わたしはメロンパンを持って深い穴の前で立ち尽くしていた

深い穴だ

どのくらい深いかというと底はここからは全く見えなかった

覗き込むと上半身がそのまま吸い込まれそうだった

飛び込んでしまいそうな衝動を自分の内側に感じた

穴は地球より大きかった

つまりここは現実世界ではないということだ

(………なるほどな)

わたしは持っていたメロンパンを頬張った

中にはメロンの果肉がぎっしり詰まっていた

(ごろごろだ)

驚いたわたしの半開きの口から角切りのメロンが落下していった

目の前の深い穴に呑まれた

どのくらいの歳月を経て底へ到達するのかわたしには見当もつかなかった

(そもそも底があるのか?)

わたしの肩にぽんっと手が置かれた

あまり真面目に考えない方が良いと教えてくれた

(お前は誰だ?)

さっきまでそこにいなかった筈の奴が今は平然とそこに突っ立っている

まるでわたしの記憶違いであったかのように

おいおいどうしたといった顔つき

わたしは再びメロンパンを齧ろうと思った

自己修復機能を備えているらしくさっき噛み千切った部位が復元されていた

(そんなことってあるのか?)

だが受け入れざる負えない

そうでなければ自分の頭が壊れたということを認めるしかないのだ

メロンパンを隣りの奴に薦めた

共犯のような関係になりたかった

そいつはメロンパンという物を生まれて初めて見たらしくくんくんと匂いを嗅ぎ続けた

ぱくりとわたしの腕ごと口にした

(そこはメロンパンじゃねー)

そう言いたかったが、同時に、多分これは夢だと思った

なんだただの夢か

どうりでおかしいと思った

メロンパンがナメック星人のように復活するはずないのだ

夢だとわかればもう何も怖くなかった

全て成り行きに任せることにした

どーぞどーぞ

夢から覚めればわたしは布団の中

お母さんがいつまで経っても降りて来ないわたしを起こしに二階へとやって来るだろう

「朝よーっ」

もしかしたらそっちが夢なのかもしれないけれど

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