汚れた掌

汚れた掌

そいつを見下ろした

これは誰のものだ?

ああ自分のものか

今、初めて気付いたように呟いた

血塗れだった

これって自分の掌だったのか

新鮮な驚きがあった

まるで他人のものであるかのような気がしていた

だがそうではなかった

他の誰でもない自分自身のものだった

本当にそうなのか?

試しに指先を動かしてみようと思った

確かに自分の意志のままに動くようだった

だが思考と実働の連結部分に不透明なもやがかかっているような気がした

気のせいかもしれないが

汚れた掌

洗っても洗っても落ちなかった

何度も何度も繰り返した

諦めたくないと思った

ある時、気付いた

この汚れは染み込んで自分自身と一体化しているのだと

もしもこの汚れを落としたいならば

もう刃物を使い手首から先を切断するしか方法がないのだ

汚れた掌

本当のことを言えばもうそれ以前の状態を思い出せずにいた

ただ汚れた掌というその認識を抱いたことだけは微かに覚えていた

だから本当にいつかこうではない自分の掌があったのかどうかそれはわからずにいた

少しずつ何かがおかしくなってしまって

やがてそれが正常値になった

まだ狂っていないのかどうかそれだけが知りたかった

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