居酒屋【冒険者ギルド】

七味とうがらし

第1話 居酒屋冒険者ギルド

 俺は佐野瀬 巧、音読みでコウと読む、この街に引っ越してきたのは交通の便が良かったし 中高生時代ここで過ごした住み慣れた場所だったからだ、


定時で退社して武蔵浦和につくと時間は6時30分、駅から徒歩13分で俺のアパートに着く,が今日は駅周辺を探索してみる事にする。


久し振りの駅の発展具合にちょっと驚く、学生の頃のこの街は何もなかったんだよな、と思いつつ駅前ロータリーを彷徨ってみる。


夕飯にはちょっと早いが小腹が減ったので牛丼屋に入る。


「牛丼ネギダクで玉付き 味噌汁はお湯割りで」 俺は注文する すると店員は注意深く俺を見ると、


【おう!兄ちゃんそれを注文するのかい】と言うような視線を浴びせられる。


そんな心のやり取りを楽しみつつ完食して店を出た。


さて 軽く飯も食ったことだし一杯やっていこうと店を探す、ちょっと気になる店の名前を発見


【居酒屋 冒険者ギルド】おいおい何の冗談でこんな店名を、と思いながら店に入っていく


そこはよくラノベで描かれるような感じの店内だった、俺は少し期待したね、テンプレで絡んで来る奴が来るんじゃないかってね、


時間が早いのか俺のほかに客は一人カウンター席でノートPCをいじってる奴がいた、


「おう兄ちゃん!よく来たな まあ座れや」


そこには年の頃なら40後半位のマスターらしき人物がカウンターの中でグラスを磨いていた、


俺はとりあえずカウンター席に座りエールを注文する、


「はいよ、エールお待ち」と言われて生を目の前に出される、色の濃いブラウンエールが出てきた


 近頃のブラウンエールは口当たりが良いんだ、ちょっとナッツ風味で飲みやすいんだよな~と、思いながら最初の一杯を煽る、


マスターが問いかけてきた、「兄ちゃん、この近所なのかい?」そこから色々な雑談というよりアンケートの様な質問だったな、  


 「兄ちゃん異世界の冒険ってやってみたいと思わないか?」 マスターが言う



「出来る事ならすぐにでも行きたいけどな、所詮夢物語だしな、あははは」俺は照れ隠しの笑いをして話を切ろうとするが、


「本当に転移出来るとしたら?兄さんどうする?リスクは高い、あんたの命だがそれを賭けても行ってみたいと思うかい?」


俺は即答した「当然だそんな面白い事が出来るなら命を賭けてもいいぜ」冒険者になったつもりで 俺は少々酔った勢いも有りそう答えていた、


マスターが帰り際に特製プリンってのを出してくれたそれを食い終わって会計を済ます、


「今日から半年後だ、それまでに体と心を鍛えておいてくれ」


マスターがそう言って俺を店から送り出してくれた。


何だ今の台詞は?と思いながら俺は帰宅した、


 俺はあれから体を鍛えて行った、とは言っても昔からの習慣って奴だけどね、近所の別所沼公園までの軽いランニングだ、走るのは学生時代からの日課なので習慣って奴を繰り返していた、


俺は仕事帰りに週に1~2回のペースで相変わらずあの店冒険者ギルドで酒を飲んでいる、そこの常連ともよく話すようになった、


「あれから半年か~いつも気になっていたんだけどさ 奥の部屋に入っていく人が多いんだけど殆ど出てこないうちに俺 帰宅しちゃうんだけどさ あの人たちって最後まで飲んでるの?」


俺はカウンター席で何時もPCを持ち込んでいる常連に話しかけてみる、


「コウさんはもうこの店に来て半年たつのかい?」


PCの男が呟くようにそう言った、


 この人ミウラさんって人なんだけどマスターの昔からの友人だとの事、この店の経営にも携わっているってのは聞いたことが有るんだ、


「っでコウさんは近頃変わった夢を見なかったかい?」 唐突に変な質問してきたんだけど俺には心当たりがあった、


「変な夢なら一昨日見ましたよ、」俺はそう答えた、


「ほう,どんな夢ですか?」


「男だか女だか解らない中性的な謎の人の夢を見たんですよ、」


「その方はどのような姿だか覚えていますか?」ミウラさんが更に問いかける、


「夢の中の人は男だか女だかわからない中性的な人が出てきた、とても美しい羽衣を纏って 夢に現れたその人は、美しい声と素晴らしいプロポ-ションに鍛え上げられた筋肉!筋肉?うっすら髭剃り跡が青っぽくなって顎が割れていた 意思の強さを表しているような感じだった、」俺はそう答えた、


「そうですか、あの方とお逢い出来たのですね」


「え?夢の中のあの人って...同一人物が見も知らない他人の夢に出てくるんですか?」俺は問う


「はい、そうなんですよ、そしてあの方の意思を受け取った人のみあの部屋に行くことが許可されます、」


そう言ってミウラさんはいつもの謎の常連達が入っていく扉を示された、


「最終確認です、本当に異世界での冒険を希望しますか?」


俺は即答で「はい」と言った、


「わかりました、ではここにサインをお願いいたします」


俺はその紙に書かれた文言を読みサインした、


 俺はミウラさんに奥の扉へ案内されたんだ、そしてそこに入るとロッカールームになっていた、ロッカーの大きさは縦2m間口1m位ある灰色したロッカーだった、だがロッカーと言うよりはレンタル倉庫みたいな感じだ、しかしどう考えてもおかしい所があったんだ、それはこのビルの二階とは思えないほどの空間が広がって、そこにロッカーがどう見ても300個以上あったんだ、


