1960年秋(1/4)
伯父夫婦には誰から誘われて出かけているかは話はしていた。
秋頃、伯父夫婦が彼をわが家でのお月見に招待なさいという事実上の命令が下された。
両親代わりの人達でとてもお世話になっているし、どこかで紹介はしたいと思っていたので覚悟を決めて古城さんに話をする事にした。
この日は海自隊ご用達のバーで二人で飲んでいた。
良いお店だそうで二次会などで来る人が多いそうだけど早い時間だとさほど混んでいない。
うちのバスの時間があったからあまり遅くまでいられないのでちょうど良かった。
カウンターのスツールで二人で並んで座るとマティーニを頼んだ。
「古城さん、今度の中秋の名月の夜、お月見にうちに来てくれませんか。うちの伯父さんと伯母さんがうちをよく連れ出してくれている人を紹介しなさいってうるさくって。灰ケ峰の上の方だから見晴らしはいいんです」
そう切り出した。マティーニできっとうちの顔は真っ赤だったと思うけど、店内は薄暗いので彼にばれなかったとはず。古城さんはあっさり受けてくれた。
「一度ご挨拶だけしておかないと連れ出すなと言われたら困るなと思っていたから是非」
と頭を下げられた。
むしろ問題はその後で彼からは伯父さんと伯母さんが何を好むのか散々聞かれる羽目になった。
10月5日(水)は旧暦8月15日、中秋の名月の日だった。
この日は定時できっちり仕事を終えるとバス停前で古城さんと待ち合わせ。
彼も用事があるとか職場で言って抜け出したのかほどなくやって来た。
「やあ」と手を上げて合図してきたので手を振り返す。
彼は背広姿で日本酒の一升瓶を2本お土産にぶら下げていた。
二人で呉市営バスに乗り込んだ。夕方の帰りのラッシュアワー、ちょっと混んでいた。
女性の車掌さんが回ってきたので定期券を見せた。彼も小銭入れから運賃を払った。
徐々に人が降りていく。私が帰る伯父夫婦の家は灰ケ峰の神山峠の手前にあった。
市内から30分も掛からずに最寄りのバス停に着く。
さすがの古城さんも緊張しているのかあまり会話もなかった。
バスを降りた。夜空は良い塩梅で快晴。東の空から満月が昇ってきていた。
「尾見さん、月がとてもきれいだなあ」
「本当に。いいお月見になりそう」
なんかちょっとうれしく感じた。そして彼を伯父夫婦の家に案内した。
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