またも俺は自分を犠牲にする

 会議は順調に進んでいるようにも見えたが、実際のところ、なにも進んでいなかった。スローガンについて話し合っているのだが、あれがいいんじゃないか、これの方がいいんじゃないか、はたまたこっちじゃないのかなどと話していて、結局決まらない。さらには皆黙り混んでしまった。これは非常に不味い状況だ。青葉あおばも察したのか、うつむいていた。絶対これ、一度も口を開いていない俺に当てられるパターンだ。


 「野雫目くんといったかな。なにか案はないかな」


 委員長らしい人から声をかけられた。やっぱこうなるよな。まあ、考えていたから話そうと思えば話せるけどな。


 「勝利 ~自分が勝てればそれでいい~

 これなんてどうだ? まさしくお前らみたいな奴等にはぴったりだと思うぞ?」


 俺は笑いながら言ってやった。ていうか俺、結構いいこと言ったんじゃね?……そうでもなかったですね、はい。


 「なんだい、そのふざけたスローガンは! 君はなめてるのかね」


 「いえ、決してなめてませんよ。ただ、みたまんまのことを言ったまでですよ」


 「どういうことだ?」


 「いいですか先輩。人っていうのは最初は協力しようなどと綺麗事言うけど、最終的には自分だけがよければいいって考えてるんですよ。だからよく見かけるじゃないですか。喜んでる人たちを。あれは自分があの人に勝ったっていう喜びなんですよ。決してチームが勝ったからっていう理由じゃありません。負けたときなんて誰かを責めるだけですよね? お前のせいで負けたなんて言われたらたまったもんじゃないですよ。結局は協力や絆なんてあったもんじゃないですよ」


自分で言っててなんだが全部俺がされてた事じゃね? あれ、目から汗が。


 「君はこの部屋から出ていってくれないか。君がいれば、決まるものも決まらなくなってしまう」


 委員長は腹が立っているのか、それとも怒って呆れているのか、はたまたなにか心当たりがあったのかはわからないが、声に覇気が感じられなかった。


 「わかりました。失礼します」


 俺は委員長に言われた通り、部屋を後にし、扉と少し離れたところに俺は座った。一応会話を聞いときたくてな。


 「なんであんなやつが委員に選ばれてるんですか!」


 「確かにな」


 「あんなやつのことはほっといて、今はスローガンを決めるぞ!」


 「わかりました! いいスローガンを決めましょう! そして、あいつに一日でも会わないようにしましょう」


 一人を除いて、委員全員が俺に言われたことに腹をたて、一日でも俺に会わないように案を考えている。

 

 ーーこれでいいんだ。これで委員全員がやる気をだしてくれたんだからな。いいスローガンが決まることだろう。もう安心だなと思った俺はその場を後にした。


 ーー俺はこのあと、青葉に話があると言われていたので、会議が終わるのを待っていた。喉が渇いた俺は自販機に行き、アイスココアを買う。やっぱりこれだよな。この甘さが俺の喉を潤してくれる。一息していると、会議も終わったのか委員たちがぞろぞろと出てきた。その中に青葉もいたが、忘れてくれていたらいいのに、なんて考えていた俺は声をかけなかった。


 「そんなところにいたの、野雫目くん。少し話があるって言ってたよね? まさか忘れてたなんて言わないよね? 」


 なぜか少し怒っていらっしゃる。俺、なんかしたかな。うーむわからぬ。


 「いや、忘れてなかったぞ」


 俺は怒っている青葉に少し焦っていたが、悟られないように平常心を心がけていた。無になるんだ、俺の心よ。ーーうん、意味わかんないね。


 「なんで会議の時、あんなこと言ったの? これじゃ、前とやり方変わってないじゃん」


 「そもそも、俺は自分のやり方を変えようとは思ってないんでな。これが俺のやり方なんだよ」


 「ほんとバカじゃないの! 自分が傷ついてもいいっていうの?」


 「バカで結構。俺は自分自身のために言ったんだ。誰かのためにいったわけじゃないんだよ。さっき、傷ついてもいいの?って言ってたな。俺は自分が傷つくことは苦に思ってないんでな」


 「それでも、友達とかが悲しむじゃん」


 「友達? 俺に友達なんていたことないからわからんな。逆に俺が傷ついて、清々してる人はいると思うがな」


 「そんなの、ないよ......」


 青葉の消え入りそうな声に、俺はなにも返事をせず、背を向け歩き出す。青葉はそこに立っているだけだった。

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