「ミウラさんここおかしくないですか?店舗は30坪有るか無いかの所なのにこんな広い所ってこの建物の幅よりはるかに大きいでしょ?」


「その疑問はこれから説明しますよ」 そう言ってミウラさんは事務テーブルの脇のパイプ椅子に腰かけ俺を対面の椅子に座るよう促された。


 「さて、これからコウさんは異世界って言うのかな?それとも...まあ、とりあえず時空転移してもらいます、」


「なんだか唐突ですね、まあ明日土曜日だし、」そう言うとそれを遮るように、


「ああ時間は心配しなくても大丈夫ですよ、ここに戻る時は今日のこの店の閉店時刻に戻れるようになっていますから、」


「ひょっとして1か月2か月向こうにいても今日の閉店時間に戻ってこれるんですか?


「はい、その通りですが、注意して頂きたいのは 体の方はしっかりと時間経過しますからね、例えば向こうで10年過ぎた場合肉体的に10才年を取ります、30才であちらの世界に行って戻って来た時は40才の体になっている訳です、こちらの世界から見れば昨日まで30才の体だった人が翌日に40才の体になってしまうと言う事なんですね、」


「それはギャップが凄いでしょうね、下手すると偽物扱いされかねないって事ですよね、」


「はい、それだから最長で半年としてもらっています、ですが初めての人は一週間で戻ってもらいます、」


「っで、肝心な事聞きたいんですが、俺に何か特殊能力とかって有るんですか?」


「それは貴方次第ですね、精神力の強さを魔法と言う物に変換できるデバイスを貴方に寄生させましたので、」


「寄生?」


「はい、半年前にマスター特製プリンを食べましたよね?」


「ああ~あのサービスで貰ったプリンですか、」


「あれに精神力を増幅させる寄生虫の卵が入っていたんですよ、それが魔力の根源となってくれるんですよ」


「つまりは俺って魔法が使えるって事?」


「はい、向こうの世界限定ですが魔法が使えるようになります、」


「マジっすか?30まで童貞を貫き通さないと魔法使いにはなれないと聞いていたんですが、」


「うう~ん、その都市伝説は間違ってますから信じない方がよろしいと思いますよ」


真面目に回答されたのでちょっと気まずくなった、ってか向こうの世界限定でしか魔法が使えないって。


 魔法ってのはこの寄生虫をデバイスとして発動するらしいんだけど、この今の世界でそれが使えてしまったら大変な事になる、それでその寄生虫にはリミッターが付けられていてこの時空だとリミッタ―が効いて魔法の発動を抑えてしまうとの事なんだ、


 俺はロッカーを指定された、


「コウさんの身長体重だと259番のロッカーを使ってください体に合わせた防具が入ってますから、」


俺はロッカーを開けて確認する、使い込まれた革鎧、にジャケット、丈夫そうなズボン、ブーツ、ロングソードが入っていた、


「基本装備はそんな所ですね、あとは現地調達してカスタマイズしていってください、」


「向こうでの収入はどの様にすればいいんですかね?」俺はワクワクしながら訪ねる。


「当然冒険者として簡単なクエストで稼いでランクを上げていくんですよ」


「おお!やはり、ではここを出ると何処に行くんですか?森の中とか砂漠や山の上とかですか?」


「いいえ、ここはある街のギルドにある居酒屋に繋がってるんですよ、なのですぐにでも冒険者登録して働けるようになってるんですよ、」


「至れり尽くせりですね~、」


「はい、これも後の世の為の実験の様な物ですから、最低限の安全を確保しているんですよね」


「え?後の世」


「今はまだ詳しく説明はできませんが冒険者ランクCまで行けばその情報は開示されますから、」


「それまでのお楽しみって事なんですね?」


「はい、その通りですよ、あと現地で取れた物とかはこちらに持ち込めません、向こうのロッカーに入れてくださいね、それが守られない場合は出禁になりますから」


「はい、そんなリスクの高い事はやらないですよ、」


俺はそう答えて、


「っで、何処から向こうに行くんですか?」


ミウラ氏が、


「そのロッカーの中に入って突き当りのロッカーの扉を開ければ向こうのギルドのロッカールームになりますから、ロッカーの鍵はこれを使ってください、」


と言いながら鍵を渡してくれた、


「鍵はくれぐれも無くさない様に、無くした場合実費で請求されますからね」


「了解しました、っで言語と文字って、どうなってるんですか?」


「普通に会話出来ますよ、あと、文字はローマ字の様な物になってます、」

 「了解です、では早速行ってきます、」


「はい、では一週間したらまたこのロッカーで戻ってきてください、戻ってこない場合は強制排除になりますから注意してくださいね。」


俺は異世界の入口のロッカーを開けた。




続く

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