ミカサの領域へ


 今回のビスマルク戦で西雲春南(にしぐも・はるな)に対する評価が変わった。単純にジャイアントキリング的な存在だったのが、上位ランカーに肩を並べる程の実力者へと変化したのである。


「これが――動画の影響力か」


「動画1本だけで、ここまで人気を上げるなんて――ミカサの再来か?」


「むしろ、一部勢力だけが盛り上がるミカサの方が時代遅れな気配もするな」


「分からないぞ。炎上勢力が逆に西雲を利用することだってあり得る」


「SNSテロに悪用されると言う事であれば、ミカサも同じだろう。つまり、誰がトップだったとしても――変わりないという事だ」


 先ほどの中継の録画を見ていたギャラリーからは、そんな言葉が飛び出した。結局、人気の移り変わりと言うのは、こう言う物なのかもしれない。


【しかし、ミカサを上回るような人気が出るとは思えない】


【ミカサに便乗しようと言うのが納得できない】


【炎上させて、ミカサがいかに偉大かを知らしめる必要があるな】


【ランダムフィールドではミカサが頂点であり、それを打ち破ろうと言う存在は許せない】


【ミカサこそ絶対神であり、唯一神なのだ】


 やはりというか、西雲を炎上させようと言うSNSテロが――と一般人は思うだろう。


 しかし、これが超有名アイドルの使用していたコンテンツ炎上を利用してのライバル潰しだったのである。


 この手法を未だに使う芸能事務所があったとは、と思われがちだが、おそらくは地下アイドルファンがノウハウをリサイクルしているのかもしれない。



 これがミカサがいる領域と同じ場所に立つという事かもしれない。人気が上昇する事により、アンチ勢力等に炎上のターゲットとされる。


 有名アスリートや芸能人、歌い手、実況者、バーチャル動画投稿者等でも炎上するのは――ネット上では常識となっていた。


 ネット炎上は正義ではない、自分は正義としてやっているような行為だったとしても、無関係な第3者を巻き込んで炎上させるのは正義とは言えない。


 晒し上げ、アンチ活動、コンテンツ炎上狙いのマッチポンプ――彼らは自分達が正しい事をやっているように見えても、本当に正義の行動であれば炎上はしないはずだ。


 その行為をネット炎上に見せる為のSNS版フラッシュモブがいるかもしれないが、それはどうでもいいだろう。


 ARゲームが炎上する理由は様々ある。負けた腹いせや八つ当たり、他のライバルコンテンツを持ち上げる為に人気を下げようとする炎上行為――こうした事はSNSテロと変わりない。


 だからこそ、この状況を改善させようと立ち上がった人物がいる。それが、ミカサだったのだ。


 ミカサの領域に立つという事は、ネット炎上勢力を完全駆逐する事を意味している。それが、すぐに決着すような案件ではなくても――いつかかえられるはずだろう。


【コンテンツ流通にネット炎上は不要であること、その意味を――彼らは知る】


 このメッセージは、端的にネット炎上と言う行動自体が悲劇の連鎖を生み出し、SNSテロを起こし、それが流血のシナリオとなる事を避けるために生まれた――と言ってもいい。


 ライバルコンテンツがあり、頂点を目指すのに切磋琢磨するのは悪くない。ファン同士で意見の相違が出る――それは仕方のないことだ。


 しかし、SNSテロはARゲームでは禁止しているデスゲームへと発展する事が懸念されている負の側面と言える物である。


「ミカサの領域に立つ事――その資格があるのか、試す時がくるかもしれないだろうな」


 あるサイトをノートパソコンでチェックしていたのは、先ほどまで動画をチェックしていた長渡天夜(ながと・てんや)だ。


 彼は、ミカサに関しての正体もある程度分かった上で泳がせている。そして、密かに炎上勢力を摘発する為に大きなトラップを用意していた。


「あの出版社が例の部分を知っている以上、やはり――」


 出版社が一連のマッチポンプに関する仕掛け人を知っている可能性がある以上、長渡はこれ以上の引き延ばしは危険と判断している。


「自分は既に正体を晒したような物だ。しかし、向こうは自分から話すのを待つべきか――」


 ミカサの正体、それは既にSNS上では憶測記事が出回っている。


 しかし、ミカサが沈黙を貫いている以上、どうしようもないのは事実だ。


「あの領域に立った以上、向こうの出方待ちしか――ないのか」


 結局、ミカサに正体を明らかにするように呼び掛ける方法も考えたのだが、それを断念する事に。


 下手に燃料を提供すれば、炎上の規模は大きくなる。それに、芸能事務所等にネタを提供するのも――今のタイミングでは避けたい。


 それこそ、テレビ局もオケアノスの危険性を大きく取り上げ――超有名アイドルしかコンテンツとして売れない日本を生み出す危険だってある。

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