窓の外を這う虫を見つけた。

HaやCa

第一話

 虫を見つけた。ムカデによく似たそれはとても小さい。私の小指よりもずっと。

じっと観察していると、そいつはどこかへ行ってしまった。あんなに小さい生き物でも遠くへ行ける力があるんだなって思った。


 夏が間近に迫っているなか、私は市の図書館で読書をしている。あいにく今日は雨だからか、空は曇っていた。私が見つけたムカデっぽい虫はどうやら暇を弄んでいるようだった。

読書も佳境へと差し掛かっていたのだけど、そっちに気を取られてしょうがない。私は辺りにだれもいないことを確認して、そっと窓を開ける。ムカデっぽい虫は雨を避けるように窓の縁に張り付いていた。自分でもよくわからないけど、そいつだけは守らなきゃって思った。

 気が付けば私はその虫を手のひらに乗せて図書館を飛び出していた。

雨の中を走っていくうちに、私の体は濡れていく。だけどそのムカデっぽい虫だけは雨風にさらすまいと両の手のひらで守ってあげた。


 どこへいけばいいのか見当もつかないまま、私は走り続ける。途中で水たまりを踏んでも、車に水を飛ばされても走り続ける。多分、何かに打ち込みたかったんだと思う。

普段の私は生きるままに生きて、夢も希望も持ち合わせていない。日々を生きるのに必死だったわけでもない。それでも何かライフワークみたいなものが欲しくて、毎日自分に見合うものを探していた。でも結果は芳しくなく、私は結局味のない生活へと戻ってしまった。

そんなとき、ムカデっぽい虫を見つけた。偶然だとも奇跡だとも思った。だって私が探していた夢や希望は手を伸ばせばすぐそこにあったから。走り続ける。それは難しいことだと思う。実際に私は何度もくじけたことがある。それでもまた走り続けようと思えたのは、情熱に似た感覚があるから。

燃えるような自分が好きだと思えるから。


 百メートルさきに大きな木が見える。見上げるほどのそれは一人で立っている。誰が何を言おうと意に介さず、愚直に生きているように見えた。目からこぼれる涙に気が付いたのは、ちょうどそのときだった。くよくよ悩んでいた自分がすごく馬鹿らしくなってきた。

込み上げる笑いを爆発させ、私は走る。

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窓の外を這う虫を見つけた。 HaやCa @aiueoaiueo0098

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