2-025 状況は思ったほど危険ではないようで
僕が国王陛下に呼ばれた期日まで、残り4日。
この期限があるため、第三王子と予定を詰めるにあたって、どうしても急かすような日程を望む必要があった。
答えを保留にしたのに、急かすというのは矛盾があるので、違和感なく話を進めるのに苦労した。
「あまり長く、王子をお待たせするわけにはいきませんので」
そう言い逃れて、何とか3日後に、お城で国王以外の王族に会う予定が立てられた。
会おうとしている相手は、王族として公務も行っている人達なので、意外に忙しいらしい。
貴族って暇なものだと思っていたけど……
なので予定を合わせるのに、夜まで時間がかかってしまったのだった。
それでも、予定は2日空いてしまった。
内1日──明後日は、第三王子がどこかに連れて行ってくれるらしいけど、明日は王子も用事があるらしく、僕たちはフリーの日となった。
格安ツアーのプランみたいと思ったけど、誰も同意してくれる人は居ないから、その考えは脳内に留めておいた。
王都散策をしていないから、皆でどこかへ出掛けてみても良いかもしれないね。
そういえば、昼食前に紹介されたけど、第三王子が叔父と呼ぶ相手は、現国王の弟に当たる人だった。
いわゆる王弟陛下だ。
この屋敷も王弟陛下のものらしく、なぜが第三王子はこの屋敷に住んでいるらしい。
あまり気にしてなかったから、スルーするところだったけど、王弟陛下もかなりの重要人物だ。
国王陛下に会うなら、この人に依頼するという手もある。
第三王子の方が上手くいかなかったときの手段として、考慮に入れさせてもらおう。
因みに、王位継承権は、国王陛下のご子息の次に高いはずだ。
◇◆
晩御飯が始まる前に、お使い組と合流ができた。
スヴェトラーナから手紙を受け取り、報告を聞いて、更に旅の思い出話のような取り留めのない会話をした。
スヴェトラーナは、教会でのシシイの人気や、シスターが大司教を嫌いなことなど、聞いてきたこと全てを教えてくれた。
こういった情報も意外に重要だったりする。
とりあえず、イオン司教がここにいないけど、王都の大司教には僕のことが伝わってるだろうことは分かった。
他には、大司教は過激派で直接手を出してきそうなことや、中央教会ではイオン司教と枢機卿が、僕にどう対応するか議論をしているだろうことが分かったかな。
教会の戦力が良く分からないけど……王都ではあまり力を持っていないんだよね?
「シシイ、教会には魔法とか使える人が居るのでしょうか?」
「ん? ああ、たまに回復系や神聖系の魔法が使える魔法使いがいるみたいだぞ。
「そうなのですか。ありがとうございます」
首を傾げながらもシシイはすぐに答えてくれた。
詳しい人が居て助かった。
少なくとも、魔法で攻撃されるような事態は起こらなさそうだ。
だったら、どんな方法で大司教は僕に対処するつもりなのだろう?
でも、王都を任されてる立場にあるだろうから、何がなんでも解決して布教に役立てたい、って考えるような気がするな。
とりあえず、警戒はしておいた方が良いだろう。
地味に気になるのが、シシイの言った魔法の種類だよね。
辞書さんに書かれている種類とは、全く異なるから、どんな魔法がローカライズされているか分からないのが怖いよね。
神聖系と呼ばれる魔法って……ただ単に、殺菌するだけの魔法だったりして。
後は、シシイは子供に人気みたいだけど──
「教会は孤児院もやっているのですか?」
「そうだな。旧市街とか治安の悪いところに良く居る、身寄りのない子供を引き取ってきて、食事と寝床を与えて読み書きを教えているらしい。暇なときはわたしも子供たちの相手になってるが、確かにいつの間にか知らない子供が増えているし、減ってるときもある。良い方は仕事が決まっていなくなるから、喜ばしいことだけどな。そういえば、最近子供が増えたような……」
「そうなのですか。地域貢献もしているのですね」
小説や漫画では良く見る教会の活動だな。
地域住民的には、賛否が分かれるところだろうけど、概ねまともなことをしていると評価されるとは思う。
長い目で見れば、子供を育てて社会に出すことは、宗教を広める手助けになるから、そういう目的で貢献活動をしているのだろう。
資金は、本部から支給されるのか、信者のお布施によるものかな?
