春の使者

カゲトモ

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「いらっしゃいませ。もうすっかり春ですね」

「ふふ、今日はとても暖かかったですから」

 今日は珍しく一人で来店した響子さんは、スプリングコートに若草色のスカート、それから首元にはピンク色のストールが巻かれてあった。

「そのストール、サクラ柄ですか?」

「そうなんです! お店の新商品なんですけれど、一目惚れしちゃって。凄く気に入っているんです」

 そう言って、ストールの端についている桜の花びらのモチーフを見せてくれた。丁寧な刺繍のモチーフは動くたびにユラユラと揺れるのだろう。ピンクがベースとなった滲み絵のようなストールの生地にも、緑色が薄く入っていてとても春らしい。ふわふわとした響子さんにとてもよく似合う。

「素敵ですね」

「ふふふ、ありがとうございます」

 くしゅっと微笑んで、響子さんは席に着いた。

「今日はお一人ですか?」

 いつもは同僚であるマリさんと一緒に来店するのに。

「今日は私、オフなんです。さっきまで友達と遊んでいて、もうちょっと飲みたいなってなって、別れてから一人で来ちゃいました」

 もうちょっと飲みたいからって一人ででも来てくれるなんて、おじさんとっても嬉しいよ。

「えっと、それじゃぁ何か春っぽいカクテルとかってありますか?」

「春、ですか? もちろんありますよ」

「わぁ、それじゃぁそれをお願いします」

「かしこまりました。春の代名詞であり、響子さんが身に着けていらっしゃった、桜を使ったリキュールがあるんです。桜のテイストはお嫌いじゃないですか?」

「そんなのがあるんですね! 私、桜大好きなんです」

「それは良かった。それでは桜のリキュールを使ったカクテルに致しましょう」

 桜の味は結構好き嫌いが多いから。独特の風味があるし。俺は桜風味大好きなんだけど。桜餅も葉っぱまで食べるし、塩漬けにされた桜が入ったお茶とかも好きだし、これから作るスプリングオペラも好き。

淡い桜色のリキュールとオレンジジュース、それから沈めたグリーン・チェリーの緑が見た目にも春って感じがする。桜が好きな響子さんにも好きだと思ってもらえるカクテルだといいな。

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