箱がある

小さな箱だ

持つと軽い

おそらく大したものは入っていないのだろう

と思う

実際のところはわからない

箱がある

中に何が用意されているのかはわからない

何かが入っている

それはわかる

軽く揺さぶってみる

手応えがある

誰かが開けてみろよと言う

自分とは関わり合いの無い場所から言う

宙に放ってみる

衝撃が伝わらないよう丁寧に受け取る

特に何も起こりはしない

もしかしたら考え過ぎなだけかもしれない

「なるほどな」

余裕げに呟く

だが実際は着々と追い詰められている

箱を開ける以外の選択肢が無くなってゆく

自分はおそらく箱を開けるだろう

そして開ける前には二度と戻れないだろう

それが恐ろしいのだ

何も無い部屋の中心に箱をちょこんと置き

四隅の一角からそれを注視している

箱がある

中に何が入っているのかわからない

あまり深く考えるべきではないのかもしれない

すっと近付き

無造作に開けてしまえば良いだけかもしれない

いつかこのような状況に陥ったことがあった気がしていた

その時はどうだったか

そしてそれはどのような展開をもたらした

教訓にして活かすべきなのだろうか

それともこれは今まで自分が遭遇したどの状況とも異なるものなのだろうか

箱がある

あるな

それはもう疑いようのないことだった

どうして箱なんてあるのだ

わからない

頭を掻き毟っても考えが及ばない

始まりから箱がある

箱を開ける

ぱか

そして記憶は入れ替えられ自分は自分ではなくなる

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