悪魔認定された者以外にとっては、普通の宗教施設のようだ。
大司教に、子どもを引き取る別の目的がなければね……変な目で見てるっていうけど、単純に資金がないから、早く独り立ちして欲しくて、仕事が出来るようになったか見定めてるだけかもしれないし。
教会については、そんなところかな。
躍起になって僕を探してるわけでもないし、警戒はするにしても、正体をバラさなければ、とりあえず危険はなさそうだ。
どちらかというと雲行きが妖しいのは、プラホヴァ家からもらった情報の方かな。
手紙は三通に分かれていて、それぞれコンセルトさんとネブン様がまとめてくれた現状と、領主様の予測が書かれていた。
自分たちが扱っている魔石の流通量やその行き先、馴染みの商人達に聞き込んだ他の資材の流れや武具の売れ行きと物価の変化、そこから予測される各貴族の準備期間。
あくまでも周辺の領だけだけど、この短期間でこれだけの情報を処理できるのは大したものだと思う。
インターネットはおろか、電話すら無いのに。
プラホヴァ家はそれだけの情報網を持ってるんだろう。
王子が僕の素性を調べるのも、意外に早く済むかも?という不安は置いておいて、プラホヴァ家の面々が折角調べてくれたんだから、しっかり読ませてもらおう。
魔石の供給先に関しては、戦争準備の為か、どこの客先も取引量が増えている傾向にある。
その中でもブリンダージ商会が急増しているとか。
魔法剣を作るに必須の材料だし、強力でレベルの高い魔法を込めようと思うと、一般的には大きな魔石が必要になるからだろう。
そういえば、プラホヴァ産の魔石は「品質の良い魔石」って説明された気がするけど、品質の良し悪しで何が変わるのだろう……
他の魔石を触ったことが無いから、僕には良く分からない。
帰ったらコンセルトさんにでも聞いてみよう。
とにかく、ブリンダージはこの機会に更に儲けるつもりらしい。
商人なら誰しも考えそうなことだし、この対応が異常とは言えないかな。
いつの世も、戦争で一番リスク少なく最大の利を得るのは、武器商人と決まってるし。
素材に関しても、流通量が増えているようだ。
コンセルトさんは、魔石までもが流通量を増やしてる状態なのだから、他が増えないわけがないって書いてくれていた。
誰かが戦争準備をしているなら、使える人の限られている魔石より、一般的な鍛冶屋が扱える鉄の方が、圧倒的に流通量が増えるということだ。
更にいえば、獣や魔物の素材も、武具に使われるので増えているらしい。
つまり、ハンターも素材集めに忙しくなってるってわけだ。
それって、ハンターも武器を欲しがることになるよね?
更に武具の需要が高まるわけだ。
そしてそれに伴って変化するのが物価だ。
必要とされればされるほどに、物の価値というのは自動的に上がっていく。
いわゆるインフレってやつだね。
ヤミツロ領が関税を上げたこともあって、加速的に物価は上がっていってるようだ。
商人としては、材料の仕入れ値も上がってきているので、それほど多くの利益を得られたわけではなさそうだ。
プラホヴァ領では、一次産業も二次産業も収入が上がっているので、物価上昇の影響は少ないらしい。
この辺はネブン様の手紙に書いてあった。
ネブン様は領内を回って、現地調査でもしてきたのかな?
良いネブン様になったことをアピールできるだろうし。
それは良いとして、こういった場合、立場の弱い農家とかの一次産業が、不利益を
そこは、領主様のやり方が上手いからかな?
それとも、それだけシエナ村で上げたあの花火は、誰もが異変を感じたってことかな……?
でもそのインフレは、人が集まるところほど影響が出やすく、虐げられている者達は、その景気の利に
さっきシシイが言ってた、人が集まるこの王都の「旧市街の孤児達」みたいに、今日のご飯に困るような人達は、恐らく物価が高くなると、更に生活できなくなるはずだ。
教会に子供が増えたというなら、そのインフレの影響が色濃く出ているのだろう。
プラホヴァ領の感覚でネブン様の手紙は書かれているから、領内は問題無さそうだけど……
領主様の予測には、僕の思う懸念が少し書かれていた。
ヤミツロみたいな貴族主義の領は、場合によっては一揆のような抵抗運動が発生するだろうと。
確かにあの領なら起こり得るね。
ん? もしかして、ヤミツロはそれを懸念して、一揆対抗の為の準備も含まれるのか?
こうやって急激に需要は高まるのか……
王都も、もし旧市街の人口が多いのなら、同じようなことが懸念されるわけで……
といっても、このお屋敷まで坂を登ってきて、周りを見回したけど、旧市街と呼ばれそうな場所は見当たらなかったけどな……
後でシシイに場所を聞いておこう。
僕としては、誰かが戦争を
領主様の見立てでは、それは無いらしい。
シエナ村が既に内乱の不安を抱いていたように、各領どこも不安を抱いていたらしい。
だから、不安を加速させるような出来事があったから、天秤が少し傾いただけだという。
真実が分かれば、元の状態までは戻ってくれるだろうと、領主様は予測しているようだ。
どちらかというと、物価の変化が元に戻るかどうかが問題のようだ。
物価が維持されてしまっては、抵抗運動の火種は消えないことになるだろうからね。
これも領主様の予測だけど、食料などは日持ちもしないので、無理して購入する必要が無くなれば、すぐ元に戻るだろうと書かれていた。
因みに、戦争準備として食料の需要が上がるのは、それぞれの貴族が
日持ちするように加工する必要もあるから、早めに需要が上がるんだとか。
生活必需品の物価も同様の予測なので、不安を払拭できれば問題は解決できそうだ。
そのためには、まず国王陛下に会って話をしないと。
つまり、今の作戦を進めていけば……何とかなると信じたい。
最悪の場合は、3日後に変装を解いて登城して、第三王子の治療を盾に交渉すれば会えるはずだ。
もう少し、大司教の動向が分かれば、問題を解決できる気がしてきた!
「お嬢様方、ご夕食の準備が整いました」
そこまで考えたところで、侍女さんに呼ばれてしまった。
光明も見えてきたことだし、今日のご飯はいつもより美味しく食べられそうだ。
この世界に来てから、美味しく食べられなかった料理って、ミレルの手料理ぐらいだけどね。
ちらりとミレルに視線を送れば、小鳥のように首を傾げて不思議そうにしている。
可愛らしい嫁さんの仕草に、美味しくないご飯も良い思い出だと思えたのだった。
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