第三章・赤い異世界生活~ARURU‘S view➆~

ギルド会館はちょうど街の中心部、大広場に面する一等地に建っています。


……いえ、建っていたと表現するべきでしょうか。

 

せいぜい二階か三階建ての建物ばかりの街並み。

そこに、慄然とそびえ立つ五階建てのギルド会館は、どこかのんびりとした空気が漂う片田舎の街において、一際異彩を放っていました。

 

たとえば街の入り口。

たとえば街はずれにあるホンスさんのお宅からの展望。

まず目につくものといえば、そのギルド会館の仰々しさでした。

 

それがどうでしょう。

 

真っ直ぐに大広場へと向かっているはずのわたくしの目には、一向にそんな建物など見えてきません。


見えるのは相変わらずの瓦礫と落命した人々、そして、統率者が力を失った今……それでも自我を取り戻せないで彫刻のように立ちすくむサラマンドラ。


「やはり……ここら一帯は徹底した破壊ぶりですわね……」

 

ただの焼け焦げた石くれと化した原型をとどめない建物。

人口密度の多さに比例して、密集する黒や赤の死体、死体、死体。

 

量にしても損害の度合いにしても。

目に映る景色は、病院のあった通りとはまた一線を画す、輪をかけた惨状具合です。

 

そんなものたちをすり抜けて疾走するわたくしの横を流れ去っていく、破壊のはじまりにして惨劇の幕開け。

 

おそらくギルド会館の建物も、もはや見る影もなくなっているのことでしょう。

男が言っていた、『街はついで』という発言に、改めて怒りの情が沸いてきます。

 

「そうまでして、自分の研究を成就させた先に、何が残るというのです……」


ギルド会館に運ばれたという荷物は一体なんなのか?

その荷物があれば一体なんだというのか?

 

完膚なきまで敗れ去った男が最後にすがる蜘蛛の糸。

才能たちの中で埋もれてもがき苦しんだ挙句に掴む一本のワラ。

 

実像がまるで見えてこない、不確定な要素です。

警戒レベルを最大限に引き上げておくに越したことはありません。

 

「……ハッハッハッハ……」

 

大広場へと続く緩やかなカーブ。

その途中で、明らかに場違いな高笑いが耳に入りました。


それは歓喜の慟哭。

それは喝采の咆哮。

 

なおも盛大に燃え続ける街並みの中でその実に幸福そうな笑い声は、当人の気持ちとは裏腹に、なんともおぞましく、歪んだものに聞こえます。

 

「やったぞ!やったぞ!これで!これでぇぇぇ!!」


ギルドまでは目と鼻の先。

ちょうど広場へと抜ける大通りの真ん中。


数匹のサラマンドラと複数人の亡骸。

万遍なく焼けただれて身元のわかるようなものは何も残っていません。


ただ、武装をしているところをみるとギルドに属する傭兵か、帯同していたというラクロナ帝国の軍人……もしくは街に潜伏していたという山賊のうちの誰かでしょうか。


そしてその醜悪さで見繕われた輪の中心。

全身の肌の色を赤黒く染めた男が膝をつき、高らかに何かを空へと掲げています。


大きさは両手から大きくはみ出すほどの長物。

ぐるぐると厳重に白い布が巻かれ、その上には何某かの封印魔術の呪文が書かれた札が無数に張られています。


手に持っている感じからすると、それなりに重量感があるようです。

 

「……随分とごきげんですわね」

 

「……よぉ、早かったじゃねーか、天才?」

 

こちらを振り向きもせず、かつてジョルソンだった男は軽薄な感じに言います。

 

「早い早い。俺も相当足は速くなったつもりだったんだが、こうも簡単に追いつかれるとはな」

 

「ええ、我ながらかけっこの才能にまで恵まれているものでして」

 

「早い早い、本当に早い。……しかし……遅かったな」


ブヴァァァ!!

 

男が掲げ持った物体に向かってブレスを吐きます。

 

出力的には、わたくしの背中を焦がしたものと同等くらい。

つまりは敵対するものに対して放つものとなんら遜色のない炎。

 

おそらくはあれが件の荷物かと思われます。 

あれほどこだわっていた割には、随分と扱いがぞんざい過ぎるような気がするのですが……。

 

「……血迷った?……というわけではないでしょう……」

 

炎のブレスが布や札を軒並み焼き払っていきます。

 

布自体は何の変哲もないもので、札にしてもそれ自体に特別な防御効果があるわけでもない様子。

 

ただ、ある程度の魔力を流すことで封の解かれる、特殊な梱包ではあるようです。

 

「……くっくっく……俺程度のブレスでは、シミ一つ付けられないか」

 

自虐の台詞にしては実に嬉しそうに男は言います。


そうして中のものが白日の……いえ、落日の赤の元に晒されます。


「骨……いえ、角ですの?」


確かに、シミ一つない乳白色。

男の胴体よりもまだ太く、真っすぐに長く伸びた造形は先端に行くほど細く鋭くなっていきます。

 

「牙だよ……天才!」

 

ズブリ!

 

何を思ったか、男はわたくしがえぐったままに開いた胸の傷に自分の両手を突っ込みます。

 

只でさえ、並みの人間であるならば致命傷の深い傷。

 

痛みだって相当あるはずですのに、男は笑いながらゴリゴリと自分の体内をまさぐり、傷口を更に押し広げていていきます。

 

……やはりあまりの深手に狂ってしまったのか?


と、何も知らないままであったならそう驚いたでしょう。

 

しかし、あの指に嵌められた指輪、『魔素具』の発動条件を間近で見せつけられた今となっては、それが正気の沙汰で振るわれた、どこまでも理にかなう凶行なのだとわかります。

 

「ハッハッハ!この歴史的な瞬間に立ち会えたこと、光栄に思え!」

 

そううそぶいた男は、次の瞬間、自らが牙と言った白い物体を、胸の穴に突き立てます。

 

もはや男の奇行に驚きはしません。

 

しかし、その牙が胸から背中に抜けることなく、吸い込まれるように男の体内に埋没していくことにはいささか面食らいます。

 

ああ、嫌な予感がプンプンと……。

 

「≪ライトニング≫!!!」

 

バリバリバリバリバリ!!!

 

咄嗟に男の背中に向かって≪ライトニング≫を放ちます。


ガキィィン!


 ……軽くデジャヴですわね。

 

 大方の予想通り、これくらいの雷撃では新たに展開される魔素のバリアに弾かれます。

 そんな無敵状態にある男が、やはり既視感のある虹色の光に覆われていきます。

 

 ラクロナ帝国が直々に欲した代物。

 

 何かの……魔物の牙。

 研究者の見果てぬ夢。

 追い詰められた窮鼠の意地の一噛み。


 まず間違いなく、『魔素具』を使った疑似魔人化の再現でしょう。

 

「……はぁ……律儀に変身シーンを待つ様式美を、まさか自分が実践することになるとは……」

 

「……くくく……」

 

男が背中を震わせます。

 

いえ……違いますわね……。


男から溢れ出るあまりにも大きな魔素の力に、地面そのものが揺れているのです。

 

「ハーハッハッハ!来るぞ……来るぞ来るぞ来るぞ!!力が……俺の宿願が!俺をコケにしてきたやつらも裸足で逃げ出す、俺の人生の到達点がぁぁぁぁぁ!!」


       バサァァァァァ!!


