第7話 Ⅰ 恩義
私は全速力で走っていた。前方に見える炎を目指して。
砂煙の中、助けられて連れてこられた小さな拠点。
そこが今、襲われている。
話している間にも陽は落ちる。馬に乗った眼帯の男性は私の横を通りすぎる。
互いに無意識だっただろう。けれど目があった。
眼帯の男は私の顔を見たまま馬を止めた。
「テメェ……」
驚いた表情で固まる。
「なに」
眼帯の男性は少し黙った後、ニヤッとして言葉を放った。
「いいや。俺はグラント。また会おうぜ」
そういうと馬を走らせた。
そういえばカラコン落としたんだった。オッドアイの状態だけど、そんなに珍しかったかな……?
その後、暗闇をさまよって遠くに見える明かりに気が付いた。
人がいる。そう思って目指したけれど方向からして、さっきまで私がいた拠点。
止まるか、進むか。
先ほどのバンダナの男性を思い出す。
「親父が言ってたな……恩は倍にして返せって」
親譲りの放っておけない自分の性格に苦笑して走り始めた。
近づくと戦場の音が聞こえてきた。
手加減は出来ない。私は人を殺すかもしれない。
恐怖はあった。けれど、生き残るためには、生きてほしい人を助けるためには、私にはそれしかなかった。
バンダナの男性は拍子抜けするほどすぐに見つかった。
レンガの壁の裏に退避していた。手にはショットガンらしき長い銃を持っている。
筋肉量から前衛だと勝手に思っていたから狙撃種だったのは驚いた。
「ねぇ、私を助けてくれた人!」
間違って撃たれないように比較のレンガの壁に身を隠しつつ声を掛ける。
「あ?なんでここにいるんだ!なんで逃げてない!」
「言ったでしょ。私、帰り方がわからないの!」
男性は何かを言おうと口を開いたが近くで爆発が起きた。
伏せて身を守る。おちおち話もしていられない。
私側のレンガ壁が今の爆発で壁の役目を終えた。急いでバンダナの男性のほうに逃げ込む。
「ここが落とされたら困るんだよ!嬢ちゃんには構ってられねぇ、生きたければ死ぬ気で逃げろ!!」
男性が私に怒鳴る。
「ここは戦場なんだって、身を持って学んだ。生きるか死ぬかなんだって。……だから、死ぬ気で行く!」
そういうと、私はレンガ壁を飛び出す。
兵士たちが主に剣で戦っている。その先に銃兵を確認すると私は飛び込んだ。
「もう、これ以上、戦うのはやめて!!!」
叫びながら向けられた銃口を蹴り上げる。夜空に発砲された。
そのまま相手の鳩尾をサバイバルナイフの柄で殴りつける。固い感触。防具。
銃を捨て、小ぶりなナイフで応戦してきた銃兵の切っ先をぎりぎりで避ける。
小さい頃、床に置いた竹刀を足で蹴りあげて手に持っていたら親父に殴られたっけ。
懐かしいことを思い出しながら同じ要領で落ちている銃を蹴り上げ手に取る。
兵士は私の腹部を狙って一歩踏み出す。
前転して兵士の懐に入るとサバイバルナイフの柄で思いっきり喉を突く。
柄とは言えど、殺してしまうかもしれない。構っていられないけど。
兵士は倒れた。生死を確認する勇気はない。兵士が持っていた小型ナイフを拝借するとカーディガンのポケットに入れる。
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