第6話 嘘で始まり終わる世界⑤

「さーて邪魔者ヤマタケもいなくなったしデートでもしようぜユイ」


「シンドウさんの切り替えの早さは異常ですよ。勝負の最中ですよね。」


 そうヤマタケを空間魔術内に放り投げ、村の散策を開始したのである。俺達のこの村での目的は別にある。忘れてたわけじゃないからな。


「心配ですよ私はヤマタケ君が廃人になってしまわないか。それと食べ物や水どうするんですか?私達無一文ですよね。」


 そういえば殺されてから何も食べてないな。そろそろ食事にしたい。俺は懐から財布を取り出す。まぁ1か月は困らないんじゃないかな。そしてユイ勝負の本質は気づいてるだろうが、お前の考えるような結果にはならんぞ。


「おそらく日本円計算で5万円はあるから問題ないぞ。まずは勝負に必要となる物から買うか」


「なんでシンドウさんこちらのお金持ってるんですか?あのクズの財布ですかね。」


 まずいなユイはストレスが溜まりすぎているのか。毒を吐くのがデフォルト化してきているな。かわいさが半減してしまう。これは由々しき問題だ。


「違うぞ、人をひったくりみたいに言うのはやめろ。持ってたアイフォンを高値で売りつけたんだよ。充電器もないし電波も入らん。こちらの世界では不要だろうと思ってな。」


 だから何回も言うが俺は残虐非道..以下略


「ごめんなさいシンドウさん、そんな子悪党みたいな真似しませんよね。やるとしたらもっと相手に深い精神的な傷をつけて骨の髄までしゃぶりつくすのがシンドウさんでしたね。どんな風に脅してアイフォン売ったんですか?...イタイイタイやめてぐりぐりしないで~世界的な財産にもなりうる私の脳が機能しなくなります。」


 頭をぐりぐりしながら反省させようとしたら、今度は自画自賛とはやるなユイ。誰だよ純情だったユイをこんな風にしてしまったのは。マカベのせいだな。あいつはゆるさないぞ~。


 じゃれてる間に売店に着いた。こんな会話をしながらも人目のつかないコースを通ってきた。


「買い物は俺がする。ユイは地球での俺の姿を思い出しながらシンドウと話しかけてくれ」


 俺はここに来て初めて使うことにした異能力を。


「シンドウさん!」


 俺の姿が28歳の姿に変わる。

 これで売店にいっても怪しまれないだろう。


「まさかこんな形で使うと思いませんでしたよ。折角の異能力ですよ!オッサンに戻るのが初回の使い方って!!...いや2度目か。」


 そう2度目だ。ユイ女神バージョンの時、暴かれた能力が付与された時点で発動した。これは賭けでもあったが成功してよかった。記憶を取り戻し神藤結の偽の嘘の記憶改ざんを嘘を暴く能力で解除した。

 流石にあいつらはここまでを看破はできなかったようだ。


「いやいや別の方法もあるにはあるが、これが一番楽だか..」


「シンドウさんの29歳の姿..フフこれはこれで改めてみると素敵なオジサマって感じ..ひゃい!」


 チョップでユイが変な属性に目覚める前に思考をシャットアウトさせてやる。ひゃいってなんかM気質も付いていそうで怖くなる。


「入るぞ、おとなしくしてろよ。」


「言うこと聞かない子供を相手してるみたいに言わないでくださいよ!」


 店内に入ると昔の家屋を思わせる畳式で落ち着く空間が広がっている。

 少し大きなスーパーはあったのだが、よそ者がいくと目立つだろうと思い避けた。


「いらっしゃい~。見ない顔ね。別の村の人?」


 やはり婆さんか、ほんとに爺婆しか居ねぇな。


「はい私は、この村のジロキチの孫のロウチと申します。以後お見知りいただければ幸いです。」

 俺は営業スマイルで話かけながらプライベートスペースにぐいぐいと入っていく。

 プライベートスペースは簡単に言うと、人が誰でも持つこの人であれば大丈夫と思う人だけ入れるスペースのこと。家族であれば背後に立たれようがそんなに気にしないが、赤の他人だとそうじゃない。そういうことだ。


「ジロキチさんとこのロウチ君かい!話はよく聞くよ!都会で頑張って働きワシにお土産を送ってくれると自慢げに話すのよ~ジロちゃんは。耳にタコができそうだったわ。」


「いや~お恥ずかしいところお見せしてしまっているようですね。もうじいちゃんってば!」


 完全にプライベートスペースに入りこみ会話を噛み合わせる。


「いつ帰ってきたんだい!ジロちゃんにはあったのかい?」


「じいちゃんにはさっき会ってきました。いや嬉しそうにしてくて、祝杯じゃと言いながら隣の村まで上手い銘酒があるそうで駆けていってしまいました。下手気に1か月は滞在する言ってしまったのがまずかったですね。となりの村に買いにいったのなら1週間は帰ってこれないんじゃないか?ハハァ」


「あの人考えず手が出るとか、本能の赴くまま動くそんなタイプだから気にしなくてもいいわよ。ロウチ君は今日はどこか泊まるとこ決めたりしてる?」


「はい、そこはしっかりしてるのか、このメモのかいてあるじいちゃん行き付けの居酒屋の店に行けと、話は通してあるとのことで問題ないです。」


「そうかい、んじゃ滞在期間は短いかもしれないけど楽しんでいってね。」


 本当にこういう店のおばちゃんはどこの世界に言ってもおしゃべりだな。疲れることこの上ない。


「はい。ついついおばちゃんのお話が面白くって忘れるところだった。日用品としてタオルと食糧とお水を1週間分ほど欲しいのですがいいですかね?」


「ジロちゃんの孫とは思えないほどよくできたお孫さんね~ジロちゃんに付けとくからはい持って行って。おまけにこれ飴あげるわね。そこの娘さんはロウチ君の娘さんかな?美人でうらやましいわ~」


「うわ~ユイすごくうれしい。おばちゃんありがとね。大事に..大事に食べるね。」


 やばいユイのHPがごっそり持っていかれている!これがおばちゃんの真の強さか!やばい笑をかみ殺すのが辛い。そしてユイ、足を踏むのはやめてくれ。


「ではありがとうございます。じいちゃんには帰ってきたら伝えておきます。」


 そして店を去る俺達、人目がないとこに移動した瞬間。


「あのお婆さんはなにを言ってたのかしらね~私がシンドウさんの娘だなんて。屈辱やら憤怒やらいろんな感情がうごめいているわ。どうしたらいいと思う」


 あらら..ユイさん額に青筋が浮かんでいらっしゃる。違う違う営業モードは終わりだ。


「飴でもなめて元気だせよ。..痛い足を踏むのはやめろ」


「はぁ~まぁいいわ。これで勝負に関しての問題は解決ね、詐欺師さん」


 まだ怒っているだろ間違いなく。


「少なくともお金は払う気はあったんだが、断るほうが怪しまれそうだったからな。後からこっそり封筒に入れてポストに入れておくさ。」


「それもだけどロウチって誰だよって感じでしたよ。捕まえる前に聞き出したのね。全く抜かりがないというか、やはり狡猾よね。どこまで計算していることやら。」


 こうして勝負の第一段階はクリアした。


 疲れたから。冗談のつもりだったんだが、ユイとデートでもして気を紛らわせようかな。

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