 男が力の限りに絶叫した瞬間。

 こちらに向けたその背中から、空気を切り裂くような音を立てて翼が出現しました。

 

 片翼が身の丈よりも随分と大きな、黒い翼。

 濡れているわけでもいないのにどこか瑞々しい、しっとりと艶のある漆黒の翼。

 

 それが殻を破って世界へと生誕した喜びを全身で表すように大きく、そして自由に広がります。

 

 ……素直に美しいと思ってしまいました。

 

 風を受ける帆の部分の、魔素にも似ていながら遥かに鮮やかな複雑な色合いも。

 それを支える骨組みの部分の形の流麗さも。


 男の邪な思念、体、下卑た笑い声、歪んだ精神から生まれ出でたとは思えないほど。

 

 雅で、清廉で、生命の力に煌めいていて。

 ある種の神々しさ……威厳すら感じる、それはそれは美しい翼です。

 

 ……どうやら、わたくしは間違っていたようです。

 

 わたくしはソレのことを、勝手にまがまがしいものだと決めてかかっていました。

 

 ソレは数ある伝承、数多の逸話によって今もなお畏怖の対象として語られる存在。

 ソレは歴史の節目の度、表にも裏にも必ずと言っていいほどあらわれる伝説の存在。

 

 古代の生あるものの頂点。

 ≪現人あらびと≫の思念が生み出した至高。

 

 伝説中の伝説。

 魔獣の中の魔獣。

 覇王の中の覇王。

 

 「……ドラゴン……ですの?」

 

 「今度はご名答だ、天才」

 

 男は立ち上がり、その翼を生やさせた素材であろう牙……ドラゴンの牙を捧げ上げます。

 

 「ラクロナ大陸の遥か北に存在する氷に閉ざされた大地。……その氷壁の中に祀られるように鎮座していたという古代からの記憶の箱舟≪龍遺物ドラゴノーツ≫だ」

 

 

 何者の追随を許さぬ強大な力によってこの世界で栄華を築き上げたドラゴン。

 

 いわく、人の身からすれば永遠にも近いほどの長寿。

 いわく、吐息一つで島を丸々吹き飛ばせるほどの力。


 体表面を覆うウロコは、どんな他者にも犯すことのできない圧倒的な硬度をほこっていたそうです。

 

 何を語っても規格外。

 なんと語られても埒外。


 あまりにも強大すぎるその力に魅せられたがゆえ、ドラゴンを神と定め、本来のこの世界の創造主たる≪創世の七人≫よりもよほど神聖視して崇め奉る宗教などもあるくらいです。


 この世界を支配するためだけにあつらえられたような別次元の生物、それがドラゴン。


 しかし、ここで歴史伝承によくある矛盾が生じます。


 それほどまでに崇高で、尊き存在であるはずの彼ら。

 不老や不死の象徴として、いの一番に名前が挙がる彼ら。


 そんな彼らも、この現代においては一個体も現存が確認されておりません。


 どれだけその強さ崇めても。

 恐れおののき、震えてみても。


 全ては過去形でしかドラゴンを語ることはできません。


 例の宗教の経典には、遥か天上へと旅立ったドラゴンがそこで王国を築き、そこからわたくしたちを常に見ていて、善行を積み重ねた者だけが、死後にその国へと招かれるのだと記されています。

 

 眉唾も眉唾。

 

 魔術や魔素の摩訶不思議に接しなれたわたくしたち≪幻人(あらびと)≫にとっても、さすがにそれは無いだろうと笑い飛ばされる教えです。

 

 ドラゴンは滅んだ……それが一般人の間での通説。

 それが帝国が公式な歴史として制定し、大陸全土に広めた一般常識です。

 

 まぁ、それにしたところで、その滅びの詳細な記録がどんな文献、口伝にも残されていないわけなので、真偽のほどまではわかりません。

 

 要するに言ったもん勝ち。信じたもの勝ちなのです。

 

 ですから、もしかしたら本当にわたくしたちの見上げる空の上にドラゴンの楽園があり、招かれた人々が永劫の安楽にどっぷりと首まで浸かって幸福に暮らしていたりするかもしれません。


 少なくとも、わたくしはあったっていいという考え方です。

 それを証明できる材料がない反面で、実は否定できる確かな根拠だってないのですから。

 

 ……しかし、ときおり見つかるのです。

 

 ドラゴンの滅びの証拠とされるもの。

 帝国の歴史認識が正しいことを裏付けてしまう逸品が。

 

 それが……。

 

 「≪龍遺物ドラゴノーツ≫……。ドラゴンの体のパーツ。彼らの残した最後の記憶」

 

 「やはり、あんたも知っていたか。魔素以上に極々少数の人間しか知り得ない……帝国がひた隠しにしている……ドラゴンの存在、そして滅亡を証明するその亡骸のことを」

 

 「……ええ、これでも魔術歴史学にはそれなりに精通しているつもりですので……その流れの中で、どうあってもドラゴンの存在は無視できるものではありませんもの。現物を見たのはさすがにこれがはじめてですが」


 「感じるだろ?垂れ流すだけ垂れ流している、とんでもない量の魔素の波動が?」

 

 「……ですわね。魔力ならばともかく、ここまで明確に魔素の流れを感じとった経験、一度もありません」

 

 「≪龍遺物ドラゴノーツ≫……世界に一体どれだけの数が散らばっているのかはわからない。一個体のものなのか、それとも複数頭バラバラに残っているのかも定かではない。……ただ、こうやって主の肉体を離れてなお、幾千か幾百年かの時を経てもなお、腐敗も劣化もせずに威光を失わない、とんでもないものであることは確かだ。……こうやって実物に触れてみて、その存在を帝国が秘匿し、独占しようと目論む気持ちもわからんでもないな」

 

 「……秘匿?」

 

 「そりゃそうだろう?牙のたった一本でこれだけの魔素量だ。うまく軍事利用できれば帝国の支配もいよいよ盤石、新大陸にまでその強欲な魔手を伸ばすことも可能だろう。……逆にこんなものが、今は力で抑えつけている諸王国の手になんかわたってしまったらどうなると思う?帝国側に傾いているパワーバランスが大きく揺らぎ、新大陸どころか、このラクロナ大陸において再び血みどろの覇権争いが行われること請け合いだ」

 

 「……軍事力の強化と抑止力。そして他国の下克上の芽を摘むため、ラクロナ帝国はその存在自体を隠し、秘密裏に≪龍遺物ドラゴノーツ≫を収集している……ということなのですね?」

 

