第2話 嘘で始まり終わる世界①

「ここはどの辺りなんだ女神様よぉ〜」


 あぁ〜この空気、この俺を追放しやがった世界。懐かしいぜ。12年ぶりか、死ぬ前に戻ってこれてよかったな。


「誰が女神様ですか!全部乱咲さんが仕組んだことなんですよね!私の12年間を返しなさいよ!」


いいじゃねーかよ、あの頃と姿は同じ綺麗なままだぜ。俺なんてオッサンに…あれ?姿戻ってるな。12年前と同じ?」


 あいつらに記憶改変され地球に飛ばされた俺は12年もの月日を過ごした。楽しくもあったんだが…

 やり残したことはいずれ戻ればよい。


「なぜ頭が悪い意味でそんなに回るのに、こういう所は抜けてるんだか…。私達が受けた制約のせいだと言っても覚えてないのですかね。呪と言えばいいのかしら簡単に言うとね。私は優秀でしたから世界の守護役になり、確か乱咲さんは殺しても死にそうにないからもう追放すればいいんじゃね?ってノリで地球へ飛ばされたんでしたかね、確か。」


 流石に俺でも殺されたら死ぬぞ。…まぁ今までの行いを考えればそう考えられても仕方ないけどな。


「呪いはもう解けているようですね。その影響だと思えばいいんじゃないですか。」


「流石!学園トップの秀才だぜ。教え方が俺向け過ぎて愛すら感じるなぁーおい!」


 神藤はバカにしてるわけではないのだ。俺ならおそらくこれくらいのヒントで解答に辿りつけるだろうと考えられている。実際は分かりはしたが、絶対に仕返し成分が含まれてやがるな。


「はぁ〜。乱咲さんこれからの行動方針として、また計画を続行するということでいいのでしょうか?」


「乱咲ではない俺の名前は、これからシンドウだ。そしてお前の名前はユイでいいだろう。計画は続行だ。当たり前のことを聞くんじゃない。」


 俺の復讐は終わらない必ず達成させる。地球でぬるま湯に浸かってしまっていようと変わらない。


「名前を変える理由は分かるんですが、なんでシンドウでユイなの?私の名前がフル活用されてるのだけど。」


「えっそんなの決まってんだろ。お前の苗字で呼ばれたいという俺の心の表れだよ。…何言わせやがるんだ。」


 まぁそんなことは全く思ってないがな。単にさっきの仕返しだ。よくあるだろ好きな子を虐めたくなるそんな嫌がらせだよ。


「…へぇ!本当にいい性格してますよねシンドウさんは。先ほどの仕返しというところでしょ。つくづく惚れ惚れするくらい好きですよそういうところ。」


「あぁ〜ユイのそういう反応を見るのは堪らなく好きだよ。あっ俺別にユイのこと恋愛対象として1パーセントも見てないから勘違いするなよ。」


 こんなに和気藹々と話してるが、俺好きな人は別にいるからユイのことこれっぽっちも惹かれないんだわ


「そんな!シンドウさん!なんでですか!私のこと嫌いになっちゃったんですか。それとも...」


 こわい!こわいな~からかい過ぎたかな、マジで殺されそうだ。反省反省。しかもシンドウってとこも律儀だね〜


「いや〜あの堅物のユイが昔に戻ってしまったのかと思ったんだよ。すまんすまん。確認のためだったんだよ。お前は仲間のユイだということは間違いない。」


 かつての仲間の代わり映えのなさに安心しながら。話を有耶無耶にする。


「純情を以て遊ばないと、仲間の確認もできないのかしら!」


 若干涙を浮かべながら抗議してくる。ユイを見ながら俺は行動方針を確定させた。


「ユイあの化物はどこに捕まったか、思い出せるか?」


 俺を地球で殺したやつだ。


「マカベなら逃走中よ。はぁ〜私が女神だった時失態を犯し地球に逃げられ、そして地球人を殺して、こっちの世界にまた逃げられたわ。もしバレてたらその一件だけでも女神を落とされるとこだったのよ..全くもう...。」


 ユイのテンションが駄々下がりしている。なんとかしてやらんとな。


「仕方ないさユイ、お前がバカにしていたあのお調子者よりユイが完全に劣っていただけさ。なぁに次会った時に半殺しにするの手伝ってやるよ。俺がいて良かったな。」


 営業スマイルでこの素晴らしい俺もユイも得する提案を出してやる。仲間想いだな俺


「シンドウさんそれ慰めてないですからね。あなたの場合本心でそれが慰めになると思ってるところが嫌いなんですよ私。」


 こんなにも反逆心を揺さぶられつつ俺と組んで憎き相手と共闘ができる。これほど素晴らしい慰めはないと思うがな。挑発し過ぎた点はあったかな。


「まぁいいわ、その提案には乗るとしてどうやってマカベを捕まえるの?マカベの友人でも家族でも捕まえて人質にでもする?」


 よくそんな残酷な方法思いつくな〜これだからユイは好きになれない。


「引くわ〜思考回路ぶっ飛んでんじゃないのか?そんな卑劣なやり方はしないぞ。…そうだな近くの町へ行きマカベの秘密を一つ吹聴する。そしてまた別の町でマカベの秘密を吹聴する。大事なことは秘密の重要性を始めは低くしてから高くする。そうすれば全て言い終える前に自分から出てくるだろ。俺は町を探検できるし、マカベは向こうから会いに来てくれる。一石二鳥だな。」


「…シンドウさんだから友達少ないんですよ。確かに卑劣ではないけど狡猾すぎますよ。はぁ〜否定はするけどその作戦の方が好きなので賛成でお願いしますね。」


 狡猾は言いすぎだと思う。優しい提案をしたと思うのだが?


「んじゃ行動方針は決まったな。最初の質問に戻るがユイここはどこなんだ?」


 悪いが俺は土地勘も興味もない。こういう時は頼るしかない。


「そうねここは…萩原草原よ。草原の中心地点のやや左寄りであなたが向いてるのが南東よ。」


 どうやったらそんなことがすぐ分かるんだ?回答を得てもガリ勉のユイだ、そういうことだろう。

 頭の中でおおよその現在地と目的地を決める。


「北東側に確か雪見村があったはずだ、まずそこにいき、さらに北に向かい立花村へ向かおう。まだ村が存続していればの話だが。」


 この12年でどう代わり映えしたのか分からないからな。ちなみに地球で過ごしてこちらに帰り姿が戻ったのは時間が戻ったのではない。俺という存在がこの世界では17歳であるという概念を受け継いでるからだ。

 環境毎に生態系というのは変わるもので、こちらの場合17歳の時点で止まっていたというべきかな。

 正直言う全く意味がわからんよ俺も、だから理屈的でないことは嫌いだ。


「そんな廃れた村ではなかったはずだから存続はしてると思うわよ。地球と違って限界集落のような場所はこの世界少ないもの。」


 限界集落ねぇ〜まぁガキが田舎出て都会に行きたいって欲はどの世界でもあるもんだと思うが、こちらは少ないんだな。俺は都会っ子てやつだから分からん。


 そのまま30分程情報交換をしながら歩いていると目的地にたどり着いた。


「おいユイこの世界は限界集落は少ないって言ったよな。結果がこれか。」


 俺は相変わらずのこの欺瞞だらけの世界に嫌気が指した。

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