プラスチックな恋

韮崎旭

プラスチックな恋

 どこかで雷の音がするのを聞いたように思ったが、本当はそんなものはないのかもしれない。暖かく湿った空気が山にぶつかることで雲が発生してそれが積乱雲で雲の中で氷の粒たちがぶつかり合うから、それによって雲は電気を帯び、彼らは地上へと逃げだしたりしているが、地上には何のいいこともないし、あるいは、地上から空を目指してみたりだとかそういう話も聞く気がしている。君は戦場にいる。とても穏やかな部屋で、精密な作業に従事しながら、空爆をしている。君は死神となずけられた無人爆撃機を操りながら、毎晩のように頭蓋骨の一部を吹き飛ばされた中身が顔に流出している、血が滴る新鮮な負傷者になじられる夢を見て、うなされている。ただ問題なのは、それはヴォルゴグラードへ赴いた君の弟ではないし、白衛軍としてロシア革命を戦った兵士の一人でもなかったということで、ただその血と頭皮と脳などの組織の冠を被った犠牲者の映像は君をぞっとさせる。君は精神科の受診も検討するがそれがおそらくはあまり意味のない偽善的な好意であるような気がして胸がむかついてくる。気味の静穏な戦場は今日も君の一部となって働いている。

 最近めっきり電話線をみませんね。無線なんですか?

 最近滅多に公衆電話をみませんね。ここは上藤原、乗換駅にして終点、君が思う地の果てはこんな風景、その地の果てには土産物屋がいくつかあり、オオサンショウウオの剥製だったりする。最近めっきり増悪したようすですね。なんてこと、好き、凄く好き、不健康な君に全力で恋しよう。明日は呪いが握っているから、墓を掘り返して鬱屈を埋葬しよう。墓埋法を破り捨てたら君が好きだから君の首が冷蔵庫にあればいいけれど、別に好き。それと、後好き。あと気味が悪いし、好き。LSDがまがい物だし、好き。こっちは適正な支払いをしたってのにつかまされたのは小麦粉か塩同然の代物。いずれにせよ調理に使えて超便利、じゃあないんだよ、こっちはコカインに金払ってんだぞ、それでなんだ、お前らが渡してきたものと言ったら、え? これはごみか? 豚の餌か? 貴様の頭はゾンビ未満なのか? そんなあなたが大好きだからいいからものを用意しろ、さもないとお前のかわいい指が底の工場みたいにズタボロにされるぞ、聞いてるのか? 自分の睾丸を生のまま食べさせられるのが嫌なら、え? 言語を合わせろ。チャンネルが足りてない。恋してるんです。君の電波が捕まらない。この手ですべてが知りたいの、なんて嘘、都合の良い思い込み、でもそれでもいいの好きだから、っていう恋愛小説は正直薄気味悪い。早くしないとパクられるぞ、聞いてるのか、聴覚在りますか、お前の指が何だってんだ、既に社会的に落伍者だろうが、何か今さら言うことが果たしてあるだろうか? 倉庫の無断使用が建造物侵入だとか? なあ、もう一方の耳も削ぎ落としてほしいのか? おい、電動ドリル(ホームセンターで3か月前に購入)持ってこい。気が付くとその人物は死にかけていて、私はどこに愛情をむけたらいいのかわからなくなったけど、好きなんです。あなたの死骸が描く文様が愛おしい。だから聞いてみてください。下手だけど練習したラブソング。読めないほど汚い字を矯正して描いたラブレター、私はもう多分死んでみたから死体であることを覗けば欠点零のすばらしさ、だからねえ、こっち向いて? いいからその死体は荒廃した山林にでも捨てて置け。それか、道路に晒しておけ。ちょうどトラックに轢かれる位置にな。臨死どころではない、完全な死亡。すっごく大好き! ねえ、聴いてる? 見てる? 気が付いたなら窓を開けて、蒸し暑い夏の腐ったような空気を向け入れて?

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プラスチックな恋 韮崎旭 @nakaimaizumi

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