第29話 魔女はイチゴラテを飲む

 戦いが終えたマリンカがまず言ったのは、こんな言葉だった。


「思ったより悪くなかったわ。 でも、正直に言えば、決戦競技ディシプリンをするには戦術はもちろん、戦い方そのものがなってないわね」


 根本的な指摘。

 良いか悪いかを論じる以前に、私達はそのスタートラインにいないかの言うように言われたのだった。

 吉田くんは憤慨していたが、自分に勝った相手に言い返そうとはしなかった。


 私は場所を移すことを、提案した。

 魔力も消耗したことだし、二人は休息した方がよかろうと思ったのだ。


「お前は、くやしくないのかよ」


 吉田くんにそう聞かれたが、私にはそんな気持ちはなかった。

 それに、マリンカの指摘をきちん聞いた上で努力した方が、効率がいいに違いない。


「べつに。 何も知らないまま努力しても、上手くいかないよ」


 私がそう答えたのを見ると、マリンカは強くにらみつけてきたような気がした。

 マリンカには、なにか私の態度に気に入らないところがあるのだろう。

 どうもなにかと、時折、マリンカからはお叱りを受けてしまう。


 マリンカは、私に歩み寄る。

 ぐっ、と襟元を掴まれ、はっきりとした口調で言った。


「ちゃんとわたしを見ろ」


 言うだけ言って、彼女は手を離す。

 私は苦笑する。

きちんと、マリンカのことを見てるつもりなんだけどな……。


 私たち向かったのは、近くにある休憩室だ。

 ベンチに座り、ドリンクサーバーから飲み物を受け取り始める。


「お前、コーヒーとか飲むのかよ」


 吉田くんがぎょっとして、私に尋ねた。


「そりゃ、コーヒーくらい飲むよ」

「……へー。 なんか大人だな」


 子供になってから、苦みがより強く感じるようになった。

 昔、そう、前世で飲んだ時よりも、ブラックコーヒーが苦く感じる。

 それでも、私は比較的苦みを好んだ。

 私室の茶話会では、もっぱら紅茶だけどね。


「ファルグリンは抹茶ラテでいいんだよね?」

「ああ、それで構わないよ」

「構わないと言って。 本当は大好きなくせに~」

「うるさい。 僕は別に嫌いとは言ってない」


 ファルグリンは、コーヒーを飲まない。

ここのドリンクサーバーだと、よく好んで、あまい抹茶ラテを飲んでいる。

それかイチゴラテも飲んだりもするが、それはマリンカがよく飲む奴だ。


「と言うわけで、はい。 イチゴラテ」

「……どうも」


 不本意そうに、マリンカは差し出したイチゴラテを受け取る。

 いまだに、私を不機嫌そうに睨んでいるのだ。


「なんで、ムスッとしてるのさ?」

「どうしても、なにも。 ……と言うか、あなたは気にしてないの?」

「え? なにを?」

「そう、なら好きにすればいいわ!」


 やけにマリンカがぷりぷり怒っている。

 その割に、イチゴオレは受け取ってくれたので、本気で嫌がってるわけではないのだろう。

 うーん、まあ、とりあえず、そっとしておこう。


 マリンカは、気を取り直して席に座る。

 そして、他のみんなにも座ることを促した。


