彼女は雨の日に傘をささない

@akira-take

第1話プロローグ



ピピッピピッピピッ…………


「んあ……ふぁ〜……」



スマートフォンから鳴るアラームの音で目を覚ました男は

のそりと起き上がりテレビをつけた

夕方に近いこの時間、特に面白い番組もなく

普段通りとりあえず付けただけのBGM代わりの映像を見ることもせず、そのまま顔を洗いにベッドから離れた


眠りから起きた後は決まってコーヒーを入れる

買い置きしておいたサンドイッチとコーヒーを持って戻った

テレビでは、昨日発生した事件か何かの話をしているらしい映像の中に、見慣れた店と通ることのある路地が映されていた



「うわぁ、近えじゃん」



サンドイッチを食べ終え、コーヒーを飲みながらスマホを手に取りいつものSNSを開くと

その事件の話が断片的にタイムラインに流れている


まぁ自分には関係ないか と画面を戻し

支度を済ませアルバイトに行くために外へ出た



「あぁ、振りそうだな……」



傘を取りに戻り、通い慣れた道を歩き始めた




*****




「日比谷くん、もうあがっていいよ」


「うっす、お疲れ様でした」



時刻は21:30をすぎた頃


着替えを済ませ店を出ると、夕方から降り始めた雨は強さを増し

傘をさしていても、自宅近くにあるコンビニへと着いたときには

ズボンの裾も履きなれたスニーカーもぐっしょり濡れていた


げんなりする気持ちを引きずりながら買い物を済ませ少し歩くと、ニュースでやっていた路地に差し掛かる

若干だがここを通れば近道になるが、今日は流石にやめておこうかと思案していると

1人の人影がその路地へ吸い込まれるように入っていく



「ニュース見てなかったのか?ったく……」



パッと見が小柄であったため、もし女性1人なら止めてやった方がいいだろうと思い角を曲がったが

もうそこに人影はない

建物の間にある路地で、向こうの通りに出るまで曲がり角のない道なのだが……



「っかしいな……気のせいか?」



それならそれでいいかと、特に気に止めることもなく帰路についた





*****




「なんやあいつ、えらい感のええやつやな…それとも偶然か?」



ダストボックスの影から立ち上がったのは

レインコートのフードを目深に被った少女だった

ザッと一瞬のノイズのあと、イヤホンから声が聞こえる



「どうした、なにか問題か?」



監視対象が路地の奥の通り沿いにあるマンションへ入っていくのを確認し



「いいや、何もないよ

対象はもうすぐ家に着くとこや、あとはそっちに引き継ぐよ」


「了解した」



また一瞬のノイズがあり通信は切れた



「日比谷 颯太(ひびや そうた)か……

うちがこっちに来る必要、ほんまにあったんかな」



そう独りごちた少女は、颯太がマンション入ったのを確認してから背を向け去っていった

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