春をおすそ分け
カゲトモ
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「マスター、お疲れ様です」
「お疲れ様」
元気よく勝手口を開けたのは、唯一のバイトである斉藤君だ。某有名メーカーのスポーティなブルゾンにリュックサック。その姿は生命の輝きに溢れている。
若いっていいな。
「斉藤君、これ良かったら食べて」
「え? わぁいいんですか!?」
「少しだけでごめんね」
「とんでもない。ご旅行ですか?」
「日帰りだけどね」
「いいなぁ」
全く計画していなかった旅行だったけど、久しぶりの豪華な露天風呂は良かった。いつもはスーパー銭湯くらいにしか行けないから。
「ありがたく頂きます」
「どうぞどうぞ」
今度は斉藤君もつれて合同の旅行とか行けたら楽しそうだけど、ミケの店はみんなオネェだからなぁ・・・ちょっと難しいか。
「そうだ、これ。実家から沢山送られてきて。マスター食べませんか?」
「ん?」
そう言って斉藤君がリュックから取り出したのはそこそこ大きめのタッパー。
「何が入ってるの?」
持っている様子からして重くないんだろうけど・・・煮物?
「菜の花です」
「菜の花」
「実は実家の畑で菜の花を作っていて、なんか豊作だからとか言って送って来たんですよ」
「斉藤君のお家は農家さんなんだっけ?」
そんなこと言ってたかな? てっきりサラリーマンの家庭だとばかり。
「兼業農家って言うか、ほぼ母と祖母の趣味なんですけど。田舎だからですかね、それなりに広い畑でやっていて」
「へぇ、凄いね」
「俺も菜の花好きなんで、自炊とかするんですけどさすがに毎日は飽きちゃって。良かったら食べてください」
「ありがと。俺も菜の花好きなんだよね」
ずいっと差し出されたタッパーを受け取って蓋を取ってみると、予想よりもぎっちり菜の花が詰まっていた。こりゃ、一人では食べきれないかも?
「綺麗な菜の花だね」
「はい、味は保証しますよ」
「それは楽しみ」
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