 マリンカは、一度ラテを両手で包み込むように飲み始める。

 息を吹いて、表面を冷まそうとしているようだった。


「吉田と言ったわね」

「ああ」


 マリンカは、イチゴラテに口を付けるよりも早く口火を切った。

 吉田くんも、すぐに話を始めたいと言わんばかりに、目線を返す。


「あなたの戦い方は、固定砲台。 完全に足を止めての撃ち合いよね」

「ああ、そうだぜ」

「魔術師の戦闘形式はいくつも種類があるけど。 あなたの戦闘スタイルは、授業の中で生まれたものね」

「……確かにそうだな、授業でやった模擬戦だ」


 授業における模擬戦は、西部劇の決闘のようなもの。

一対一で向き合い、教師の合図と主に魔術を撃ち合うものだ。何もない場所で、足を止めたまま、正面から魔術をひたすら撃ち合う。


「その形式の模擬戦だと、『早撃ち』の速さ。 相手の魔術を圧倒し、シールドを破る『火力』 止まった相手にきちんと命中させる『正確さ』が重視されるわ」

「1年の授業では、シールドは使わなかったよ。 とにかく、反応するよりも早く相手を撃てばよかった。 2年生になってからは、そうもいかなくなったけどな」


 シールドの取り扱いを、模擬戦で併用しないといけなくなったのは、授業だとつい最近だ。

 早撃ちに優れているだけだと、シールドに弾かれるので、必然的に火力は高くなる。


 シールドは、銃弾規模であれば、そうそう破られはしないだけの強度も有するため、必然的に『爆炎の槍』などの爆裂魔術に傾倒する生徒が増える。

 1年前は、フォースの早撃ちがメインだったけど、今はそうはいかなくなった。

 一般生徒に決戦競技ディシプリンをやらせれば、大半が『爆炎の槍』の撃ち合いを狙うだろう。


 私のような魔術を扱うことが苦手な人間か、変わり者だけが、『兎跳びバニーホップ』で懐に潜り込み白兵戦を挑むのだ。それは1年目からずっとだけど。

 私はずっとそれだけをやり続けてきた。


「吉田、あなたが模擬戦でどんな風に頑張ってるかは、わかるわ。 その点だと、あなた。 けっこう授業では優秀でしょう?」

「まあ、そうそう負けねえな……」

「ええ。 判断も早いし、器用だわ」

「……アンタには、負けたけどな」


 吉田くんは、不満そうである。

 もともと一般生徒の中では、トップクラスと言われているのが彼である。

 ロドキヌス師からのお墨付きもあって、学業でもそう悪くない成績なのだろう。


「正直なところ、予想以上にあなたは強かったわ。 それに戦闘慣れもしてた。 誰かさんの影響もあってか、機動力で翻弄されたときの対処能力もあったしね」

「誰かさんって、誰だろうなあ……」

「そこ、茶化さないの」


 言い出したのマリンカなのに、私が乗ってあげたら怒られた。解せぬ。

 とはいえ冗談ではなく、吉田くんは、新しい魔術まで習得していたし、今回の戦いには私も感心させられている。


「ただ、残念だけど。 授業と実戦は違うの。 あなたの戦い方は、決戦競技ディシプリンにあってないのよ」

「……じゃ、オレはどうすればいいんだよ」

「それを説明してあげるわ」


 こほん、とマリンカは息を整える。