 「ああ、そうだ。非才だと早々に見切りを付けられたが、俺が軍にスカウトされたそもそものきっかけも、研究テーマが魔素の力をそのまま肉体ないし物に流用するというものだったから……つまりは≪龍遺物ドラゴノーツ≫を単なる加工品の素材ではなく、≪龍遺物ドラゴノーツ≫そのものを兵器として有効に活用するという軍の研究方針に沿ったものだったからだ。……まぁ、どれだけ帝国の陰謀を暴き訴えてみたところで、俺やあんたみたいなただの一個人、口封じに消されるのがオチだ。俺にそんなつもりはサラサラないが、帝国にしてみればちょっとした爆弾。不安分子は即刻排除。だからこそ、俺はこんな辺鄙なところで隠れ住む羽目になっているわけだ」

 

 この男、舌が伸びようが翼が生えようが、相も変わらずペラペラとおしゃべりですの……。

 自分の発言こそ結構な爆弾だと気づいてはいないのでしょう。

 

 ただの一個人……。

 ただの旅する魔術剣士の少女相手に得意になるのならば、とりたてて問題はありません。

 

 ですが、わたくしは一国の姫君。

 

 まだ正式に国の運営に関与できる立場ではありませんが、わたくしの耳に入った情報は、そのままラ・ウール十三世という諸王国の中でも発言権のある国の主へと伝わります。

 

 確かに、己の野望に飲み込まれた男の酔狂な発言だけでは帝国を追求できるだけの証拠には足りないでしょう。

 

 それでも、調べてみる価値はありそうです。

 別に、わたくしもお父様も、帝国に喧嘩を売りたいわけではありません。


 しかし、もしもその力が我が愛すべき国民に害を成す可能性があるようならば、見過ごしていいことではありません。

 

 ああ、またしても。


 必ず生き残らなければならない理由ができてしまいました。


 誰かの想いだけではなく。

 ともすればラ・ウール王国や、その他の国々の人たちの命まで背負わなければなりません。


 重たくて、重すぎて。


 ……俄然やる気になってきてしまうではないですか。

 

 そろそろ宴もたけなわです。

 役者も舞台も最高潮。

 

 ……さてさて、ラストバトルのお時間です。

 

 「……それで?そろそろ得意の不意打ちが来る頃かと待ち構えているのですが?」

 

 わたくしはレイピアの切っ先を、無防備に翼と背中をさらず男の方へと向けます。

 

 その気配を感じてか、男が膝立ちの体勢からのっそりと体を起こします。

 

 ひどく重たげで緩慢な動き……。

 翼が重いのか、まだその体に慣れていないのか……。

 

 「それとも、今度はこちらから斬りかかればよろしいのでしょうか?」

 

 「……いや……戦いでも駒遊びでも、俺は先行逃げ切りってのが好きなんだ」


 ……いいえ。

 

 重い軽いなど重量の問題ではありません。

 どちらかといえば、疲労感や倦怠感。

 頭の動きの鈍さがそのまま体に直結しているような大義そうな動き方。


 ズゴォォォンン!!!


 

 「うぐぅぅ!!!」

 

 「まぁ……逃げ切る必要はないかもな」

 

 不意打ちではありません。

 正真正銘、正々堂々、真正面。

 

 地面を蹴ったであろう音と土煙があがったのを耳と目でとらえた次の瞬間、ガッと男の手がわたくしの首をつかんでいました。

 

 凄まじい早さ。

 

 直前までの気怠げな動きとの緩急もあって、まともな防御一つ取れずにわたくしの首は男の手の中におさまってしまいました。

 

 ギリギリギリ……。

 

 「がぁぁぁ……」

 

 締めあげる……なんて生易しいものではありません。

 男はそのまま途轍もない握力で、躊躇なくわたくしの首の骨を折りにきます。

 

 「あんたが油断ならない強者だということはこれまでの戦いで重々理解している。だからこのまま速攻で決めさせてもらう。……本来ならこんな中途半端な変質だけで立ち向かいたくないところだが……」


 「ぐぅぅ……は……『爆ぜろ』!!」

 

 ドゴォォォンン!!


 「ぐ……」

 

 「くぅぅ!!」


 躊躇なく息の根を止めにきたのが、かえって幸いしました。


 もしも相手が締め落とすために頸動脈をねらってきたのなら、わたくしは何もできずに気を失い、あとは男の成すがままになっていたことでしょう。

 

 わたくしの首の骨が折れるまでと意識が落ちるまで、時間差にしてほんの数秒。

 しかし、その数秒の猶予が、わたくしに、ポシェットの中から魔道具を取り出す間を与えてくれました。

 

 男の眼孔に埋め込む勢いで起動させた『爆裂石』。

 魔術の中でも特にゴリゴリの火力押しである爆裂系の魔術を封じ込めた魔道具。

 威力自体は大したものではありません。

 

 そもそも魔素の壁が爆熱を簡単に阻んでしまいます。

 

 それでも意表をついてこのゼロ距離で爆ぜさせれば、元々、武芸者ではない研究職の男が備えている程度の胆力と実践経験であるなら、わずかにでも腕の力を緩めることぐらいはできます。

 

 ……もちろん、わたくしの方でも無傷とはいかない荒業。

 石を握りしめたわたくしの手の平は、壮大に赤く爛れてしまいます。

 

 「……手癖が悪い小娘……だっ!!」

 

 ズドゥゥゥンン!!

 

 「がっ!!」

 

 手の火傷などお構いなしに、なおも追撃を計ろうとするわたくしの気配を察し、男は首折を諦め、攻撃を蹴りへと転換します。

 

 やはり早い。

 そして重たい前蹴りをみぞおちにくらい、わたくしは吹き飛ばされます。

 


 「つぅぅ……≪ライトニング≫!!」

 

              バリバリバリバリバリ!!!

 

 ただし、直撃する寸前に後ろに飛んで衝撃を最大限に殺していたので、我慢できないほどの痛みではありません。

 

 少しでも距離ができたのは僥倖。

 すぐさま体勢を整えて、電撃を放ちます。


 「……ふん」

 

 右手の一振りで、≪ライトニング≫が弾かれます。

 

 「『爆ぜろ』!!『爆ぜろ』!!」


            ドゴォォォンン!!ドゴォォォンン!!


 『爆裂石』の同時起動。

 さらに……。

 

 「≪フリージング≫!!」


            ピキピキピキ……。


 氷結魔術≪フリージング・パレス≫の下位互換である≪早撃ちクイックドロー≫。

 威力も規模も更に小さく、足元を凍らせるくらいが関の山。


 「この程度!」


             パリィン!

 

 完全に凍り付く前に足蹴にされ、あっけなく魔術がかき消えます。


 「『煌めけ』!!」


             キィィィィィィィン


 その動作の隙に、さきほどの『爆裂石』と同様、『閃光石』を男の面前に投げつけます。


 「ちっ……こざかしい……」

 

 眩い閃光に、男は元から細い目を、ことさらに細めます。

 

 そう……実にこざかしいでしょう?

 

 強烈な光ではありますが、そもそも攻撃力など皆無のただの探索用魔道具。

 このような使い方、本来の用途とはかけ離れています。

 

 なしのつぶてを投げつけるよりもまだ愚かな行為。

 ええ……もちろんわかっています。

 

 ただ……。

 少しはそんなふうに気を逸らすことができるでしょう?

