第1章「汝の人格や他のあらゆる人の人格の中にある人間性を、いつも同時に目的として扱い、決して単なる手段としてのみ扱わないように行為せよ」

Ideal Sociala


 現代。ホモ・サピエンスは、おもな分類としてまず人間と、あとは用途別にヒューマン・アニマルとヒューマン・ツールとに分かれていて、

 なかなかの多様性をたもっている様相でございます、――わたしはもちろん人間だ。



 さあ、登校。人間だものね。

 けさも、けさとて。

 わたしがメディア端末で他愛ないおしゃべりを楽しみながら乗る、自動運転型階段、つまりこのエスカレータリィ・ステアズの、

 スカートから伸びたまっすぐ足をつける部分は、ホモ・サピエンスの皮でできあがっている。つまり素材としてはわたしとおんなじ、肌なわけだ。まあ青いけどね、乗るためにというか、景観的に? 青い、まち。

 この乗り物も、ヒューマン・ツールなのだ。


 そうね、だから青く塗られた人間素材のツルツルの皮だけじゃないな、いまわたしが当たり前のように乗っている移動のためのステアズだけど、ステアズとしての意識もあるのよね、そりゃそうだ、――ホモ・サピエンスの意識はツールとするのにもなかなか都合のよかったものでありまして。

 と、いっても制限はされてるはずだけどね。自由意思なんかあんまりもっちゃって……あのときみたいに、ツールの反乱でも起こされたら、わたしたち人間なんて怖くて怖くてしょうがないもの。

 それに、ね。……人間に足る意識や思考力なんかあったら、かえって、かわいそうじゃない? ――ステアズならステアズで、ステアズに求められているだけの制限された意識があれば、それでいいのよ。


 ……夢を、みる。

 夢をみる。みたいなんだって。

 ヒューマン・ツールの意識って、そういうことみたい。学校で、そう教わった。

 夢をみている。みたいでさ。つまり――そのくらいおぼろげだってこと。

 だからわたしたち人間は、ヒューマン・ツールとかヒューマン・アニマルとかに、変な遠慮しなくていいんだって、――素材がおなじとはいえ存在としてべつもんなんだからさって、ことみたいよ。



 ……乗り物として。エネルギー源として。移動手段として。

 または、愛玩動物として。使役動物として。食料動物として。



 そういったモノに用いられるヒューマン・ツールやヒューマン・アニマルは、

 ……夢をみるみたいに一生を終える。

 だから、




 なんかそれはそれで幸せらしいよ、って、いうけど、



 ……うーん。

 じつはわたしは、それちょっと疑わしきなんじゃないかなあって思ってる。

 ほんとかな?



 で、そのことだって気になるんだけどさ。

 わたしのいまのむっちゃくちゃんの、懸念事項。

 だから、だからましてや人間がすべて一致になる、「人類地球化計画」――


 ヒューマン・ツール加工の技術を応用して、

 けどももちろんその目的は手段にはなくそれはわたしたち人類の目的そのものが目的だ、

 意識を、とかして、地球まで、のみこんで、とろとろ、とろとろ、――すべてが一体となって、人類は、一となり、




 はるかかなたの宇宙に飛び出るときは間違いなく人類最高のとろけた甘みなんだ、って、




 幸福の極みだよってさいきん学校でもニュースでも下衆いうわさ大会でもみんながそう、言うのよ、……そうなの、かなあ。



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