追い詰められてやがて落下する

崖の下に転落する

本来であれば長生き出来たはずなのに死ぬ

死ななかったわけにはいかなかったので死ぬ

追い詰めた者の正体はよくわからないが死ぬ

じわりじわりと距離を縮め確実にとどめを刺せるまで機会を窺っている

その存在に気付いた時にはもう何もかも遅い

そしてわたしは転落する

着地するまでの間に夢を見る

長い長い夢を

まるで今まで生きて来てこれからもまた同じように生きるかのような途方もない月日

わたしはやがて飽きる

早送り出来ないものかと思う

自分が落下しているということを時折、忘れる

それでも地表との距離は狭まっている

わたしは落下の最中に夢を見て

その最中でも夢を見るようになった

今がどの瞬間で、自分がどの自分なのかわからなくなる

そもそもそのような問いが正常の範疇に収まっているのかがわからなくなる

わたしは一体、誰なのだ?

そしてかつては誰だったのだ?

長い長い落下の果てに辿り着いた地表面

砕かれる頭蓋骨からは半生の流動体が零れ落ちる

わたしはようやく思い出す

かつてわたしを追い詰めたものの正体を

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る