 

 「せぇぇぇぇいいいい!!!」

 

 一瞬の溜めからの、刺突。


 ガキィィン!!

 

 「せぇいりゃぁぁぁ!!!!」


 ガキィィン!!

 ガキィィィィンンン!!

 ガキィィィィィィンンンンンン!!!

 

 突く、斬る、薙ぐ。

 刺す、斬り上げる、振り下ろす。

 そして、様々な角度からわたくしが繰り出す剣撃。


 これもまたデジャブ。

 そのことごとくが魔素の壁に弾かれます。

 

           キュイイイイィィィィィンンンンンン……

 

 「せぇぇぇぇいいいい!!!」


 グワキィィィィィィィンンン!!


 今宵一番の全力全開で魔力付与したレイピア。

 

 「せぇぇぇぇやぁぁぁぁぁ!!!」


 グワキィィィィィィィンンン!!

 グワキィィィィィィィンンン!!

 グワキィィィィィィィンンン!!

 

 ……ピィキィィンン!!

 

 渾身の魔力を込めたその連続攻撃を受け、魔素のバリアに一筋ヒビが入ります。

 

 「そこぉぉぉぉぉ!!」


 グゥワキィィィィィィィィィィンンン!!

 

 ここが決め所と定めたわたくし会心の一撃。

 

 ……ビキビキビキ……パリィィィィンンンン!!

 

 バリアの脆いところを集中的にねらい穿ち、ついに魔素で構築された壁が砕け散ります。

 

 どれだけドラゴンの力を借り受けても、やはり『魔素具』自体の作り込みはまだまだ未完。

 

 翼しか再現できなかったところをみても、リザードマンの再現くらいが限界のようです。

 

 「これでとりあえず条件はイーブンですの」

 

 キラキラと虹色に輝く魔素の破片が降り注ぐ中、わたくしは男を力強く見据えます。

 

 鉄壁と思われた魔素の壁。

 

 それを破られ、さらに十数年の苦心の末にようやく頂きへと上り詰めたと自負するこのプライドの塊である男にとって、これで対等だと言われることは神経を逆なでる発言以外の何物でもありません。


 「やはり……やる……」

 

 しかし、男は驚くでも戸惑うでも狼狽するでもなければ、もちろん、喜ぶわけでもなく。

 顔色一つ、表情一つ変えません。

 

 それどころか、魔素の壁が取り払われたことも、わたくしという敵が剣を構えていることにもまったく興味が沸かないという様子。

 

 改めて眺める男の姿。

 

 ウロコを帯びるわけでもなく、口が裂けるでもなく。

 相変わらずの赤黒い肌と細い爬虫類顔。

 

 胸の傷が乱雑に塞がっているのと背中に翼が生えた以外、見た目には目立った変化はありません。

 その分、内包した力。身体能力の更なる向上など、目に見えない部分が特出しています。


 「…………」


 ただ、些細にして明確な変化。


 どこまでも気だるく重たそうな体。

 時間を追うごとに、薄くなる感情の色。

 

 あれほど饒舌だった舌がまるで回り方を忘れてしまったかのように固まり、細い瞳には色がなく、わたくしを見ているようで、その実、何も目には映っていないのかもしれません。


 体の倦怠感については、ゲートをくぐり抜けてきた直後のイチジ様の症状に似ています。

そして、その虚ろな瞳は……。


 「……あなた……まさか?」


 ブオォォォォンンン!!


 「っつ!!」

 

 無言のまま振るわれる拳。

 早さは相変わらずですが、なんの捻りもない直線的な掌打。

 ギリギリどうにか目で追える許容範囲で、辛くもよけることができました。

 

 「………………」

 

 ブオォォォォンンン!!ブオォォォォンンン!!

 

 二度、三度と同じように拳が迫り、同じように躱します。

 

 相手にとってはおそらく大ぶりな単発攻撃でこれですから、もしも、わずかにでも技巧的な連打が来た場合、さすがにさばききれる自信がありません。

 

 ……しかし、その心配はしないでもいいかもしれません。

 

 「……あなたのそれは紛れもなく魔素中毒です!そのまま放出しないでいると、魔素にすべてを侵食されますわよ!」

 

 「…………」

 

 ブオォォォォンンン!!ブオォォォォンンン!!

 

 「っつぅ!……おやめなさい!身に余り過ぎる力に体も心もついてきていないではありませんか!!」

 

 もはや男の拳に相手に攻撃を当てるための技はおろか、殺気すらのっていません。

 

 愚直に振り回すだけの拳。

 何も見ていない虚ろな瞳。


 わたくしはこの瞳を知っています。

 

 自我を奪われ。尊厳を奪われ。

 他者が吹いた笛の音一つで体も精神も蹂躙され。

 ただの身勝手な欲望のために虐殺の道具へと成り果てた、あのサラマンドラたちの瞳です。

 

 「……あうあ……」

 

 「……因果というものは往々にして応報……ですの」

 

 これはもう……ダメです。

 

 頭の中までドラゴンの魔素が侵食し、己をまったく見失っています。

 本当にホントの手遅れです。

 

 自分自身が使役していた魔獣と同等のところまで思考レベルが落ちぶれてしまいました。


 ……とてもシエルさんにこの姿はお見せできません。

 

 夫の最期を普通の人間として終わらせてあげたいと言った彼女の願い……。

 どうやら、わたくし程度の力では叶えてあげられそうにありませんの。

 

 「≪龍遺物ドラゴノーツ≫ですか……。やはり人間ごときが安易に手を出していい代物ではないようです。ラクロナ帝国は、真剣にこれを実用化できると思っているのでしょうか……」

 

 「……ど……どらご……どらご……のーつ……」

 

 わたしの発した≪龍遺物ドラゴノーツ≫という単語に反応したのか、男の瞳に、僅かですが光が戻ります。


 男にとって、それだけ疑似魔人化……それもドラゴンの遺物という最高峰のエッセンスを使用するということは、人生をかけた宿願であったのでしょう。

 

 どれだけ脳を侵されていても。

 どれほど自分を見失っていても。

 

 ≪龍遺物ドラゴノーツ≫という言葉一つ、耳に入ってくるだけで、埋没した自我が反応してしまうほどに。

 

 「お……おれ……は……おれ……は……どら……ご……」

 

 「もう……やめましょう?」

 

 わたくしはレイピアの切っ先を虚ろな男の目線に合わせるように構えます。

 

 「いえ……この手でやめさせてもらいます。……もう……見ていられません」

 

 男はしつこくわたくしを自分と同族だと言い続けました。

 己の欲求のために、街一つを壊滅状態にまで追い込んだ自分と同じ穴のムジナだと。

 

 なんと気分が悪いことでしょう。

 やはり何度言われたところで、一つまみだって賛同する気にはなれません。


 ……しかしながら。


 分野は違えども同じ研究者。

 一つの学問を突き詰め、その深淵にまでたどり着きたいという想いだけは理解できないこともないのです。

 

 ええ、理解できてしまいます。

 見方を変えれば、やっぱり同族。


 わたくしもきっと……。

 一歩……いいえ、半歩でも己の道を踏み外せば。

 

 きっと今、こうしてわたくしの目の前にいる。

 かつては純粋無垢な田舎の神童だったこの男と同じようなことをしてしまったのかもしれない。

 

 その恐怖が。その嫌悪が。

 そしてだからこそ、踏み外してしまった男の所業に対する怒りが。

 わたくしに譲れない意志を宿した刃を構えさせます。

 

 「おれは……おれはぁ……おれはぁぁぁ!!」

 

 「まいりますわ!!」

 

  キィィィィンンン!

