予想外の展開へ
黒騎士ナガト、その正体を探るという意味でもフレスヴェルクはランダムフィールド・パルクールへ参戦する。しかし、最初のプレイでは気付かない内に身体が勝手に動き――思わぬ方向で目立つ結果となった。
「これはまずいな――」
プレイ結果を見て、そのスコアに驚いたのは自分である。1位通過をしてしまったのだ。他のプレイヤーはレベル10を超える辺りのメンバーがいたので、向こうが油断していたと考えるのも悪くないが――ネット上は、祭りになっているだろう。
【あのプレイヤー、本当に初心者か?】
【サブアカウントの所持は禁止されている以上、初心者だろう】
【しかし、ビスマルクの様な事例もある。プロのパルクールプレイヤーと言う可能性だってあるだろうな】
他にも様々なコメントがあったが、フレスヴェルクの目に入ったのはこの位だ。これだけの反応があった以上は別の勢力が動きだしても不思議ではないだろう。そうなっては、失敗も同然なのだ。
今回の依頼はあまり周囲に騒がれない範囲で動くことが前提となっている。最近になって動き始めたヴェルダンディ等も――敵になるかもしれない。
「下手に別勢力に反応されて対策をされた場合――」
彼にとっては頭の痛い案件とも言えるだろう。ARゲームを炎上前に終了させるという目的――それを達成させる為にも、有名プレイヤーに気付かれてはいけないのだ。
気付かれてしまうと――対策以前に妨害を仕掛けてくるかもしれない。さすがに暗殺や実力行使はないと思うが――ARゲーム内で仕掛けてくる事は否定できないだろう。
「仕方がない――もう一度、プレイして様子を見てみるか」
2回目のプレイでは手抜き過ぎても怪我をする危険性がある為、先ほどよりは力を抑えてのプレイに専念した。その結果、今回は3位――加減をしないで1位だったので、おおよそのパワーセーブのやり方は覚えたかもしれない。
午前11時30分、草加駅近くのアンテナショップ――そこでは様々なARゲームのサプライやグッズ、ARガジェットのレンタルなども行われている。
店の広さはコンビニと同じ位だが――数十人程の客がARゲームのエントリーで行列を作っていた。
ARゲームのジャンルによっては1時間待ちもザラだが、ここに限ってはゲーム個別のアカウントではなく総合的なアカウント登録代行である。
ゲーム別のデータを作ったとしても、メインアカウントとも言えるこれがなければ――ARゲームをプレイできない。このアカウントがあればゲーム別データの作成も楽になると言う事で、こちらを先に取得するプレイヤーが多いのだ。
どうしても他のゲームはプレイしないので、総合アカウントは不要――と言う訳にはいかない。自動的にアカウントは作成される為である。
「30分待ち? 別の所でもエントリーは出来るようだが――」
周囲の客層を見ると、明らかに彼だけが浮きそうなバハムートが何故かアンテナショップの入り口で待機していた。店外にまで行列が出来ていたので、最後尾に並んだのだが――まだ時間がかかりそうだとスタッフは言う。
「そこの君、もしかして――?」
最後尾の状況も変化しそうにないと考え、別のショップへ向かおうとしていた彼に声をかける人物が――。
そして、バハムートが後ろを振り向くと、そこには一人の背広姿の男性がいたのである。
周囲のギャラリーがざわめきだしたので、もしかすると有名人なのか――とバハムートは思うが、若干身構えて様子を見ようとした。
「そこまで警戒する必要はない。君がプレイしたいゲームは?」
「ランダムフィールド・パルクールだ」
「それならば、ここではなく別の場所で登録が可能だろう。君が望むなら、そこまで案内してもいいが――」
彼の言う事も一理あるので、その場所まで案内してもらう事にした。不審者であれば、周囲のギャラリーが通報しているはずだろう。それも特にないという事は――彼が有名人なのかもしれない。
【まさかの人物を見かけるとは】
【こっちだって予想外だ】
【長渡――彼が、草加駅に現れるとは】
【長渡? まさか?】
【黒騎士ナガトも、確か――】
【まさか、長渡が黒騎士だと思っているのか?】
【ソレはあり得ないだろう。彼はARゲームの生みの親に近い人物だぞ。それが、炎上商法まがいの事を――】
長渡天夜(ながと・てんや)、その彼が草加駅に出没した事はネット上でも大きなホットワードとなって拡散していく。しかし、バハムートは長渡の事を全く知らなかったので――道案内をしてくれた人位にしか認識していない。
その一方で、フレスヴェルクの動画を見て衝撃を受けた人物がいた。それは、自宅で調べ物をしていた西雲春南(にしぐも・はるな)である。
驚いた動画の内容とは――彼が初見プレイで見せたアクションや反応速度と言った物。明らかにアマチュアレベルでは収まらない。
「彼もビスマルクと同じく――プロアスリートなの?」
フレスヴェルクと言う名称に関しては聞き覚えがなく、何の種目を得意としているかもわからない。しかし、プロのパルクールプレイヤーと言うとビスマルクやバハムートの印象が強いのだが、そちらと比べてると見劣りはする。
一体、彼は何のアスリートなのか? 反応速度的な意味では、格闘家が該当しそうだが――それでは機動力の理由にならない。
「パルクールではパワーは求められない以上、彼は――?」
1位を取った動画の後で、2回目のプレイ動画を続いて視聴するのだが――そこで彼女は違和感を持つ。初見プレイと同じコースを走っているのだが、速度は――2回目の方が遅く感じる。
スタミナを初見で消費したと言うには何かがおかしい。アスリートがペース配分をミスするのだろうか?
結局、彼が実は加減をしていた事を見破る事は出来なかった。手加減をしてARゲームをプレイしようと言うのであれば、怪我をするのは自分も分かっているから。
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