事情


 ダイイングメッセージを残した戦士が目を覚ました。


「こ、ここは……」


「いえ……その、しがない、なんの変哲もないギルトですけど」


「そ、そうだ! あの宝石……リーダル・セイは!?」


 バッと起き上がって、あたりを見渡す。


「あっ……これのこと?」


 ニーナが、お手玉しながら尋ねる。


「な、なんてことを……それをよこせ!」


 ひょい。


             ・・・


「よこせ!」


 ひょい。


「……なんでよこさない!」


 戦士は怒っている。


「ねえ、これにいくら出すの?」


「なっ……これは俺のものだ! なんで俺が自分のものに金を出すんだ!?」


「フフフ……違うわね! これは私のものよ!」


 ビシッと酔っぱらい女は言い放つ。


「な……」


「いい? あなたは、このギルドに入って、この宝石を私に譲渡した。そして、一度は息を引き取った。法律的にも、あなたがこの宝石の所有者ではないことは明々白々の事実」


 いや……宝石もらったの、俺だけどな。


「……ぐぎぎぎぎっ」


 とにかく、暴力行為に訴える気はないのか、戦士の男は歯を食いしばっている。


「た、頼む。これを返してくれないか。それは、俺の弟の形見なんだ」


 か、形見か。


「ニーナ、返してやれ――「嘘つきなさい!」


 ……てめえの人間性ゾンビ並みに腐ってんな!


「う、嘘などとっ……侮辱するか!?」


 誠実な戦士に見えたが、さすがにキレそうになっている。今にも、その剣を抜いて抜刀しそうである。


「まあまあ、ニーナちゃん、そこの戦士さんも落ち着いてくださいな。まずは、朝ご飯をみんなで一緒に食べましょう? ねえ、そうしましょう?」


「朝ご飯なんて食ってる場合じゃない!」


 ど、怒号。相当に切羽詰まっているな。


「……そうよね。ごめんなさい。私、気が利かなくて……ぐすん」


 テレサさんが半べそをかきながら、朝食の片づけをし出した。


 ま、まあ可哀そうだけど、状況が状況だしな。


「あんた……テレサさんに謝りなさいよ!」


 ニーナ、激怒!


「な、なんで俺が!」


「誰があなたを瀕死状態から救ったと思ってんのよ!? ここにいるシスターテレサさんがあなたに蘇生魔法をかけたからでしょう?」


「……そ、それは」


「それをなに!? 蘇生したら何事もないようにふるまうんですか!? 生き返ったらもう終わりですか!? 命の恩人に怒鳴り散らして、あんたそれでも人の子ですか!?」


 せ、正論……


「に、ニーナちゃん……いいのよ。ママがいけないのよ……エへッ、もう大丈夫だから」


「……ごめんなさい」


 ふ、深々と戦士が謝った。


「いえ……そんなことより、朝ご飯食べて行ってくださいな。私、ホットケーキには自信、あるんですよ」


「……いや……でも……はい」


 いろいろ言いたそうな表情を浮かべながら、戦士は頷いた。


               ・・・

















 そして、朝ご飯中に、魔王の刺客が、現れた。 





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