 

 男の拳と、わたくしのレイピアが交錯します。

 

 魔素の防壁がなくなった今、あとは純粋な肉体同士の強さの問題。

 見たところウロコらしきものは表れていないので、それほど驚異的な防御力をほこっているわけではなさそうなのですが……。

 

 「せりゃぁ!!」

 

 キィィン!

 

 「……固い!」


 キィン!キィン!キィィン!!ガキィィィン!キィン!!

 

 まだこの男が人間だった時にナイフと相対したのと同じく、硬質な金属音が響きます。


 キィン!キィン!キィィン!!ガキィィィン!キィン!!


 無手の相手との攻防で、このような金属音。

 普通なら考えられないことです。

 

 しかし、相手はドラゴンもどき。

 ウロコなどなくとも、体表面の硬度はそこらのナイフなどよりよほど硬いです。

 

 それでも肉を斬りつける確かな手ごたえが刃から伝わります。

 これなら……。

 

 「おれは……おれ……は!!」


 キィィィンン!キィン!キィン!キィィン!!キィィィィンンン!

 

 「おれは……あいつらに……おれをみくだしてきた……あいつらに!!」

 

 キィィィンン!キィン!キィン!ガキィィン!ガキィィン!!

 

 「っく!!」

 

 「おれはおれはおはおれはおれはおれはおれはおれはぁぁ!!」

 

 キィン!キィン!キィィン!ズブゥン!

 

 「ぐはっ!」

 

 再燃した感情。

 それも唯一、ただ劣等感によって駆り立てられた拳が、その早さと重さを増していきます。

 たまらず一発受けてしまったお腹から、熱と共に痛みが押し寄せます。

 

 「こん……のぉ!!」

 

 ズバァシュゥゥゥゥ!!

 

 「ぐおぉぉ!!」

 

 痛みにひるみそうになる体に鞭打って放つカウンター。

 修復の跡が残る胸の傷、そこを的確にとらえた刺突が表情のない男の顔を明確にしかめさせます。

 

 「せぇぇいいい!!」

 

 「おおおおお!!」

 

 キィィン!キィィン!バコォォ!キィィン!ズバァァァ!

 キィィン!ズバァァ!キィィン!ズドォォン!


 まさしく一進一退。

 

 殴られた分だけ斬りつけ。

 刺した分だけ殴られる。

 

 力の拮抗した者同士の、どちらも一歩もひかない攻防が繰り返されます。

 

 「っつぅ……いた……痛くないですわ!!」」

 

 「ああああああぁぁぁ!!」

 

 「ぬりゃぁぁぁぁぁ!!」

 

 「あああああぁぁぁぁ!!!」

 

 「ふんにゃぁぁぁぁ!!!!」

 

 キィィィンン!ギィィィンン!バギィィィィンン!

 バギィィィィンン!ガギィィィン!バキィィィン!!

 

 気合の咆哮とともに、戦いも熾烈さを増していきます。

 

 響き渡る剣音。

 荒れ踊る火花。

 膨張する筋肉。

 沸騰する血潮。

 

 魔術も魔道具も使う隙がありません。

 ブレスを吐き出す暇も与えません。


 ああ、なんという脳筋展開。

 

 乙女の嗜みも、淑女の慎みもあったものではありません。

 これではまるで、わたくしに剣術をご指南してくださった先生のよう……。

 

 とりあえず気合と根性だけで何もかも解決できると妄信し、そして実際に解決してしまう、ある意味ではドラゴンよりも出鱈目な存在。

 

 もしかしたら、わたくしの背後には、先生のアストラル体がその白すぎる歯を煌めかせて微笑んでいるかもしれません。

 

 『気合いだ!アル坊!』


 「……だから……わたくしは女の子だって何度言わせるんですのぉ!!」

 

 キィィィンン!ギィィィンン!バギィィィィンン!


 「せりゃせりゃせりゃぁ!!」

 

 キィィィンン!ギィィィンン!バギィィィィンン!

 スバババババ!!ズシャァァァァ!!


 「ぐがぁぁぁ!!!」

 

 力任せにガードをこじ開けた相手の体に、わたくしの得意技、5連刺突からの一閃『ヘキサゴン・スクリーム』がクリティカルヒット。


 気合いの一押しでこの均衡状態をどうにかしてしまいましたわ。

 

 「……ああ、認めたくない。……≪フリージング≫!!」

 

             ピキピキピキ……


 会心の一撃にひるんだ閑間を見逃しません。

 

             ピキィィィン!!


 今度の≪フリージング≫は確実に男を凍り付かせます。

 

 座標は足元ではなく顔面。

 意思は無くとも本能によってギラつく瞳を見開いたまま、男の顔が氷によって固まります。

 

 そしてすかさず……。


 『その一閃は空を穿ち、大地を抉り、海を分つ稲光』


 わたくしは後ろに飛びながらの魔術詠唱を開始します。


 『誰がために鳴るのかもわからず、誰がために在るのかもわからず』


 「……ううう……があああ!!」


             パリィィン!!


 まぁ、所詮はわたくしごときの≪早撃ちクイックドロー≫。

 あっという間に氷は破られてしまいます。


 『我は槍、我は御剣、我は鉾、ただ万物を刺し貫くものなり』


             バチバチバチ……。


右の手の平……さきほどの『爆裂石』によって焼けただれた手の平が青白い雷光に包まれていきます。


 「……ぶぅぅぅ……」

 

 遅れて男もブレス攻撃の予備動作に入ります。

 溜がいらないところは相変わらず。

 

 サラマンドラの上位互換だからなのか、はたまたドラゴンの能力なのか。

 とりあえず……今はどちらでもいいですわね。

 

 吐き出すことができないのに、変わりはありませんの。


 『閃き轟け!≪ボルティック・レイ≫!!!!!』


                ヒュィン……


          ドゴゴゴゴゴゴォォォォォォォンンンンン!!!!!!