 まるで、家庭教師でもしてあげてるみたいだ。


「魔術師における戦闘の基本は、大きく二つに分けられるわ」


 マリンカは、ノートに図を描いて見せる。


「1つは、流れを意識すること」

「流れ?」

「そう。 流れを操り、状況をコントロールするの。 あなたは、わたしと陽介、二人をまとめて『爆炎の槍』で倒そうとしたわね」

「ああ。 爆裂魔術なら、上手くいけば二人とも吹き飛ばせるからな」

「相手の立場に立ってみて? もし、あなたがわたしや、陽介だとして。 それをされたら誰が一番邪魔になる?」

「え……? うーん、わかんない。 一番近い、陽介とマリンカはお互いが邪魔だろ」


 マリンカは、視線を左右に動かした。言葉を探しているようだった。

 もっとスムーズに返答が返ってくるのを、予想していたのだろう。


「いいえ。 この場合、わたしと陽介からすれば、最も邪魔なのはあなたよ。 だって、一方的に魔術を撃ってくるんですもの」

「うん…… そう言われたら、そうかも」


 私も本音を言えば、マリンカは要注意せねばならない対象だったが、その中でも常に吉田くんの攻撃の動向には強く意識をさせられた。

 爆裂魔術を使われ、吉田くんが消耗したのを見て仕留めようと思った。それは、マリンカにとってもそうだったのだろう。


「こうなると、わたしと陽介、二人がかりであなたを倒す可能性もあったわね」

「そ、そうなのか?」

「まとめて倒したいなら、下手に注目を集めずに、当てられると確信がある時だけにするべきだったわね。 爆炎の槍は、確実に当てられる自信があった?」

「ない、けど……」

「最も消費が多い攻撃を、効果的でないのに撃つのは良くなかったわね。 攻撃には、狙いが必要よ。 きちんと意味や効果。 そこから起きる流れを考えなきゃ」

「そんな難しいことを言われても、わかんねえよ……」

「そ、そうなの……?」


 マリンカは困っているようだった。

 思ったように、吉田くんに話が通じないのだろう。吉田くんが悪いと言うよりは、年相応なだけなのだろうが、マリンカにはそこが理解できないのだ。


「うーん。 試しに、わたしがしたことを説明するとね」

「おう」

「まず、『煙使い』の能力で煙をだしたわ。 そして、妖精を召喚して、煙の中に待機させて……そのあとは、透明になって煙から離れたの」

「透明になった?」

「そう。 『姿隠し』と言うマントよ。 これを使えば、魔力を消費して透明になれるわ。 魔力を探知しようとされると、すぐにバレちゃうけどね」

「ああ、そういうのがあるのは、なんか見たことあったな。 注意してみようとすれば、すぐ見抜けるし、全然意味ないと思ってた」


 吉田くんは、あっけらかんとした様子でそう答えた。


 なるほど、透明化して煙から抜けたのか。通りで見抜けなかったわけだ。

 私は、そういうものがあるとすら知らなかったけどな!


 決戦競技ディシプリン自体、そんなに知らないからな。どんな魔導器セレクターが選択としてあるかも、調べている最中だから、まだ知らない魔導器セレクターも多い。

 透明化できる『姿隠し』は、私にも使えるだろうか?


