フェアリーサーカス団は、こちらです!

新成 成之

ショーの幕開け

 薄明かりが照らす舞台裏では、いつにもまして慌ただしい雰囲気が漂っている。


 出演者だろうか、色鮮やかな衣装に身を包んだ者達が点呼をとっている。


「みんないるー?」


 その場を仕切っているのは、背中に羽根の付いた衣装を身に纏い、一際小さな女の子。


まるで本物の妖精のようである。


「団長一人いないぞ」

「団長一人いないよ」


 合図をせずとも声を揃えて応えたのは、綺麗なブロンドの髪が目立つ双子の兄妹だ。語尾が違うだけで、喋り方までそっくりだ。


「嘘でしょ?!1、2、3・・・本当だ一人いない!あれは?ハンドさんは?」


「ここにおるわ!ったく、何勝手にいないみたい感じにしとんねん!言っとくけどな、一番に裏来たの俺やからな!団長より先やからな!」


 何処からともなく若い男性の声が聞こえるが、その姿は見えない。


「あら、そうだったの?あんた見えないから分かんないんだもん。てか、手袋着けた?」


「今着けた」


「だから分からないのよ!」


 団長が指さした先には、奇妙な事に白色の手袋だけが宙に浮いている。


「そう言えばピエロさんいないぞ?」

「そう言えばピエロさんいないよ?」


 双子の声は奇妙なくらいにシンクロしている。


「んーそんな訳、、げっ、マジでいないじゃん・・・どこ行ったのよあいつ・・・」


 その時、裏口の扉がゆっくりと開くと、辺りに光が差し込んだ。


「あっ、ピエロさんだ!」

「あっ、ピエロさんだ!」


 みんなが振り向くその先には、右半分が笑顔、左半分が泣き顔というへんてこな仮面を着けた、スーツに似た格好の姿の人物が、申し訳なさそうに腰を曲げている。


「また聞こえたの?」


 一番に声をかけたのは、団長と呼ばれているあの妖精さんだ。


「女の子の 『声』 が」


「あんたも相変わらずだね。まあ、間に合ったんだし、よしとしよう」


「すまない・・・」


「別に謝ることじゃないでしょ!あんたはむしろ褒められるべきことをしてきたんだから!」


「ピエロさん笑って!」

「ピエロさん笑ってよ!」


「いや、仮面で見えへんやろ」


 それにつられて他のメンバーも声を掛ける。


「ありがとう・・・」


「さあ!全員揃った訳だし!ショーを始めるわよ!」


「「「おー!!!」」」


 客席に聞こえないギリギリの声量で、みんなが手を挙げて言う。


 さっきのメンバーの他にも、ぬいぐるみを抱えたまま夢見心地の女の子や、大きな魔女の帽子を被った子、サングラスを掛けた長身の男性と、どれも一癖ありそう者達が勢揃いしている。


「ヴァン!幕を上げて!」


「御意」


 団長の合図でサングラスの男性が機材のスイッチを巧みに操作すると、開演のブザーがテント中に鳴り響く。


「Let's show time!」


 照明が照らすステージに、妖精が現れた。



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