第13話女神の少女に火が付いた?

結局、僕は休日にまで学校に来て、休日にまでこの機械に向かっている。

高ランク者である葛西の専用機は、別の階にあるから、今日は会っていない。

もっとも、会うと余計な監視モードが働くから、お互いに合わない方がいいに決まっている。


自分一人なら、今日のこの時間まで寝て、無視したと思う。

でも、高ランクの葛西が二人同時介入設定ペアダイブに付き合ってくれるんだから、無下にもできない。


「じゃあね、信じてるから」

昨日、去り際に言った葛西の言葉、あれは一体何を意味するのだろうか?


でも、それを聞くことはできない。


葛西がヒントを出したと見なされる場合がある。

そもそも、やっさんのヒントだと言う『葛西は女』はヒントであってヒントではない。


物語の設定で、男女が入れ替わることなんてまずない。

一応これは教育プログラムであると同時に、行動査定もしている機械だ。

『将来男になります』と明言していない限り、女が男に性別変更することはまずありえない。

それは逆もそうだ。


ただ、モードが『ハードモード』なだけに、『きびだんご』のように人間でない設定はありえるか……。

だから、それはないことを意味しているのだとすると、ヒントと言えばヒントになるかもしれないな……。


これから入るのは、マッチ売りの少女。

有名なアンデルセン童話の中におさめられていた物語。


今でも悲劇として読まれているあたり、名作だと思うけど、色々な説も多いのも事実だろう。

そして『ハードモード』である以上、この物語をハッピーエンドとして終えなければならないに決まっている。

本来なら、物語の改変はしたくない。でも、この物語は悲しすぎるから、変えたいと思ったことはある。感情移入しすぎて、変える方に動いてしまうのが目に見えていた。

だから、今までも避けてた物語の一つだ。多分、『イージーモード』なら主人公だから何とかできる自信はある。

でも、それを難易度固定『ハードモード』でやらされるとは思ってもみなかったよ……。


それも、二人同時介入設定ペアダイブで……。

この場合、僕一人でどうにかできる問題ではない。二人が協力して目的を遂行しないといけない。

でも、お互いになんであるかを言わないルールがある。あくまで、物語の上で関係性を構築していかなければならない。

だから、問題は葛西が何に設定されているかだ……。


単純にマッチ売りの少女なら、マッチ売りの少女が無事に新年を迎えられるようにするのが目的になるだろう。


でも、そうじゃなかったら?


マッチ売りの少女だけでなく、パートナーである葛西が扮している女性も救わなくてはいけないかもしれない。

あるいは、マッチ売りの少女は放置して、葛西が扮している方をハッピーエンドに導く必要があるのかもしれない。

葛西が何になっているのかもわからない。葛西が何を考えるのかもわからない仕様。

その上で、目的として設定されたことに挑まないといけない。


本当に、ハードだな……。


でも、あの物語で人間が出てくると言えば、主人公のマッチ売りの少女、その父親、浮浪者、馬車の人、幸せそうな家族、と言ったところだろう。


その他にも通行人はいたけど、まさかその一人とかありえないだろ?


性別が女ということは、マッチ売りの少女しかない。

それならば、たぶん目標が一つで済む。


いや、幸せそうな家族の中に少女はいた。

いやちがう……。

見逃すところだった……。


あと、浮浪者がいる!


コイツがマッチ売りの少女の靴を取っていったのは、将来子供が生まれた時のゆりかごにするためだという話しもあった。


どんだけでかい靴を履いてたのか、気になったくらいだから覚えてた。


あぶない、あぶない……。とにかく葛西はそのどれかだろう。


まさか……。

死んだお婆さんなんて設定はないよな……。いくらなんでも、死者の体験とかはしても意味ない……。



「やあ、休日補習ご苦労様! 今日は瑞希ちゃんも一緒なんだね!」

「そう思うんなら、手っ取り早く終わらせてよ。今日は、女神ちゃんとの会話も正直言ってめんどくさい。今は現実時間で流れてるでしょ? 早くガイダンスモードになってよ。女神ちゃんとの話は、説明以外省略して終わらせてかまわないからさ」

ガイダンスモードになれば、ある程度思考しても現実時間はほとんど変化していない。十分考える時間がある。


「ふーん。そういう事言うかな。まあ、それならいいや。お休みだもんね! でさ、これってデートだよ! デート! よかったね! 瑞希ちゃんと言えば、人気者の一人じゃない? すごいね! そんなと休日の学校。人のいない教室。二人きり――」

「女神ちゃん、いいから、そういうのいいからさ。それにおやっさんも来てるよ。そもそも、葛西とは場所が違う」

「ふーん。ふーん。でも、デートは否定しないんだね?」

「葛西とは幼馴染だから、休日に二人はよくあることだよ。まあ、最近はないけど……」

「ほらほら、乙女の気持ちにちゃんと答えてあげよーよ。ほら、会いたいけど、会えないってやつだよ」

「女神ちゃん、今度から、おっさんって呼ぶよ?」

「おっさん!? こんな美少女をつかまえて、おっさんって呼ぶの? 君!」

「女神ちゃんに対しての軽口だと記録しておいて、親しみをこめてね!」

「うん、わかった! 視力異常か異常性癖という記録とどっちがいいのかな?」

「すみません、僕が悪かったです。先に進めてください」

「うん、分かればよろしい! 記録の削除権限はないからそのまま記録しておくね!」

「詐欺だ!」

「うんうん、元気があっていいね! じゃあ、ガイダンスモードに移行するよ。ここだけの話だけど、瑞希ちゃんが行動指標を迷ってたからね、時間かかったよ。ずいぶん迷ってたみたい。乙女よのー」

「はい、はい、それで、僕には選択権がないと?」

「当たり前でしょ? ランクCに自由がないの知ってるでしょ? ランクAの特権だよ! そんなランクA様が選んだ目標を、ランクC様は無事叶えられるかね?」

「もういいよ、女神ちゃん。早いとこ頼むよ。休日にまで学校に来て、くだらない会話する元気ないよ、僕」

「ふーん。ふーん。ふーん。そうか! 自信がないからだね。まあ、仕方ないかな。昨日まではランクDだったものね!」

「好き放題言ってくれる。じゃあ、古風だけど、『男の沽券にかけて』頑張るよ。珍しくね」

「『男の股間にかけて頑張る』。セクハラとして認識しました」

「おい――」

「Stand by. Stand by. The Little Match Girl sequence initialized.」

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