 マリンカは、魔力の煙で覆い隠すことで、透明化の瞬間がばれないようにしたらしい。

 弱点を補強する方法としては、基本的なものらしかった。


「わたしが煙から離れた後は、妖精にデコイに変身してもらって、二人の注意が逸らしたの」

「あー。 煙の中に見えた影って、デコイだったんだな」


 今気づいたのか、吉田くん。

 てっきり、もう気付いていたものだと思った。


「気を逸らしてから、陽介を不意打ちで倒したけど……別に、あなたを先に倒してもよかったけどね」

「なんで、陽介から倒したんだ?」

「陽介の方が、残しておくと面倒そうだったからね。 わたしは剣の扱いが得意ってわけでもないし、接近戦同士の戦いになったら、さすがに陽介の方が分があるでしょ?」

「え? ああ、さすがに負けないね」


 私は当然のことを、普通に言った。


「はぁあ? 調子に乗らないでくれる?」


 そしたら、普通にマリンカに怒られた。げせぬ。

 マリンカの言ったことを、肯定しただけなのに。


「じゃ、陽介より、オレの方が弱いってことかよ」


 吉田くんは、不満げだった。

 実際に戦えば、吉田くんが勝つこともあるが、私の方が有利だろう。


 ただ……吉田くんが使ったあの新技。『飯綱狩りウィールズアウト』と言う魔術があれば、状況は傾くかもしれない。あれを上手く使えるなら、吉田くんは私に勝てる。


 マリンカは、イチゴラテを飲んだ。

 吉田くんの理解力に合わせて、話そうとしているのだろう。

 どう返事するか、迷っているようだった。


「……今はそうね。 魔術射手キャスターであるあなたが、もし勝ちたいのなら『早撃ち』『火力』『正確さ』だけでは戦えないわ」

「他にどうすりゃいいんだよ」

「一撃で決められない以上、流れを意識して追い込むしかないわ。 それには『戦況読む力』『連射による制圧力』。 この二つで最後まで、詰め切るしかない」

「それって、さっきマリンカが言ったみたいな作戦だろ?」

「ええ、そうね。 状況を分析して、流れを作る。 そして、最後に敵を仕留める状況にまで導くの」

「……わかんねえよ、そんなの。 言われても、そんな考えつかねえもん」


 吉田くんは、否定的だった。

 自分には出来ないとそう断じていた。


「それに戦ってる最中だろ。 オレは魔術を操るのに真剣だし、すげえ集中力いるんだぜ。 他のことを考えるのなんて無理だろ」

「わたしは実際に、やってみせたわよ?」

「ぐ…… そう言われてもな」


 吉田くんには、無理だと言う意識が強いようだった。

 確かに、戦闘の流れを読みながら、戦うのは簡単ではない。

魔術師にとっては、そのための使い魔でもある。


人面犬やマンティコアとの戦いでは、テイラーに役割分担をした。

テイラーに魔術の発動を任せて、私は目の前の戦闘に集中した。もちろんそれでも、簡単ではなかったけど、そんな最中でも、勝ちきるまでの流れはある程度、見えるように戦っていたと思う。


 マリンカはため息をついた。


「なら、一対一で勝つのは難しいと自覚して。 自分の力不足をきちんと把握することは大事よ」


 あくまで、冷静に一歩引いたような様子のマリンカ。

 それに苛立ちを見せる吉田くんは、叫んだ、。

 彼は必死だった。


「でも、オレ勝ちたいんだよっ!」

「すぐに出来ないとか、なんでもかんでも無理とか。 そんなので勝てるほど、甘くないわ。 勝ちたいなら、それを乗り越える。 それが出来ないなら、別の手を考える!」


 マリンカは、それだけではダメだと言う。

 彼女は、今日、初めて声を荒げた。


「……勝利ってのはね、指くわえてヨダレ垂らして、『ほしい』『ほしい』って待ってるだけでもらえるもんじゃないのよ!」


 誰も何も返せなかった。

 そこには、マリンカの努力してきた重みと言うものが感じられた。

 彼女には、魔女マリンカの名を継ぐ、魔女として背負ってきたものがあるのだろう。


「ちょっと日を改めようか」


 私は、あっさりと間に入った。

 誰も発言しようとしない、その重い空気の中。


「吉田くんは、今回の話を持ち帰ってゆっくり考えてみると良い。 アドバイスをもらってるのに、無理、出来ないばかりじゃ北村翔悟には勝てないよ」

「……お前までそんなこと言うのかよ」

「マリンカは、君に勝ったんだ。 その意味がわかるね? どんなに負けても、どんな努力でもする覚悟があるんだろう?」

「お前だって負けたくせに」

「私は1年間、負けっぱなしだったけど私は諦めなかった。 今では『普通の生徒』には負けない。 今まで以上に努力して、『選ばれた生徒』にも勝てるようになって見せるさ」

