寮生活になり、初の登校

朝目を覚ますと、隣に咲久野の顔があった。唇のところまで後数センチのところまできていた。勿論密着している。体をおこそうにも抱きつかれているため、起き上がることができなかった。これはピンチだと思った俺だが起こせばいいということに気づき、咲久野を起こした。


 「咲久野。起きろ!!」


 咲久野の肩を揺するが起きる気配がなかったため、寝かせておくことにした。今日は学校の日だが構わない。勝手に部屋に入ってきたこいつが悪いんだ。


 「野雫目くーん!朝だぞー!起きろー!!」


 突如現れた綺羅星先輩は、朝から元気だった。俺はその元気のよさに圧倒された。ふと、俺の部屋には咲久野が寝ていることを思い出した。綺羅星先輩も気づいたみたいで、にやにやしていた。


 「野雫目くん。おさかんだねー!」


 べ、別に柔らかかったなとか気持ちよかったなってとか思ってないし。


 「そんなんじゃないですよ。咲久野が勝手に部屋に入ってきて寝てたんですよ」


 俺たちの声がうるさかったのか、咲久野が起きた。何してるの?みたいな目でこちらを見てくるが、原因はお前にあるんだよ!何て言えるわけもなかった。


 「先輩、そろそろ出ていってくださいよ。俺も学校に行く準備しないと行けませんので」


 「ちょっ、ちょっとまってよ野雫目くん。まだ聞きたいことあったのにー!!」


 半ば強引に追い出した俺は、咲久野の方に振り向いた。


 「なんで俺の部屋にいるんだよ!」


 意識していなかったが、少し強めの口調で言っていた。怖かったのか咲久野は一瞬肩をビクッとさせた。


 「だ、だって、一人で寝るの怖かったんだもん。どうしようかな、って思ったときに野雫目くんを思い出したの。それで、野雫目くんなら私のこと少し知ってるから許してくれるって思ったんだもん」


 ごめんなさい、ごめんなさい......

 今にも泣きそうだった咲久野は俺に謝ってくる。俺は事情を知っていたため、これ以上怒ることができなかった。

ていうか、わざとではないにしろ泣きそうになってる人をそれ以上怒れるほど俺は人間捨てたつもりはないしな。


 「今回はもうしょうがないから、次から俺の部屋に来るときは一言いってくれ。そうしないと俺がびっくりしちゃうからさ」


 ニカっと笑いながら言った。ていうか俺がこんなこと言うなんて、明日は槍が降ってくるかもな。自分らしくない発言に、俺自身びっくりしていた。


 「うん!!今度からそうするね!」


 彼女の顔に明るさが戻った。これでよかったのだろうと思い、俺たちは朝食を食べにリビングにいった。


 ーー俺たちはぱぱっと朝食を食べ終わると、学校に行く準備をしに、部屋に戻った。そういえば、咲久野に言っておくことがあったんだった。

 「そうそう、学校に行くときは別々に行くことな。それと、学校では俺に会っても話しかけてこないでね」


 「ーーわかった」

 それだけを言って部屋を後にした。咲久野は悲しそうな顔をしたが、渋々わかってくれたみたいだ。


 ーー学校に向かうため、馴れない通学路を歩く。この道もきちんと覚えないとな。と思いながら歩いた。もちろん、咲久野と一緒ではない。俺と一緒だと彼女がいじめられるかもしれないからな。それだけは避けないといけない。俺は、そんなことを思いながら登校した。


 学校につくなり俺は、耳にイヤホンをつけ、寝る体制に入った。ふと、咲久野はちゃんとこれたのかと思ったが、電車にも一人で乗れていたのを見ると、大丈夫だろうと思った。それでも一応メールくらいしとくか。


 「ちゃんと学校にこれたか?」


 メールを送るとすぐに返事が返ってきた。


 「部屋から出れなくて、一人で泣いてる......」


 メールを読んだ途端、俺は寒気がした。朝のあれが不味かったかと思った俺は、ホームルームにもかかわらず席を立ち上がった。今までクラスの人から認識されていなかった俺だが、その時は驚かれた。そんなのは今関係ない。


 「先生。ちょっと用事があるので抜けますね」


 「何を言っているんだ君は。早く席に座りなさい」


 佐倉先生からはそう言われるが、俺は無視した。許されないことなのはわかっているが、俺は教室を後にした。俺が出ていった後、周りは色んな事を話していた。


 「なにあいつ、意味わかんないんだけど」


 「いきなり出ていくとか、バカじゃないの?」


 「ていうか、あいつ誰だっけ?」


 などとさんざん言われ、笑われていた。俺にもその声は聞こえていたが、今は気にしない。

 ーー寮に戻り、咲久野の部屋にいった。部屋を開けると、咲久野は体育座りで泣いていた。


 「大丈夫か?今から一緒に学校にいこうぜ」


 「今から、行くの?」


 「行きたくないならここにいればいい。俺は学校に行くからな。ていうか、行かないと先生に怒られるからな」


 「野雫目くんが行くなら、私も行く!」


 さっきまで泣いていたとは思えないほど元気になっていた。

 俺たちは学校に行く道で色々なことを話した。その中で、疑問に思ったことを聞いてみた。


 「最初会ったとき、一人で電車から降りてきてたよな?ていうことは、一人で電車に乗ってきたってことじゃないのか?」


 「妹と一緒に電車に乗ってたんだ。降りるときに私だけ降りて、妹はそのまま家に帰ったんだよ」


 「そういうことか。なるほどな」


 納得だ。それなら泣いていなかったのもうなずける。俺たちはその後も話ながら、学校に向かった。話しているとあっという間で、すぐに学校についた。佐倉先生に後で職員室に来るようにと言われたため、昼休みに行かないといけなくなった。

 昼休みになり、俺は職員室に向かう。どうせまた怒られるんだろうな、嫌だなぁ。


 「失礼します。佐倉先生に呼ばれてきました」


 「ようやくきてくれたか。早速で悪いんだが、なぜ今日の朝、教室を出ていったんだね?」


 やはりその事だったか。まぁ、佐倉先生になら話してもいいか。今話さなくても寮でばれるしな。


 「咲久野からメールがあり、咲久野は家から出れなかったため、俺が迎えにいった」


 「そんなことあるわけないじゃないか。もしかして、私をからかっているのかね」


 「いえ、からかっている訳じゃありませんよ」


 危ない危ない。ここで逆だったら、俺はなにもしてないことになるからな。これから、佐倉先生とのお話タイムが始まろうとしていた。

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