E
逆立ちパスタ
0. 序章
喉が渇いた。いや、もしかしたらこれは喉が渇いているのではなく緊張しているのかもしれない。私は痺れた片足を引きずりながらゆっくりと、でも確実に前に進んだ。持たされた鎮痛剤も、使い切ってしまった。アサルトライフルを下げたスリングが肩に擦れて酷く痛む。
もう、私の後ろを一緒に歩いてくれる人は誰もいない。みんな死んだ。みんな、
視界が涙で滲む。生まれてから泣いたことなんて数えることしかなかったのに、目頭が燃えるように熱くなった。唇が切れるほどに強く噛み締め、それでも私は進むのをやめない。やめられない。だって、今私が止まってしまったら彼らの死は無駄になってしまう。
「お前ならやれるさ」
そう言ってくれた笑顔を、無意味になんてさせない。その一心で私は、たどり着いた光に目を細めた。
情報流通管理機構「E-ter」。そのメインシステムが保護されている高層ビルの最上階だ。そのヘリポートの中心で、見知った少年が夜風に煽られながら私を見た。
「こんばんは、マコト。良い夜だね」
「何が……何が良い夜だ! どうして君なんだよ! ねえ、ユズリ!」
震える手を叱りつけ、手間取いながらも下げたアサルトライフルの銃口をユズリに向ける。ユズリはいつもと変わらない柔和な笑顔で私を見て、両手を緩く広げた。我が子を抱擁する母親のような慈愛を湛えて、彼は私を見ている。その目には、確かな幸福が映っていた。
「さあ、マコト。この前の話の続きをしよう。僕はずっと、君を待っていたんだ」
押さえつけていた怒りが、疑問が、虚しさが、私の足を重くする。一歩だって退いてはいけないのに、どうしたって感情は私の邪魔をするのだ。
「マコト」
ユズリが私を呼ぶ。反吐が出るほど暖かな愛がそこにあった。
不夜の街に、一発の銃声が鳴り響いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます