0615
職場に向かうためのバスの停留所で
ドラムバッグを引っさげぼんやり佇んでいると
煙たいなーと思い辺りを見回した
すぐ隣りの人間がふかしていた
耳にイヤホンを突っ込んでいて気付かなかった
ち
わたしは舌打ちした
多分、聞こえたと思う
頭の上に増えるわかめちゃんを乗せただけのような奴だった
年は若かったと思う
ちらりちらりとすぐ隣りの人間ではあったのだが
首を曲げそいつを確認した
遠くにいれば視線をずらすだけで把握、出来るが
密着していたのでそれは無理だった
ここは煙草を吸っていいエリアではなかった
(なんだこいつ?)
隣りのそいつは舌打ちに気付いたのか気付いていないのかよくわからないが
凄まじい速さで煙草をくわえる、吸い込む、吐き出す、灰を落とすの行為を繰り返していた
急に前にかがみ込むと足元で乱暴に火を消し吸い殻を拾う様子は無かった
わたしは取り敢えずこれ以上、我慢することも無くなったので再びぼんやりと前を見た
そいつが、がさがさと手提げをあさり始めた
ぼろぼろの大きな紙を取り出し両手で持ち熱心に眺めていた
(何を読んでいるんだ?)
興味本位でちらりと覗き込むとそこには自分がこれから乗るバスの時刻
そのバスが通過する停留所の名前
目的地と思われる場所に着く時刻
そういった情報がびっしりと太文字や細文字を交え書き込まれていた
ところどころ数字にバツがつけられていて他人が見ても何が書かれているのか容易に判断することは難しかった
そして字は致命的に汚かった
幼稚園児が初めてのおつかいに出掛ける際に書くメモみたいだった
しばらく微動だにせずそれを眺めていたが今度は他の紙を取り出した
箇条書きで
『ちゃんとするように努力する』
『○○病院』
などの言葉が、やはり同じようにびっしりと書き込まれていた
わたしが隣りから覗き込んでいたがその視線には全く気付かないようだった
わたしは悪いことをしたな、と思った
やがてバスが来てわたしたちは乗り込んだ
自分が降りる停留所より先に降りたがそいつはバスが再び発進しても暫くその場所を動く様子は無かった
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます