第8話 Ⅰ 再会
戦場に突如現れた不思議な少女は次々、黄土色の軍服を着た兵士を倒していった。
決して力が強いわけでもない。武器の扱いに長けているわけでもない。むしろ劣っていた。
けれど、相手との間合いをうまさ、隙を作り逃さない観察力と身体能力が戦場のどの兵士より勝っていた。
小さな拠点は暗い色の軍の準最終防衛拠点だった。拠点が突破されればその先にあるいくつかの村と町が戦場になっていた。
鈴音はその旨を聞きながら拠点のリーダーのルネサスとバンダナの男性シルヴァとともに王都に来ていた。
二人は綺麗な紺色の軍服を着ている。シルヴァのバンダナは鈴音の右目に巻かれている。
怪我をしたわけではないが、拠点での戦闘のあと、鈴音の目を見たシルヴァが急いで右目に巻いてルネサスに報告したのだ。
鈴音はこの国では黒目は不吉な意味があるのだろうか。といった認識だった。
乗馬をしたことが無い鈴音にとってはこの王都までの道のりがつらかった。慣れないと臀部が非常に痛い。
やっと、やっと着く。その想いが何より先行していた。
王の代理との謁見ですらどうでもいいと思えるほど臀部が痛かった。
王の権威を示すため、と言いつつ無駄に豪華な建物は落ち着かない。
謁見室に向かう廊下を二人について行く形で鈴音は歩いていた。
「鈴音!!」
名前を呼ばれると、廊下で誰かに抱きしめられた。
「せい!!」
ごつごつした身体つきから男と判断した鈴音はすぐさま相手の鳩尾に膝を埋める。
言葉にならないうめき声を漏らしながら男性は床に膝をつく。
「グランイグバード王陛下に何たる失礼!!取り押さえなさい!」
美人な男性の声が廊下に響く。
「王様だからってセクハラが……!?」
反論しようとしたらいきなり身体の力が抜けて紺の軍服の兵士に取り押さえられる。
なん……だ?薬品?
不思議な感覚に浸っていると、抱きついてきた王が復活したのか鈴音を解放するように言った。
「鈴音、僕だよ。なぜか男になってるけど斗紀だよ」
鈴音は驚いてまじまじと王の顔を見つめる。
性別がなぜ違うのかわからないけれど、目の前にいるのは正真正銘鈴音の親友の斗紀だった。
力が入るようになった体で鈴音は斗紀を抱きしめる。
「斗紀!斗紀!!よかった、よかったっ」
鈴音の目には涙が浮かんでいた。
「本来、召喚時に呼ぶ魂は一つです。創生の魂を持った人間を召喚します。ですが、この二人にはそれぞれ創生の魂が宿っています。同じ時間に産まれたことから創生の魂が二つに分かれた可能性があります」
場所は変わり、王都城の中庭でテーブルを囲むのは斗紀、鈴音、ガーウィン、レイウス、スレイア、ルネサス、そして最高神官という役職のコフィーナの7名だ。
「召喚に用意できた魔法力は一人分。その魔法力で二人を召喚してしまったから儀式はあのような結果になったのでしょう」
コフィーナは目を閉じたまま静かに語る。
「あのような、結果?」
斗紀は口を開く。微かに思い当たる節があった。戦場に赴かない王都に居る上位カーストのほとんどが何かしら大けがを負っていた。それはつまり……。
「……召喚の儀式が強制的に中断され、大聖堂が爆発しました。1/3の者が死に残りも大けがをしました。陛下は召喚用の陣の真ん中で瓦礫に埋まった状態で発見されたのです」
「……」
斗紀は自分たちを召喚するために犠牲者がいることにショックを受けていた。自然とうつむく。
「だからと言って、そっちが勝手に儀式をして失敗して死傷者を出したのだから私たちが責任を感じる必要ない。私たちはこの世界のこの国の戦いに理不尽に巻き込まれただけ」
鈴音は紀斗と自分に言い聞かせる。
「リンネル様の仰ることはその通りでございます。しかし、お二人をお国に返すにも先の儀式より必要な魔法力は増加します。崩壊した大聖堂も建築しなおさなくてはなりません」
スレイアが客観的に述べる。
「つまり、数か月はこの世界に滞在しなければならないということだ。この数か月……貴様らはどう過ごす」
ガーウィンが紅茶を飲みながら言う。
「どうって……」
「その間だけでも、力を貸していただけないでしょうか?」
コフィーナは静かに、狡猾な笑みを天使の笑みに変え二人に言った。
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