Moon gazer

玉簾連雀

Moon gazer

「何を見てるんだい」

 白銀は、依子の方は見ずに答えた。

「物語を読んでいるんだ。素敵な月夜の物語だよ。登場するみんな、いきいきしていていい。青春だ、夜の街にきらめく小さな灯りのような。遠く、それでいて懐かしく、近しい」

「……アンタ、たまーに年寄り臭いよね。ところでさ、」

 依子は言った。

「さっきから月を見ているように、アタシには見えるんだが」

 白銀は微笑み、依子の方を向いた。

「そうさ。今宵は月が綺麗だから。秋の長夜に、美月みづきを見ながら物語をする。オツなものだ。……さて、素敵な夜だし、ツマミが欲しいな。フォーチュンクッキーがあるよ。君もどう?」

「ああ、なんか懐かしいな、それ。昔流行ったっけ」

 依子は白銀と一緒にクッキーをつまんで言った。

 と、白銀が真顔になる。

「君、ロケットペンシルって知ってるか?」

「え?何ソレ?」

 唐突な問いに、依子は目を瞬かせる。

 白銀は険しい顔で更に聞く。

「じゃ、おはじきシールは?消しゴム付きペンシルキャップは?」

「……。えーと」

 困惑する依子をよそに、白銀は盛大にため息をついた。

「ああ、なんてことだ!花の色は移りまくってるじゃないか!オレも随分とくたびれちまった!」

 そして、ヤケクソ気味にフォーチュンクッキーをひとつかじる。

 白銀は、甘酸っぱい香りに顔をしかめた。

「なんと、まあ……」

 それを見た依子はケラケラと笑った。

「まだまだ隠居には早いんじゃないの?」

「全く……幸福フォーチュンってやつは本当に厄介だな!」

 ひねくれ者の嘆きも知らず、大きな月はゆっくりと天蓋を滑り、夜は更けてゆく。


 ムーンゲイザー/了

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Moon gazer 玉簾連雀 @piyooru

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