローズ家の先代の執事長じゃ。今は隠居した身……だと思っておりましたが、今はリッシャローズ家のご令嬢、ローズラル様の手伝いをしております」


 明かり、もとい、町に入ると道行く人は私を見つめる。

 

 

 邸宅の前まで来る。今朝、黒アゲハを通して見た建物だった。

 

「ローズラル様、創生の神子の一人であらせられるリンネル様をお連れしましたぞ」


 エントランスで他の魔法使いに指示をしていた少女ローズラルは私を見ると駆け寄り、恭しく頭を垂れる。


「創生の神子様であらせられるとも知らず、このような場所に招いた無礼をお許しください。私はリッシャローズ家の跡取りローズラルと申します。どうか、どうかお助けいただきたいのです」


 必死な様子は、鍋をかき混ぜながら見たローズラルと同じだった。

 

「ローズラル、初めまして。私はリンネル。王都にはもう一人の創生の神子のトキスレートがいる。私は……置いてきてしまったけど、兵士二人とこの領地の視察にきたの」


 しゃがみ視線を合わせる。ローズラルは顔を上げる。今にも泣きそうな顔をしている。

 

「私は、魔法力がたくさんあるようだけど上手く使うことは出来ない。私にできることは少ない。それでも、これは伝えないといけない。あと数時間後にグレーフルー国軍が地下から攻めてくる」


 辺りの魔法使いたちも会話を聞いている。誰かが「そんな……」と小さく漏らす。

 

「リンネル様。ご覧のとおり、私には魔法力があまりありません。リンネル様との接触も爺やにしてもらっていました。どうすれば、私たちは、領民は助かるのか分からないのです」


 桃色のくりっとした瞳でローズラルは見つめる。

 

 私も無策だ。けれど魔法という自分が知らない道具があるなら駆使して乗り切れる気がした。

 

 

 だから、安心させるように優しくローズラルを抱きしめ、力強く言った。他の魔法使いたちにも聞こえるように。

 

 

 

 

 

 「どうしたら乗り切れるか、一緒に考えよう。ここまで持ちこたえられたんだから必ずいい方法が見つかるよ」

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