「な、なにを偉そうに……」


 吉田くんは、泣きそうな顔をしていた。

 それでも、私は微笑みかけた。


「ごめんね、マリンカ。 アドバイスの途中だったのに」

「……いいわ、べつに」


 マリンカもまた不満げな表情をしている。

 吉田くんと合わないのもあるだろうけど、私自身の振る舞いにも不満があるんだろうな。

 でも、私にだって言いたいことはある。


「日本製の剣型魔導器セレクターを使ったのは、こちらの参考になるように合わせたつもりだったんだよね? それなら、私や吉田くんにも扱えそうだと思ったんだよね?」

「えっ。 ……そうよ」

「たださ。 勝負と名を付けた以上は、本気でやってほしいな」


 マリンカは、目を見開き、はっとしたような表情を見せる。

 彼女は、私がないがしろにしたように思ったのだろう。

 だが、それはこちらのセリフである。


「マリンカ。 次、勝負で手を抜いたら許さないからね」


 それで、この場はお開きとなった。


 その後、私はファルグリンとカフェに出かけた。

 彼は、機嫌が良さそうに、抹茶パフェを食べる。


「身内に甘いのは、魔女の伝統だけどな。 マリンカもそのあたりは、引き継いでいるらしい」

「ああ、親切だったね。 参考になったよ」

「助言を求めに来た人間に、それを与えるのも魔女の役割だろうな。 勝ち負けに熱いのは、まだ若さゆえなんだろうけどね」


 ファルグリンは饒舌だった。

 わりと我慢していたのだろう、みんなの前では口数が少なかった。

 気を遣っていたと言うよりは、認めていない人間に、気安い態度がとれないのだ。

 エルフは、なにかとプライドが高いみたいだから。


「それで。 どうするんだ、陽介」

「なにが?」


 私は餡みつをつまむ。

 興味がないように装いながら、私はその甘味を楽しむ。

 黒蜜のコク、独特な風味の甘み。

餡はそれと比べるとサッパリしているが、どっしりとしている。


 やはり甘いものは、脳にいい。良い刺激になる。


「僕が何を言いたいかはわかってるだろ? 決戦競技ディシプリンに参戦するにしても、マリンカは厳しいんじゃないかってことだ」

「ふふ。 実は今回は、あんまり期待してないんだ」

「……そうなのか?」

「そう。 吉田くんの誘いがこじれた時点で、勧誘は厳しいと思ってた。 でも、まさか試合までしてくれるとは思ってなかったけど」

「……魔女は情が深いからな」

「うん、マリンカはよくしてくれたよ。 それで、吉田くんに良い刺激になると思ってた」


 ファルグリンは、意外そうに瞬きをした。


「随分と、吉田とやらに期待してるのだな」

「あー、いや、そうでもないな。 ただ、吉田くんは、吉田くんなりに頑張ってる。 応援してあげたくもなるじゃないか」

「入れ込む理由はそれだけか? お前は他人に興味なんてなさそうだけどな」

「そこまで言うかい? まあ……私の本音を言えば、強い相手。 北村翔悟と戦うのに、一番、都合がいいってだけかもしれない」

「北村翔悟?」

「ああ。 彼は強いらしいから」


 この世界における天才。

 戦闘における選ばれし者。そう言った人間がどれだけ強いかに興味がある。

 どうしたら、そんな人間を倒せるか、にも。


「なるほど。 強い……強い、ね」

「なにさ?」

「いや。 それはそれとして、マリンカの戦い方は参考になったか?」

「うーん。 『姿隠し』は使えるかも。 煙幕は、魔術で再現できないけど、錬金術で真似をすればいい」

「それだと、決戦競技ディシプリンでは使えないな」

「それは仕方ないさ。 それを言うなら、そもそも私はシールドも使えない」


魔力で盾を形成することもできない私は、シールドが使えない。


「今日の戦いでも思ったけど、決戦競技ディシプリンではハンデだろうね。 吉田くんの撃った『飯綱狩りウィールズアウト』で弾幕を張られたら防ぎきれないね」

「なんにせよ、攻撃を防ぐ方法は必要だ。 なにか考えた方がいい」

「そうだねえ。 ルールをもっと見て、使える魔導器セレクターのリストを調べるさ」

「ただし、手に入る範囲で、だな。 ルール上、可能にしても異世界ニーダにある魔導器セレクターはそうそう手に入らないものも多い」

「そうだね。 となると、日本製の魔導器セレクターだと都合がいいけど…… まず、虎徹はなしだ」


 同じ剣型魔導器セレクターでも、飛燕と虎徹では別ものだった。

 虎徹は、私にとっては相性が悪すぎる。

虎徹の持つ機能、魔力で斬撃を放つ『斬空』は私には起動できなかった。増幅器である鞘も活用できない。


