3回目:海:街海の底

 見上げた先のぴかぴか光るいろいろな色の、降り出して来そうな灯りに。

 息つく暇もなく行き交う、たくさんの人たちに。

 息苦しささえ覚える暑い日の、圧してくるような雨上がりの空気に。

 ――溺れてしまいそうな気さえする。

 きっと海の底とはこんな場所を言うのだろう。路地の片隅から通りを見上げさゆりは思う。海を語ったママもさゆり自身も行ったことはないのだけど。

 冷たくて、息苦しくて、暗くて……独り。

 ママ。零れた声は思いのほかよわよわしくて。

 ママ、どこ。泣き出してしまいそうになる自分がいる。

 ママ。さゆりを独りにしないで。

 返事はなく。

 見上げた灯りのずっと先、海面に漂うかのような朧月が、さゆりをじっと見下ろしていた。

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