探偵はウヰスキーで血を洗う
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序章
新幹線の切符を買う券売機前は予想以上に混雑していた。
永見遙樹(ながみはるき)はその長蛇の列の中、遠い異郷の地に思いを馳せた。
これから移り住む三沢町は三蹊地方一の大都市だと聞く。もちろん東京ほどの規模ではないだろうが出身が片田舎の僕にとっては十分都会を享受出来るはずだ。
大学の周りにはカフェなどが立ち並ぶ小洒落れた通りがあり、大学生たちで賑わっているそうだ。そこで授業の合間にコーヒーでも飲みながら知的な本を読み耽り、穏やかな平日を過ごすのも悪くない。
さらに駅前に向かえばバーや飲食店、飲み屋が所狭しと存在し、遊び場には困らないと言う。酒は小さい頃に親戚の叔父に麦酒を飲まされて以来、二度と飲まないと決めていたが、大学の仲間と大人の嗜みをするのも大学生の義務かもしれない。
そして、何と行っても、これからは一人暮らしなのだ。
怠惰な生活をしていても親に文句を言われることはない、年一度の成績通知書さえクリアすれば勉強についてあーだこーだ言われることもない、ゲームの貸し借りや家の食べ物を巡って兄弟と血で血を洗う抗争をする必要もないのだ。
僕が思い描く一人暮らし。
それは正に天国である。
僕の新天地への期待が最高潮に達したその時、ふと煙草の匂いが鼻をかすめた。
「失礼。」
ヨレヨレのトレンチコートを着た男が僕の前に割り込んだ。
どうやら、煙草の匂いはこいつから発せられているらしかった。
「ちょっと、僕が先に並んでたんですけど」
「ああん?」
男は嫌味が存分に篭った目付きで僕を睨んだ。
「だから、僕が先に並んでたんでどいてください。」
「なんだお前、そんな見た目の癖に言う奴なんだな」
とんでもなく失礼なことを言い残すと、男は後ろへ下がっていった。
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