戦災の夜
二水
戦災の夜
鉄条網の張り巡らされた戦場。
廃墟となった建物の一室に、窓の外から見えない角度で座っている二人の少年と少女。
少年の方はあどけなさが残っているような顔つき。
少女の方は恐らく少年よりは年上だろう。凛とした目つきをしている。
二人とも、顔立ち、体のサイズに似合わぬ突撃銃を持っていた。
「はい、今日の食料。あんまり人死ななかったから少なめ」
「ありがとう」
二人は無言で昼に死んだ兵士から奪った携帯食料を口にする。
その間も油断のないよう銃はそばに置いてある。
戦災孤児。
二人が出会ったのはつい二週間ほど前の事だった。
二人とも不運なことに内乱に巻き込まれ、両親を殺された。
蜂の巣になった住居で飢えながら震えていた少年。
死にたくないという意志で戦死者の銃を奪い駆け回っていた少女。
二人が出会ったのは偶然だった。
お互いに名前は名乗ってはいない。
名前は捨てた。否、呼ぶ者がいなくなったから必要がなくなった。
「ごちそうさまでした」
そう言って手を組んで祈る少年。
少女はその様子を見ている。
「……どうして僕を助けたの?」
祈りを終えた少年は少女に訊いた。
少女は銃の手入れをしながら答えた。
「別に。一人よりは二人の方が効率がいいから」
カチャカチャとバラした銃を組み立てていく少女。
内乱が始まってから二週間しか経っていないのにもう手馴れている。
「でも食料も二人分いるし……」
「そう思うなら自分の食料ぐらいは自分で獲ることね」
容赦のない言い方だった。
「……」
「いつまでも私に頼らないで。いつ死ぬかも分からないんだから」
いつ死ぬか分からない戦場。
少女は少年に一人でも強く生きてほしいと願ってわざと距離をとってつらく当たる。
少年は精神面でもまだ成長し切れていないので少女の態度に打ちひしがれている。
銃を組み立て終わるとガシャン!と駆動部を確認して少女はその銃を壁に立てかけた。
「今日はもうこの辺りでは何も起きなさそう。明日も早いからそろそろ寝るわよ」
少女は少年を先に横に寝かすと自分も少年に寄り添う形で寝転がる。
少年は隣に少女がいることで安心してすぐに寝息を立て始めた。
「……」
よごれた少年の髪を優しくなでる少女。
死を目の当たりにする戦場で自分の隣に純粋な命がある。
この少年がいるお陰で少女もまた安心できるのだ。
自分を強く見せてくじけないようにしている一方、少年の傍にいることは少女にとってはわずかの甘えであり、目に見える優しさなのだ。
「おやすみ」
そして少女も眠りにつく。
戦災の夜 二水 @Derijou
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます