最強魔術師の俺、転生したら猫耳幼女!?

赤魔珠乃

喪失編

00話 プロローグ

「飽きたな、死ぬか」


 ただっ広い玉座の間で、青年はぽつりと呟く。

 玉座の間には、彼が座るシンプルな装飾が施された石造りの玉座と、玉座に続く血を思わせる赤いカーペットのみが存在し、他に人の気配はない。


 独りになってどれほどの時間が経っただろうか。

 腹が減ることもなく、歳を取る事もない。

 青年は無限に続く孤独の中で、『次』待ち続ける事に飽きてしまったのだ。


「独りでただ待つだけなのは飽き飽きだ」


 ぽつりと青年は呟く。

 青年は、目を隠すほど伸びた前髪を掻き上げる。

 燃やし尽くした灰の様な色の髪、そして青年が身に纏う無駄なく戦闘用に特化した黒色の服、鍛え抜かれた筋肉から青年がただ者ではないことが伺えた。


「【訂正要求】私がいますのであるじ様は独りではありません」


 青年の耳元で、女性の声らしき合成音声が囁く。

 しかし、声の主らしき人物の姿は見えない。

 青年は前髪を掻き上げた手を、左耳に付けたピアスへと移す。

 彼の瑠璃色の瞳と同じく、豆粒大の瑠璃色の宝石が嵌ったピアスへ語り掛ける。


「いや、アイは他人には含まれないだろ。一心同体、一蓮托生、運命共同体なんだから」

「【理解】もう一人の自分という訳ですね」

「まあ、そんなところだ――それでは、死ぬとするか」


 青年は玉座から立ち上がり、首を回す。


「【確認】死ぬとは、例の魔法術式を行使する。間違いないでしょうか」


 やる気に満ちた彼の出鼻を挫くみたいに、アイと呼ばれた瑠璃色の宝石がはめ込まれたピアスが声をかけた。

 アイはまだ生まれたばかりで、こちらの考えを完璧に予測できるほど成長していない。

 いずれはこちらの思考を先読みして、言わずとも望みを叶えてくれるようになるだろう。

 多少面倒に思いながらも青年は答える。


「……ああそうだ、異次元移動特殊魔法術式。かつては絶えず飛来し、俺を襲ってきていた奴らの移動方法を参考に作成した、あの魔法術式だ」

「【了解】異次元移動特殊魔法術式、発動」


 青年は少し考えて、移動先の条件を口にする。


「魔術が使えればそれでいいか」


 青年の言葉を受け、足元に玉座がすっぽりと入る程度の広さの魔法陣が展開される。

 魔法陣が放つ光が強くなっていき、青年はその光に同化するように足元から空間に溶けていった。



 ――四百年以上前に、青年、日向修ひなたしゅうの命は儚くもあっけなく散った。

 原付バイクで、崖沿いの山道を走行中、突如原付バイクが制御不能となり、ガードレールに突っ込んで崖下に投げ出されたのだ。


 次に意識を取り戻した時、青年を迎えたのはこの玉座の間の世界。

 そして、魔法を駆使して殺し合う、異形の者達だった。

 青年はすぐに身を隠し、考えを巡らし自分が死んだことに至る。

 そうなのだとしたら、ここは地獄なのだと、そう思った。

 異形の者達が殺し合いをする天国など、あってたまるかと。


 それと同時に、青年は魔法に心を惹かれる。

 かつて青年を夢中にした、ゲームを彷彿とさせる、異形の者達による魔法の応酬。

 青年は異形の者達から魔法を見て盗み、精進に励んだ。

 神の思し召しか、はたまた神のいたずらか、嬉しいことに青年には魔法の才能があり、異形の者達よりもずっとうまく、遥か上位で魔法を理解でき、使いこなすことができた。

 その後の四百年以上に渡る殺し合いの結果、青年は体一つ動かすことなく敵を倒せるまでに成長、この玉座の間の世界で圧倒的な支配者として君臨するに至ったのだ。


 ――かくして、再び青年は転生する。

 今度は自らの意思によって。

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