無視したやつらは、まとめて逮捕する!!

ちびまるフォイ

コメント無視しやがったら許さない

最近、誰かにつけられている気がする。


自意識過剰かと思っていたけれど、

帰り道に毎回誰から私のことをついてきている。


「ストーカー? ああ、なるほどね。何かあったら連絡ください」


「いや、すでに何かあってるから警察来たんですけど!?」


「私どもは消防車と同じですよ。火があるから消しに行く。

 煙も確認できてないのに動くわけにはいかないんですよ」


「もういいです!」


警察は頼りにできないので、彼氏に相談した。

何度もメッセージを送ってみるも、一向に既読がつかない。


耐えられなくなって電話をかけた。


「もしもし!? どうして返信してくれないの!?」


『悪い、寝てた』


「寝て……っ! こっちはこんなにも危機的状況なのに!?

 返信してよ! 力になれなくてもそばにいてよ!!」


『……お前、重いわ』


「えええええ……!」


そのとき、電話の向こう側でがたがたと何かもめている音がする。

電話越しに声も拾えた。


『警察だ! 無視罪で逮捕する!』


『無視罪!?』


『証拠は挙がってるんだ! 未読無視しやがって!』


のちに私にも彼氏が逮捕されたことは通達された。


罪状:無視罪


今は無視更生施設でパセリをのせるだけの刑務作業をしながら、

休日は異世界に送られて恵まれない勇者に装備をボランティアしてるとか。


このビッグニュースは友達の間でもかけめぐった。


「彼氏が無視罪で逮捕されたってホント?」


「えーー……その話する?」


私が通報したみたいになるので、あまりこの話は好きではなかった。


「なに? 話さないの? 無視するの?」

「ダメだよ。無視罪があるんだから」

「聞かれたら答えないと」


「わかったって」


私は観念したように事情を細かく話した。


無視罪は聞かれたことをスルーしたり話題を変えると逮捕される。

SNSで送られたコメントに返信しなくても逮捕される。


フォロワーの1人が投稿したどーでもいい風景の写真や、

コメントに困るポエムだろうが、「おはよう」だけの投稿だとしても

絶対に返信しなければならない。


「大変だなぁ……」


女の噂は光回線ネットワークよりも早く広がる。

私の彼氏逮捕の話は尾ひれだのつけまだのをつけられて拡散された。


気が付けば、携帯からはひっきりなしに着信音が鳴り続ける。



>彼氏逮捕されたんだって?

>なにしたの? 暴力?

>詳しく教えてよ、無視しないで



「もういい加減にしてーー!!」


私は携帯電話のバッテリーを抜いた。

SNSのアカウントもすべて削除し、ネット回線を引っこ抜いた。


「はぁ……はぁ……これでやっと眠れる……」


すべての人からの連絡を遮断した。

やっと求めていた静けさが手に入ったと思ったとき、手紙が届いた。


「ひっ! なにこれ!?」


手紙には自分に対しての好意をびっしり書かれている。

忘れかけていたストーカーだった。


どうして住所を知っているのか。


それも怖かったがすぐに手紙を破り捨てた。

その後も、すべての連絡手段を断ったはずなのに手紙は届いた。


ストーカーが直接投函しているらしい。ますます怖い。


「……いや、これモロ証拠じゃん!」


追い詰められていた私だったが、この手紙が物的証拠になると思い警察に連絡した。

しかし警察は顔を横に振るばかり。


「これだけじゃなんとも……証拠としては弱いです。殺すとか書いてないし」


完全に八方ふさがり。


誰かに助けを求めようとネットにつなげば絶え間ない返信地獄に苦しめられる。

かといって、このままだと私の安全も保障できない。


「もうこれしかない!」


私は観念して携帯電話を戻した。

待ってましたとばかりに連絡が銃弾のように飛んでくる。


私はそのコメントを全て無視してやった。




ドンドン!!



「警察です!! ここを開けてください!!」


警察はすぐにやって来た。


「あなたに無視罪の逮捕状が出ています。

 SNSへの返信スルーに、コメント無視、電話の拒否……などなど。

 いまさら言い逃れできませんよ」


「……」


「ここでも無視するんですか?

 この会話もきちんと録音しています。

 あなたが無視すれば現行犯逮捕の証拠にもなりますよ」


「……」


「わかりました、それほど逮捕されたいんですね。

 3月17日08:00、あなたを現行犯で逮捕します。なにか言いたいことは?」


「ひとつだけいいですか?」

「いいでしょう。無視できませんから」



「実は、私ストーカーに追われているみたいなんです」


「……あなたね、前にもいったでしょう。

 証拠もないのに警察は動けないと。前の手紙じゃ弱すぎる」


「ええ、そうみたいですね。でもこの会話って録音してましたよね?」


「それがなにか」


やがて、私が別で通報していた別の警察官がやって来た。



「警察だ! 貴様を市民の連絡を無視した無視罪で逮捕する!

 お前が無視した証拠は録音データで残っているんだ!!」



警察官は売り飛ばされる羊のような顔で、無視更生施設へと送られた。

その日を境に、なぜかストーカーからの手紙はぴたりとやんだ。

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