 雷撃砲≪ボルティック・レイ≫。

 数ある詠唱魔術の中でも、わたくしが好んで使用する魔術です。

 

 すべての属性、あらゆる魔術を網羅するわたくし。

 属性によって得手不得手の差は特にありません。

 

 そういった偏りの無さこそ、わたくしに全属性の魔術を発動可能にできる異能であり才能です。

 

 ただ、好き嫌いは少なからずあります。

 

 相性や状況によって使い分けをしているわけですが、純粋に威力だけを求める時は、だいたい≪ボルティック・レイ≫を選びます。

 

 単純な火力の強さと早さが魅力的。

 

 そして何より、詠唱の言葉の中に含まれる意味や潜んだ世界が好きだということが一番の理由でしょう。

 

 真っ直ぐに伸び、決してブレることのない一振りの刃を連想させる詠唱。

 それがわたくしの琴線に触れるのです。

 

 できるならば、そうありたい。こう生きていきたいという憧れ。

 

 魔力の根源が想いの塊である魔素であるならば、わたくしのその憧憬だって立派に魔術の威力に反映されているハズです。

 

 「手ごたえも充分。……ほぼほぼ決まり……でしょうね」

 

 ですが油断はできません。

 

 雷撃砲に抉られた石畳から上がる土煙。

 ホーンライガーとの戦いではその視界が晴れた瞬間にとんでもないカウンターを受けてしまいました。

 

 短時間で二度の詠唱魔術です。消耗と発動後の硬直によって体の動きが鈍くなっていますが、警戒だけは絶対に解きません。

 

 「……ぐぅぅぅぅ……」

 

 土煙の中から唸り声が聞こえます。

 

 苦し気で、苦々し気で……。

 

 曲がりなりにもドラゴンの魔術耐性。

 やはり即死というわけにいきませんでしたか。

 

 追撃の魔術は……ダメですわね。

 魔術路がオーバーヒート手前ですの。


 「それならば!!」


            キュイイイイィィィィィンンンンンン……


 動かない全身、そして改めて右手に持ち替えたレイピアに魔力を通して、無理矢理に硬直を解きます。

 

 オーバーヒート手前ということはまだ幾ばくかの余裕があるということ。

 チリチリと体の内側に焼け付くような痺れが走りますが、まだいけます。

 

 そう、結局。

 

 なんだかんだと言ってみたところで……。

 

 「最後は……気合いですのぉぉぉ!!」

 

 そう叫びながら地面を蹴り、土煙の中に突進します。

 

 真っ直ぐに伸び、決してブレない輝くレイピアの刃。

 

 憧れに少しでも届くようにと鍛え上げた剣技が、土煙を薙ぎ払いながら敵へと向かっていきます。

 

 ズブシャァァァァ!!!

 

 「ぐがぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 何かを確かに貫いた感触があります。

 

 わたくしの纏った魔力、男から霧散していく魔素。

 

 巻きあがる力の乱流に視界が晴れ、最初に視認したのは、≪ボルティック・レイ≫によって半身を吹き飛ばされ、更にはわたくしのレイピアに深々と胸を穿たれた、かつてジョルソンだった男の悲痛な表情でした。

 

 「……終わりですの……」

 

 「……ごばぁぁ!!」

 

 男の口から噴き出した血がわたくしの頭に降り注ぎます。

 

 毛先が焼かれた髪。

 汗や血潮でベタつく肌。

 

 ホーンライガーとの戦いでもだいぶ汚れましたが、今回もまた全身血まみれの泥まみれです。

 

 「ここまで魔素に侵されたあなたの魂が、人間と同じところに還れるのかはわかりません。……ただ、できることなら……今度は普通のお医者様として……自己犠牲の精神を忘れずに人々のお役に立てる立派なお医者様として生まれ変わってくれることを、わたくしは心から願っていますわ」

 

 「……うううう……お……おれ……は……てんさい……てんさいなんだ……」

 

 「……シエルさん……お許しを!」

 

 ズシャァァァ!!

 

 レイピアを引き抜くと同時、わたくしは袈裟懸けに刃を斬りつけ、切なげな嘆きとともにトドメをさします。

 

 元から半身を失った体が二つにわかれて地面へと落ち、泡状の魔素が抜け出ていきます。

 

 「どれだけ魔人化したとしても……人殺しの後味の悪さに変わりはないですわね……」

 

 血糊を払い、レイピアを鞘に納め、その柄を撫でます。

 間に合わせのつもりで買い求めたものでしたが、存外わたくしとの相性が良かった細剣。

 

 「……お疲れ様でした。あなたのおかげでだいぶ助けられましたの……」


 片田舎の街の武器屋でひっそりと眠っていたハズであるのに、魔獣や魔素のバリア、硬い魔人の体に何度も打ち据えられる羽目になり、刃こぼれや脂で刀身はボロボロ。


 それでも最後まで折れずにわたくしを守ってくれたレイピアに、深い感謝の念を感じます。

 この武器がなかったのなら、この街を脅かす厄災を排除することは難しかったことでしょう。

 

 「……まさかモドキとはいえ、あの伝説のドラゴンを相手にする日が来るだなんて想像もできないですわよね……普通……」

 

 そう……。

 ドラゴンと戦い、勝ったのですわね、わたくし……。

 

 ああ、ダメ……。

 一気に気が抜けていきます。

 

 そんな慢心、戦場の上では抱いてはいけないとあれだけ身に染みていたハズですのに。

 ふらふらとした足取りで、とりあえずその場を後にするわたくし。

 

 意識が……遠のきます……。

 

 いけません……。

 まだイチジ様の安否確認も……シエルさんたち以外にいるかもしれない生存者の安全の確保も……。

 

 まだまだやらなければならないことがたくさんあるのです。

 

 ああ……ダメ。ダメですわ、わたくし。

 

 どうしてこんなに眠たいのです。

 

 ああ……そうでしたわ……。

 

 戦いの興奮状態ですっかり忘れていましたが、あの馬鹿力でわたくし、したたかに殴られたんでしたわね……。

 

 未完成の段階であの力……。

 

 ≪龍遺物ドラゴノーツ≫……やはり明確な脅威ですわ。

 

 …………

 ……

 …


 ≪龍遺物ドラゴノーツ≫?


 そういえば……男の体に吸収されたと思しきドラゴンの牙は……?


            ドゴォォォォォォォッォォンンンンンンンン!!!


 意識が途切れるその寸前。

 突如湧いて出た疑問と背後から響く爆音に、刈り取られるはずだった思考が一息に覚醒します。

 

 「……なんですの!?」


 と、疑問を挟む余地もありませんか……。

 

            バサァァァァァァ!!!!


 振り返ったその先。

 その聞き覚えのある風切り音。


        バサァァァァァァ!!!!バサァァァァァァ!!!!


 『濡れ羽色』という色はこういうもののことを言うのでしょう。

 

 妖しさと清廉さを併せ持った艶めかしい漆黒。

 角の先から尻尾の先端まで、混じり気の無い美しい黒。

 

 翼の薄皮部分は、まるで水の流れのように魔素の虹色が循環して渦巻き、金色に輝く瞳からは、強い強い生命力を感じます。

 

 あまりにも神々しい姿。

 あまりにも常識を超えた力の波動。

 

 「……ここで……ドラゴンのご降臨……ですか……」

 

 神話の顕現。

 伝説の具象化。

 ドラゴンが、わたくしの目の前で大きな大きな翼を広げています。

 

 もはや、レイピアを構える気力も湧きません。

 満身創痍の体。

 枯渇した魔力。

 

 ようやくボスを攻略したと思った途端、即座に裏ボスが出現だなんて……。

 

 「これは……いわゆる詰み?」

 


      キュオオオオォォォォォォォンンンン!!


