救い

千輝 幸

第1話

救い



ぼくは金魚だ。彼女は今日も彼氏と喧嘩をして泣いている。それでもちゃんと決まった時間に食べ物をくれる彼女は優しい。彼女の話はいつも彼の話だ。少し悔しい。

最近少し寒くなってきた。今日も彼女はご飯をくれた時、話してくれた。

「はーい。ごはんですよ〜。歩お仕事やめるんだって!私頑張らないとね、ね。」

彼はお金がないみたい。その日から彼女の帰りが遅くなる日が多くなった。それからぼくは深く眠った。

夢を見た。彼女と出会った時の夢だ。

人がたくさんいて、友達もたくさんいた。

「いらっしゃい!」

「一回お願いします!」

彼女は遊んでくれるみたいだ。楽しみだなぁ

「とれたよ!歩!」

気づくと透明な膜に包まれ、空を走っていた。そうか、ぼくはもう彼女のものなんだ。優しく笑いかける彼女は本当にお天道様のように眩しかった。


「あっ!よかった〜生きてる〜。」

どうやらお水が凍っていたようだ。

それからぼくは青と綿が見える部屋に移動した。彼女との時間が増えて嬉しい。


大きくなって狭いでしょ。といって新しいお家をくれた。でもぼくには広いかなと思っていたら

「おともだちだよ〜」

そういった彼女は赤いぼくとは違う黒いぼくをお家に入れた。ぼくは挨拶をした。

「やあ」

「やあ、君はいつからここに」

「今ちょうど冬が3回終わったところだよ」

「そうかい。彼女たちに飼われてて何も思わないのかい」

「彼女は優しいよ」

「ぼくは嫌だな、みんなと離れ離れになってしまって、最後くらい一緒にいたかった」

「最後?」

「ぼくはもう長くない。わかるんだ」

「そうなんだ、ともだちできたのにな」

それからぼくらは眠った。

あれからどのくらいだったのだろう。

春になっていた。

そして黒いぼくはふわふわと水面を飛んでいた。

彼女は悲しい顔をしながら黒いぼくを連れてお外に行った。

「ーーーーーー」

何か話しかけているのかな、聞こえなかった。

歩は映像の流れる四角いものを見て、少しも動かなかった。

夏。ぼくの眼の前で彼女が倒れた。ぼくは必死に助けようとした。だけれど、何もできなかった。しばらくして歩が帰ってきた。

「!?」

歩は見たこともない素早い動きで彼女と出て行った。何日かたった頃、歩が帰ってきてごはんをくれた。初めてだ。歩は少し灰色な感じだった。

秋、彼女が帰ってきた。

「ふふん!退院できたよ!やー栄養失調なんてめんもんぼくないです」

久しぶりに見た彼女は少し、明るくなっていた。どうやら歩は彼女が倒れてから頑張って仕事に行ってるようだった。黒い服と首に布を巻いて毎日ご飯をくれたんだ。

彼女の喧嘩の話はもう聞かない。いつも彼女は笑顔だ。よかった。よかった…。あ!彼女太ったなぁ。お腹がポッコリしてる。でもお腹だけ。ぼくと同じだ。

なんだろう、あのヒレにつけてる丸い輪は。今日は2人の雰囲気がオレンジだ。いいや、なんだろう。わからない。だけれど、とても美しい。

「いってくるね!結婚式だよ〜」

結婚式?なんだろう。でもきっと素敵なことなんだろうな。見たかったなぁ。

部屋を出る前に歩はつぶやいた

「行ってきます」

ぼくは空を飛んでいた。気持ちいいなぁ。

「歩…」

「…………。」

なんでだろう。2人ともお水が出ている。綺麗だ。2人とも幸せだからかなぁ。彼女はぼくを手のひらに乗せてくれた。

彼女の手はとても暖かい。

「私、あなたに救われてたよ。いつも。ありがとう。ありがとう…」

「おれのご飯は美味しかったか、あんまり構ってやれなくてごめんな。ありがとう。」

彼女に出会って以来のお外だ。気持ちいな、気持ちいなぁ…。そうか、ぼくはもう。

砂の中にそっと置かれた。ぼくは力一杯叫んだ

「ありがとう」

彼女はまだ水を流している。歩も。大丈夫だよ。幸せだったよ。2人に出会えてよかった…

最後に彼女がささやいた。

「またあなたとどこかで巡り会えますように」









ぼくは生まれた。優しい彼女と優しい彼の元に。これはお祭りっていうのかな。いっぱい人がいる。

「おまつりですよ〜。楽しいでちゅか〜」

なんだかお空を飛んでいるみたい。

「あっ!」

彼女はいきなり走り出した




「いらっしゃい!」

「一回お願いします!」












ぼくは金魚だ。いまは彼女の…。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

救い 千輝 幸 @Sachi1228

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