狂おしいほどの癒し

カゲトモ

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「おや、なんだか大荷物ですね。よろしければお荷物入れにお使いください」

「すみません、助かります」

 やけに大荷物のハルさんはバスケットを受け取ると、丁寧に紙袋を入れてカウンターに座った。

「ありがとうございます」

「いえいえ、今日も舞台観て来られたのですか?」

「あ、分かっちゃいます?」

「何となくですけれど」

 だって何度かそうして来店してくれているのを覚えているから。

 ゆるく巻かれた長い髪に、流行の大ぶりピアス。メイクもファッションもおしゃれで素敵。愛想も良くて笑顔も可愛い。きっと凄くモテるんだろうなと誰もが思うであろうハルさんには、舞台を観るという趣味があってそれ終わりによく来店してくれるのだ。

 確かお家は少し遠くて、こっちにホテルを取って舞台を観に行っているとか。

「今日はどうでした?」

「カズマきゅんが最高に可愛すぎました!! もうあの立ち振る舞い! 完全に二次元ですっ!」

 急に目を輝かせてハルさんは前のめりに言う。巻かれた髪もピアスも揺れる。

「今回も神舞台でしたっ!」

「それはようございました」

 ムフー、と鼻息が聞こえてきそうなほど、ハルさんのボルテージは一瞬にして高まった。まぁ、いつもこんな感じなんだけど。

ハルさんに舞台の感想を振ると大体こんな感じで興奮気味に教えてくれる。綺麗な女性なだけちょっとざんね、いや好きなものを追い求める人はいつだって素敵だ。うん。

彼女の推しは人気若手俳優のヤナギサワ カズマきゅんと言うらしい。漢字は知らないけど、見せてもらった限りでは、マジでこんな美男子現実にいるんだ? って感じの男の子だった。舞台用のメイクだからかもしれないけれど。

「今回のカズマきゅんの衣装がですね、稀に見るセクシーさで。この伸びをしたときの腹チラが」

 ハルさんはシェイクする俺に、ひたすら今日のカズマきゅん萌えポイントを教えてくれる。

 楽しそうで何よりではある。

まぁだから彼氏がいないって訳じゃないだろうけれど、自分よりも綺麗な男の子にのめり込んでいる彼女ってのは、彼氏的には辛いものがあるのかもしれない。だから彼氏が出来ない(作らない)のかもしれない。

「いや、舞台の上のカズマきゅんに恋をしているんで、今三次元の彼氏とかいらないです」

 オーダーされたオレンジ色のスコーピオンを混ぜながらハルさんは言う。

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