「空中を高速で飛び跳ねることが出来る兎跳びバニーホップだけは、相性が良かったのか活用できたんだけどね」

「似たような魔導器セレクターは、異世界ニーダにもあるから、マリンカとしても扱いやすかっただろう」

「そうなの?」

「空を飛んだり、空中を歩行するための魔導器セレクターは、誰もが発想しうる範囲のものだろう?」

「まあ、確かに」


 魔術で何をしたいかって話になれば、必ず飛行は話に上がるだろう。

 長い間の人類の夢だ。世界は違えど、人類共通の思考と言えるかもしれない。


 ファルグリンは、抹茶パフェの白玉を飲み込んだ。

 餅は、彼の好物だ。米の餅は、エルフの食文化にはないものらしかった。

 根菜をつぶしたニョッキのようなものならば、存在したようだが。


「陽介。 なぜ、わざと負けた?」


 さっきのマリンカとの対決の件を言ってるんだろう。

 私は、あっさりマリンカに落とされた。

 でも、あれは仕方がないんじゃないかと思う。


「……べつに、わざと負けたわけじゃないよ。 本当にマリンカは強かったよ」


 私はそう答えた。


「背後から不意打ちされたら、やられるしかないさ」

「嘘をつけ。 普段のお前なら、簡単に背後をとらせたりはしないだろう?」


 ……確かにいつもなら、もっと警戒してる。

 いつもなら、あの状況で足を止めることもない。徹底的に安全策に出る。

 強敵には、持久戦から分析に入り、隙を見ての一撃。

 それが、私のスタイルだ。


「確かに、らしくなかったかもね」

「ああ。 徹底的に機動力を生かし、剣の射程に持ち込むのが、お前の常道だとしたら。 射撃攻撃が弱点となり、まとも対抗に出来ないことが、常に課題となる。 お前は理解してるし、無防備な方向へは警戒してるだろう?」

「もともと決戦競技ディシプリンのルールじゃ、私は全力では戦えないよ。 使える武器も少ないしね」

「マリンカは、そんな答えでは納得しないと思うがな」


 ……確かに、マリンカには失礼だったかもしれない。

 でも、あそこでマリンカと全力で当たるのは、抵抗があった。

 なにせ、マリンカ自身が全身全霊の本気じゃない。


「あれはマリンカが悪いよ。 彼女は、あえて日本製の魔導器セレクターをメインに装備してきた。 そんな相手に勝ったところで、なんの価値もない」

「マリンカが本気なら、本気で勝負したと?」

「そうだね、それはそうだよ。 でも、そうじゃなさそうだから、別のことに興味がわいたんだ」

「別のことだって? 確かに、陽介には、たまに様子見で手を抜く癖がある。 その情報収取の一環か?」

「どうかな……。 そんな癖あったかな」

「陽介は、事前の情報収集は欠かさないよ。 逆に倒す方に踏み切れば、それは執拗なくらいに粘着的だ。 事前に情報がなければ、戦いの中で情報を集めようとするか。 できる限り、短期決戦で敵を倒すかだ」


 私は笑ってしまった。

 そんなところ、ファルグリンに見せたかな。


「手を抜いていたわけじゃないけど、マリンカがどう戦うかに興味があったのは否定しないよ。 それに、吉田くんがそれに対してどう対抗しようとするか、にも」

「本気を出す価値はなかったと?」

「それ以上に、見たいものがあったのさ。 その価値はあったよ」

「ずいぶんと、冷めてるんだな。 ……そのわりに決戦競技ディシプリンへの参加に、こだわってるが」

「それは……吉田くんに力を貸したいと思ってる、それは本当だよ。 それに、私にとってもいい経験になる」

「経験だって?」

「……今、強さの壁を感じていてね。 正々堂々、誰かと戦える理由が欲しいんだ」


 ファルグリンは、怪訝そうに表情を歪ませる。


「それこそ、わからないな。 陽介、お前はなんのために強さを求めるんだ?」


 改めて考えたら、なぜだろう。

 なぜかはわからないが、私が自分の望みをかなえるために、それが必要だった気がする。

 ……また、すごく大事なことを忘れている気がする。


 私の中で、いろんなものが抜け落ちている。

 でも、どうしてなんだろう。


「ただ、強くなりたい。 それだけじゃだめかな」

「そんな漠然とした理由で、そこまで努力できるはずがないだろう」

「……自分でもよくわからないんだ。 ただ、強くならないといけない気がする」


 答えは出ない。

 なぜ、私は強くなろうと努力しているんだろうか。

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