 漆黒のドラゴンが夜空に向かって咆哮します。

 

 人間でいうと産声にでもあたるのでしょうか。

 永い眠りから覚めたと言うよりは、新しく生誕した喜びを表すような力強い雄たけび。

 

 リザードマンの甲高い声や、サラマンドラのそれともまた違う。

 普通の人間や、低級の魔物なら、それだけで卒倒してしまうような威厳に満ちた鳴き声です。

 

 「っく!!!」

 

 選択に迷いはありません。

 わたくしは踵を返し、再びドラゴンに背中を向けると、一目散に走りだします。

 

 なぜドラゴンの本体が顕現したのか。

 ジョルソン氏と同様に街を焼き尽くすつもりなのか。

 

 情報量が足りない今、戦闘する力もない今は、とにかく逃げる以外の選択は愚行でしかありません。

 

 「……とりあえず……どこか建物に……」

 

         「「「「「キュロロロロロロロ……」」」」」

 

 すっかり聞きなれた鳴き声。

 ドラゴンでもリザードマンでも出せない、柔らかな喉の筋肉を震わせるような鳴き声。

 

 「……自身の起源である存在の復活に、自我を取り戻しでもしましたか……」

 

 わたくしが駆けていくその横で。

 まんじりともせず、置物のように通りに立ち尽くしていた無数のサラマンドラが、一斉に動き出します。

 

 目には宿る確かな意志。


 相も変わらず緩慢な動きの中にもどこか今までとは根本的に違う機敏さがあり、忙しなくキョロキョロとしながら、ときおり見境なく炎のブレスをまき散らす個体までいます。

 

 街の殺気にあてられた低級魔物たちと同じく、ドラゴンの放つ波動に破壊衝動が刺激されているようです。


 「ああ……いやになる……」

 

 思わず、憎き敵だった男の口癖が口をついたことの方に嫌になります。

 

 すべてを諦め、絶望し、安易な道へと逃れた醜悪な男と同じセリフ。

 わたくしまで、ここから生きて帰ることを諦めて絶望しているみたいではありませんか……。

 

 「気合だぁぁ!気合ですわ、わたくしぃぃ!!」

 

 それならば、もっと強烈な人の口癖を真似て自分を奮い立たせるだけ。

 

 まったく……。

 なんでこんな時に、あの暑苦しい脳筋中年の顔を思い浮かべなければならないんですの。

 

 乙女的には……。

 恋する乙女的には、ここで愛しい殿方の姿を想像するところでしょうに……。

 

 「……イチジ様……」

 

 封じ込めていたはずの想いが、前面にでてきてしまいます。

 

 ああ……イチジ様に会いたい……。

 どうにかこの絶望的な状況を切り抜けて、イチジ様の無事な姿をこの目で見たい。

 

 そして、頑張ったなって……。

 こんなに薄汚れていても美少女だって……。

 頭をまた優しくポンポンしてほしいです。

 

 力尽きて、後のことを何もかも託して。

 イチジ様の厚い胸に抱かれながら意識を飛ばしてしまいたい……。

 

 「キュロロロロロロ……」

 

 サラマンドラが、指令(オーダー)ではなく、本能の赴くままにわたくしの前に立ちはだかります。

 

 「お願い!!」

 

 ボロボロのレイピアを魔力付与しつつ鞘から抜き放ちます。

 

 「お願いだから、道を開けてください!!」

 

 「ぐぅぅぅぅぅぅ……」

 

 「このまま……わたくしを行かせてぇぇ!!」

 

            ブバァァァァァァァ!!

 

 「くぅぅぅ!!」

 

 わたくしの切なる願いもむなしく、サラマンドラはブレスを吐き出します。

 どれだけ弱っていても、この程度ならばまだまだ簡単に退けられます。

 

 「もう……こんなことに意味なんてないでしょうに!!」

 

 ズバシャァァァァ!!

 

 「キュロロロォォォンンン!!」

 

 疾走する足を緩めず、そのまま振るったレイピアがサラマンドラを切り裂きます。

 

 まさに火事場のなんとやら。

 弱点などつかずとも、一撃でサラマンドラを撃破します。

 

 「……イチジ様!イチジ様!いらっしゃいませんの!?イチジ様ぁぁ!!」

 

 わたくしは次々と迫りくるサラマンドラを斬り伏せ、ドラゴンから逃げるようにしながら、イチジ様の名を叫びます。

 

 あの方に会えれば……。

 

 特別な力もなく。自ら魔力を精製することもできない異世界人。

 ドラゴンはおろか、サラマンドラ相手にも危険なことこの上なく。


 何より、本来であれば彼に頼ってはいけない立場のわたくしです。


 ですが、その時、わたくしの頭を占めていたのは、イチジ様と合流さえできれば、何もかもが。

 それこそ、今夜、ドナの街が見舞われた悲劇から予想外のドラゴンの登場までのすべてが。

 うまく片付いてしまうのではないかという、まるで根拠のない信頼に他なりません。

 

 「イチジ様!イチジ様ぁ!!イチジさ……」


           キュオオオオォォォォォォォンンンン!!


 ああ、最悪。

 

 絶対に耳に入れたくなかった鳴き声が、わたくしの頭上から聞こえてきます。

 

 なんだってわたくしを追いかけてきますの!?

 人間だから?逃げているものだから?

 それとも≪龍遺物ドラゴノーツ≫の保持者だった男の仇だから?

 

         バサァァァァァァ!!!!バサァァァァァァ!!!!


 絶望へと向かう風切り音。

 そして魔力とも魔素ともつかない力の集束と乱流。


 あまりの恐怖に、振り返って空を見上げることもできません。


 ……ただ、わたくしにできること。


 「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 走るままに、背中を向けたままに。

 ただ残りの魔力を限界まで魔術路に回して、魔力障壁を展開することくらいです。


        ドォゴォォォォォォォォォォォンンンンン!!!!



 背中に炎のブレスを浴びるのは本日二回目。

 無論、その火力を並べて語ることなどおこがましいにもほどがあります。


 「きゃぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 背後からの圧倒的な衝撃。

 

 熱いだとか痛いだとかいう以前に、まずわたくしはその力によってボロ雑巾のように前方へと吹き飛ばされます。

 

 ……今日はデジャヴが多い日ですわね。

 ホーンライガーとまみえた時も、魔力砲にこんな風に吹き飛ばされ、シラザクラの大樹に体を打ち付けられたのでしたわ。

 

 「くぅぅぅぅぅぅ……」

 

 しかし、街のど真ん中にそんな大木がそびえ立っているわけもありません。

 ささやかな受け身をとりながらも、わたくしはゴロゴロと大広場の石畳を転がるしかないのです。

 

 「くぅぅぅ……」

 

 何回転したでしょう?

 ようやく勢いが止まったわたくしの体を、遅ればせながら激しい痛みが襲います。

 

 ポシェットの中には、有り合わせのもので作った回復薬があるのですが、それを取り出すにしても、腕がまったく上がってくれません。

 

 うつ伏せ状態から動かせない体……。

 全身に万遍なく負った傷。


           キュオオオオォォォォォォォンンンン!!


