第3話『迫る非日常 2』


ピピッピピッピピッ…………


「ん、んん〜……」


いつもの様にスマホから鳴るアラームを止めて体を起こす

まず顔を洗って目を覚まし、近所のコンビニで買っておいた朝食とコーヒーを手に、BGM代わりのテレビの前に座る


『今日も関東地方は雨模様、お出かけの際は傘を忘れずに持っていきましょう

CMの後はエンタメ情報のコーナーです……』



「今日も雨か……」



6月はそういう時期だということはわかっていても、雨が好きという人は多くは無いだろうと思う

何より洗濯物の乾きが悪いのが気に入らない


日比谷颯太は、このワンルームマンションに1人で暮らしている


母はまだ幼い頃に病気で他界したと聞いている、写真も見たことがないので顔もわからない

父は父で出張が多く家を空けがちだった為、小さい頃は叔父が面倒を見てくれたりしていた

中学に上がる頃から、父は殆ど家に帰ってこなくなり

金と、たまに手紙を寄越すくらいで

半年に1度会うか会わないかだった


1人は嫌いではなかったし、金に困ることもなかった

その頃始めたボクシングも、多少の寂しさのまぎらわし程度にやり始めたものだった


その父が飛行機の事故で亡くなったのは去年の事

殆ど会わなかったとはいえ流石に堪えた


叔父は一緒に暮らそうと言ってくれたが気乗りはしなかった

ならばと、叔父の家からそう遠くないところにある聖徳学園への転入を勧められた


住む家も世話してくれたし、ちょくちょく様子を見に来てくれるし感謝している


家賃だ何だは、父の残した貯金と多額の保険金があった為

高校を卒業しても少しの間は大丈夫

勿論将来を考えると贅沢は出来ないので、週に何度かのアルバイトもしているという状況だ



ヴヴヴッ……


スマホが振動し、メールの着信を知らせる



『今度の土曜に顔を出すよ、何か居るものはあるか?』



叔父からのメールだった



『今は特にないよ、ありがとう  待ってるよ』



と返信し、制服に袖を通し身支度を整える


今日は木曜、あまり物がない部屋だが

明日はアルバイトがあるから

帰ったら掃除をしておこう


そんな事を考えながら、傘を持って家を出た




*****




2限目が終わったあと、天ヶ瀬が帰り支度をして教室を出ていくのが見えた


見るともなしに眺めていると



「今日は用事があって早退だってさ、先生が言ってたよ」



別に頼んでもいないのに、委員長が説明する様に声をかけてきた



「ふーん、そうなの」


「なになに?日比谷くんて天ヶ瀬さんみたいな子がタイプ?

まぁー可愛いもんねー、密かに男子人気高いんだよ

小柄で美人で方言だよ!方言だよ!」


「そんなんじゃないよ、てかなんで2回言ったし」


「だって方言可愛いじゃない!

たまに出る関西弁のイントネーションが萌えポイント高しっ!」


「委員長が方言萌えなのはよっくわかった

気になるってほどでもないけど、同じ転入生だしなんとなくね」


「そういう事にしといてやろう、ウッシッシ」



ニヤけた笑いで勝手に納得しているが、面倒なのでスルーする事にした



その後も何事もなく時間は過ぎ下校時刻になった

雨は降り止まず強まっていく

急ぐ用事もないし少し教室で時間を潰し様子を見ることにする

時間を潰すと言っても寝るしかすることもないので、30分後にスマホのアラームをセットし机に突っ伏した

遠くに聞こえるブラスバンドの音色が心地よかった




すっかり眠ってしまったせいで、誰も居なくなった教室に人影が忍び寄ってくるのを気付く事はできなかった

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