第8話 嘘の若獅子の夢は紡がれる①
「よう!ヤマタケ。散々だったな。お前が死ぬという最悪のパターンだけは回避できてよかったぜ。」
俺は息も絶え絶えのボコボコにやられた姿のヤマタケと気絶しているジロキチを交互に見ながら感想を述べてやる。ユイ女神バージョンがいなくなってしまったことで術が解けてしまったのだ。
「その子が乱咲が新しく部下にした子供かい?」
マカベには電報で伝えておいた。この世界はネット環境はないが電報を送れるくらいには技術がある。こんな田舎村を指定していたのも、電報が普及されたばかりなのを知っていたからこそ選んだ。ユイ(仮)に伝達手段を与えないために。あいつらに何か細工ををされ俺の存在が知らされる可能性があったからだ。
流石に考えすぎかとも思ったが。
「いいや。この結果であれば配下レベルがいいとこだろ。マカベ俺のことはこれからシンドウと呼べ。そして神藤結のことはそのままユイでいい。マカベにはユイの目が覚めるまで介護を頼みたいんだがいいか?」
愛華紅姫は技術者であり戦闘力も人間としてはトップクラスである。俺の仲間である。それにしてもあの可愛かった後輩のマカベが今では大人の魅力的な女性となっていようとは。26歳か姉御と呼びたくなるカッコイイ雰囲気を出している。
「初めからそのつもりだよ。それにしてもシンドウと呼べねぇ~。どれだけこの子のこと守りたいんだよナイト君。愛は人のこと変えるもんだね。..プクッ..。」
いややっぱりなにも変わってない。あのくそ生意気な後輩のままだ。今度仕返ししてやるから覚悟しとけよこんにゃろう。シンドウと名乗るのには理由がある。そもそも乱咲という名前の人間はこの場に存在しない偽名だ。フェイクとしてあいつらに植え付けておくための名前だ。だが記憶を覗かれたユイは別だ、確実にばれているだろう。だからこそバレた時のため俺が名乗り標的とさせる。ちなみに神藤の記憶から俺達の情報がバレる可能性はない。ユイには悪いが細工をさせて貰った。
近いうち女神が落とされたことに気づかれてしまうだろうからな。それまでに戦力を整えねばならない。
「ユイは計画に今後も賛同するだろうが、マカベはどうする。12年の間に気が変わったなら降りても構わんが。」
12年で変わってしまったこともあるだろう。仲間だからこそマカベには選択権を与えなければならない。
これだけは嘘にしてはいけないことだ。
「結婚でもして家庭でも築いていたら迷うとこなんだろうが、生憎研究と自己鍛錬にしか興味がないくね、シンドウが楽しませてくれるなら今後も協力するよ。それと愛しのユイ先輩が戻って来てくれたのだから。」
俺はマカベという人間が苦手だ。仲間になった経緯もユイが絡んでのことだったため、不承不承認めるしかなかった。こいつ学園に居た時からユイを尊敬..いや崇めてたからな。
「んじゃこれからもよろしくマカベ、別の連絡手段を用意してくれ。..いや用意はしてくれているんだろ。ほぼ無一文なんだ。くれ。」
流石に毎回村の電報を使うのは面倒だ。
「ユイ先輩の貞操を譲ってくれるならあげてもいいですよ。....先輩。」
俺の中でふつふつとした。悪鬼が目覚めるかのような怒りが湧き出した。たとえマカベでも容赦はしないだからこそ。
「ユイに手を出したらお前に地獄でも拝めない最低のショーを体験させてやるが構わないな。」
俺は無表情でマカベに語りかける。そんなことをしたら俺はたとえ仲間であっても許す気はない。
「!?...ごめんな..冗談ですよ冗談。先輩がいやシンドウが変わってしまっていないか鎌をかけただけですよ。怒らないでくださいよ。」
謝罪を受けた後、やはりこちらの世界でも同じか、ケータイなるものを渡してくる。
「盗聴の危険性はどれくらいある?」
いくら便利でもそこが疎かになってしまったら意味がない。
「危険性は0とはいかないね。でも電報より安全だよ。私より頭がいいやつがハッキングでもしたら悪いが無理だ。」
そうかなら大丈夫だ、ハッキングできるやつが仮に敵対勢力に大勢いて無差別に傍受したら。あきらめるしかないが、このケータイはおそらく多く普及されているだろう。ならば俺のケータイを特定させなければいい。それにマカベより頭がいい人間は当然いるだろうが多くはいないはずだ。
「わかった。この連絡手段の道具、俺はケータイと呼ぶ。直近これを3つ用意してくれ。以後必要な分の確保を頼む。資金は昔のを使ってくれ。足りなければ用意するが立て替えといてくれ。」
昔俺たちが調達した資金がどれくらいあるかはわからない。すべてマカベに預けたからな。研究に使ってもらい戦うためのインフラを整えて貰わねばならん。
「ケータイね。分かったわ。ではユイを連れて行くわね。目が覚めたら連絡するわ。」
「よろしく頼む。俺はこの村を救うことを決めてしまったからな。後で合流しよう。」
マカベはまた自分が開発した戦闘用兵器で飛んでいってしまった。
「おい、いつまで寝こけていやがる起きやがれ!クソジジィ!」
こうして俺の異世界に来てから初めての嘘で救う物語が始まる。
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