 そして迫りくる魔獣。


 デジャヴの通りならば、そろそろイチジ様がわたくしの頭を撫でて労わってくれる頃合いです。


 ああ、それはなんと幸福なことなのでしょう。

 あの時はイチジ様がホーンライガーの横っ面を素手で殴りつけた衝撃に気を保てましたが……今回はどうでしょう?

 

 「キュオオオオォォォォォォォンンンン!!」

 

 仰向けに寝そべるわたくしの頭上で、ドラゴンが漆黒の翼をはためかせています。

 今わの際に天使が舞い降りたにしては、ゴツイいし、黒いし、全然愛らしくないですわね。

 

 むしろ死神?

 いえ、それにしたって、けものけものし過ぎなような気がします。

 

 ……ああ、このわたくしが。

 一国の王女にして稀代の天才にして完全無欠の美少女のわたくしが。

 

 明確に自分の死を予感してしまっています。

 

 弱っています。

 参っています。 

 

 多分、今、あの人に優しくされたら。

 カッコよくわたくしを守るように立ちはだかってくれたなら……・

 きっと、わたくしは、あまりの幸福感と安堵感に包まれ、気を失ってしまうことでしょう。

 

 「……美少女のピンチに颯爽とかけつける主人公……ですか……」

 

 ギギギと関節がきしむ音が聞こえます。

 さすがに乙女の体に無理をかけすぎましたか。

 何かを掴もうと、何かに掴まれたいと思って手を伸ばしたいのに、それすらままなりません。


 「なんてご都合主義……なんて……ラノベ……展開……」


 情けない……。


 誰ですか、そんな無様な声をあげているのは?

 誰ですか、あふれる涙をぬぐう力もない気力もない、この弱っちい小娘は?


 人を、街を、国ですら守ろうと血みどろになって戦ってきた女があげていい声ではありません。

 

 「たす……けて……」

 

 「キュロロロロロォォォォ!!」

 

 うるさい……。

 

 「キュオオォォンンンン!!キュオオォォンンンン!!」

 

 うるさい……うるさい……うるさい……!!

 あなたたちなんかお呼びじゃないんですの!!

 

 わたくしが聞きたいのは……。

 わたくしの耳に入ってきていいのは……。

 

 「……助けて……イチジ様……」

 

 グシャァァァ!!

 

 「キュロロロロロォォォォ!!」

 

 ボグシャァァ!!


 「キュロロロロロォォォォンンン!!」


 ゴキゴキゴキゴキィ!!


 「キュロロロロロォォォォンンン!!」


 「キュオオォォンンンン!!キュオオォォンンンン!!」

 

 うるさい……。

 うる……さい……?

 

 ……なんですの?

 どうして、魔獣たちはこんなにも騒いでいますの?


 サラマンドラの悲痛な声。

 ドラゴンの殺気立った声。


 そして……。

 

 ボグシャアア!!グシャァァァ!!ボゴォォォォンンンン!!!

 

 肉が抉られ、弾け飛ぶような水っぽい破裂音。

 骨という骨が完膚なきまで砕かれたような鈍く乾いた粉砕音。


 人生の最後で耳にするには、あまりにも残虐な音が聞こえます。


 ズゥブオォン!!


 「キョロロロォォォォ!!」

 「キュオ……キュオオオオォォォォンンンンン!!」

 

 ドガァァ!!……ズゥゥゥゥンンン……


 どこからともなく弾丸のように飛来してきたサラマンドラ。

 その重量級の体と真正面から激突するドラゴン。

 長い経脈をたどれば同族である二頭の魔獣が、体を絡ませ、錐もみ状態になりながら、広場の石畳に頭から墜落。

 巻き込まれ、押しつぶされる他数匹のサラマンドラ。


 ……以上が、涙で滲むわたくしの白銀の瞳に映ったありのままの出来事です。

 

 「……は?」

 

 あまりにも現実感のないあれやこれやに、思わず呆けた声が出てしまいます。

 

 これは……救い?

 いえ……それにしては……。

 

 「キュロ……ロロ……」

 

 苦しそうなあえぎ声。

 まるで、わたくしがドラゴン化したジョルソン氏に首を絞められた時にあげていたような……。

 

 「くぅぅぅ……」

 

 とりあえずの脅威であったドラゴンが地に伏したことで、多少なりとも気力が戻ります。

 この場から逃げ出せるほどのものではありませんが、どうにか体を起こすくらいはできそうです。


 ……そう、体を起こし、ちゃんとこの目で確かめなくてはなりません。

 この既視感満載の今日という日に。

 このまま振り返った先で、あの方の背中は変わらずにいるのか否か……。

 

 「……イチジ……様……?」

 

 ええ、イチジ様です。

 

 均整の取れた、美しい筋肉が覆った長身。

 一本一本が固くて太い、男らしい短髪。

 

 わたくしの前から走り去って行った時と同じく、サイズの合わないホンスさんの肌着を着込んだ、イチジ様の健在なお姿がそこにありました。

 

 生憎と申しますか、やはりと申しますか。

 こういう場面では必ず彼はわたくしに背中を見せています。

 

 ええ、見間違うはずはありません。

 

 何度も見惚れ、何度となく思い出しては桃色の吐息を吐いてしまう、イチジ様の逞しい背中。

 それをまさか、わたくしがわからないわけありませんの。

 

 ……ですが……。

 

 「イチジ様……なのですか?」

 

 何故だか、自信が持てません。

 

 どうしてこちらを向いてくれませんの?

 その片腕で軽々と持ち上げている魔獣はなんですの?

 

 さきほどからこちらまでギリギリと喉元を締め上げる音が届いているのですが、イチジ様は何をしていますの?

 

 そんなことをしては……いくらサラマンドラが丈夫な体を持っていても……。

 

 ゴギャン!!

 

 ほら……そんなふうに首の骨が折れてしまいますの。

 

 それに……イチジ様?

 あなたは一体どこの上に立っていますの?

 

 うず高く積まれているのでちゃんとはわからないのですけれど……それってサラマンドラですわよね?

 サラマンドラの亡骸……ですわよね?

 

 ヒロインを危機的状況から救い上げるヒーローの登場。

 あまりにも出来過ぎた流れなど気にせず、ときめくこと請け合いの場面。

 

 それなのに……わたくしは……。

 

 「……イチジ……さ……」

 

 わたくしの呼び声が届いたのか、おもむろにイチジ様は振り返ります。

 

 交差する瞳と瞳。交錯する黒と白銀。


 「……イチジ……さ……ま……」

 

 今宵はもう打ち止めということですの?

 デジャヴ……は起こりません。起こってくれません。


 無理もありませんか……。


 何十というサラマンドラの事切れた遺骸から立ち上る泡のような魔素の光。

 数が膨大過ぎて、その一角だけはまるで夜を忘れたかのように眩しく輝く虹色の煌めき。

 

 そんな光の渦の中で立ちすくむ愛しい人。


 その彼の、こんな空っぽな目など、わたくしは一度たりとも見たことがないのですから……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る