第28話 皆あの人に巻き込まれている。
「
どうかしたのか。
そう問いかけようとしたものの、ふい、とすぐに視線をそらされてしまい、言葉が止まる。
「
「ん?」
桂岐に視線を固定したままの俺を、
「なに?」
「こうした穢れや澱みが急激に増える時、人の世には必ず何かしらの動きがあります」
「……動き?」
「ええ。それが、貴方の、真備様の生まれた日の星と関係があるか否かは、まだ今の段階ではわたしにも分かりません」
「……えっと……?」
「けれど、わたしは吉兆をつかさどる瑞獣。瑞獣とは、吉兆として現れる霊妙な獣。ですから」
じい、と滉伽の瞳が俺を捉える。
「……こう、っんぐ」
「大丈夫ですって。ほんと、アナタは心配しすぎなんですよ。
「?!!」
唐突に塞がれた口に驚きつつも、その手が誰のものかなんてすぐに分かることで。
首だけでも動かして犯人を見やれば、
「確かに
「……?」
ちら、と見えた馨結の顔に、少しだけ、真剣な色が見える。
「どうせ何かが起こることなど、坊っちゃんが生まれた時にわかっていたことでしょう? それにアレに……真備に巻き込まれたんなら全員最後まで責任持って巻き込まれたらいいんですよ」
真剣な瞳とは裏腹ににやり、と笑い、皆を見たあと、馨結が俺を見る。
「というか坊っちゃん。貴方が一番、巻き込まれた人間なんですから、使えるものは使ったらいいんですよ」
巻き込まれた?
どういうこと?
使うって何。
馨結の手のひらに塞がれたまま視線で問いかければ、目が合った馨結の目元が少し緩む。
「大きな力が動く。遠い遠い将来、きっと僕の遠い遠い子どもたちに大変なことがあると思う。君と白澤、君たちは僕の友だろう? どうだ、友のよしみで、子どもたちを手伝ってはくれまいか? それに
そう言って笑ってたんですよ、あれは。
穏やかな、懐かしむ顔をしながら、馨結は言う。
「普通、そんな爆弾、
「それがあの人、真備さんらしかったんだろ?」
途中から、力が緩んでいた馨結の手から逃れ、口を開けば、馨結はふふ、と笑う。
「まぁそんなわけで、ここにいる
懐かしむように笑う
ちら、と視線を動かせば、
「……一度繋がった縁は、線を紡ぐんだね」
それぞれの様子に、思ったことをそのまま口にすれば、馨結も
「え、何」
なんかいけないこと言った??
そんな思いに駆られながら、馨結と滉伽を見れば、ふたりが俺を見たあと、表情を緩める。
「……まったく……貴方たちは本当に似ていますね」
「……本当に」
ぽん、ぽんと馨結に頭を、すり、と滉伽に頬を触られながら首を傾げれば、ふたりは嬉しそうに笑った。
「オレが
「へぇ……」
「確かオレが一番最後だったよな? な、桂岐」
「……ああ。アレが日本に戻ってからだからな」
「そうなんだ」
煎餅を片手に話しだした太地に、桂岐も静かに答える。
「鈴彦姫はオレたちよりほんの少し前だっけ?」
「……ほとんど同じ時期ではありますが……ほんの少しだけ」
「へぇー……」
「とはいえわたしはまだ小さくて……皆様のようにたくさんの思い出があるというわけではないのですが……」
「そうなんだ?」
「はい」
こくん、と頷いたすずの言葉に、へぇぇという声が口から溢れる。
ちら、と桂岐を見れば、目が合うもののすぐにそらされる。
なんかやっぱり……俺、
そんなことを思っていれば、ふいに、「オレは」という声が聞こえる。
「……オレは半ばなし崩しにアイツに絡まれただけだ」
「そなの?」
「……アイツは珍しいモノが好きだったからな」
不服そうな声の割には、表情が少し緩んでいる桂岐に、なにやらほっこりとした気分になる。
「まぁでも、人だとか妖かしだとかの線引きは全っ然しなかったよな! どっちも同じに扱ってたし!」
「へえぇ」
「だからそれで云うと、そこんとこ真備も吉備真備に似てんだよな!」
「……へぇぇ」
「傍にいて居心地良いのも一緒だし、真備の持ってる空気感も似てんだよなぁ」
「へぇぇ」
「ああ、でも」
「うん?」
そう言って、太地が俺をじ、っと見る。
「優しいとこは、似てなさそう」
「優しいとこ?」
「うん。吉備真備は優しいは優しいけど、突き放す優しさも持ってた。けど、真備はきっとそうじゃないと思うんだよなー」
「……俺、べつに優しくないけど」
「コイツの場合は優しいというより、甘ちゃんなだけだろう」
「えー、そうかなぁ?」
ふいに口を挟んだ桂岐に、太地が唇を尖らせながら言う。
「……そこをつけこまれなければいいが」
「……
ぼそり、と呟いた桂岐の言葉に、首を傾げる。
「力あるものに集まるモノがどういったものか、お前はまだ理解していない」
「それは……まぁ……そうかも……」
「力を封印をされていようがいまいが、そんなことオレには関係のないことだ。だが、アイツがお前の中にいる以上、負けることも無知でいることも許さん」
ギッと強い金色の光を纏った瞳が俺を見据える。
「オレはソイツらとは違う。優しくもしなければ、甘やかしもしない」
そう言いきって、桂岐は立ち上がる。
「桂岐、あの」
ザッザッ、と入り口に向かって歩いていく桂岐に慌てて立ち上がって声をかける。
けれど俺の声など聞こえていないかのような勢いで、桂岐は部屋の戸を開けた。
「かつ」
「だが、アイツがそう望んだなら、力は貸してやる」
「え」
「二度は言わん」
俺の声を打ち消すように、桂岐の声がかぶさる。
声が途切れると同時に、桂岐は姿を消した。
去り際にそれだけを言い、ほんの少しだけ俺を見た桂岐の金色の瞳は、光を帯び、きらりと光っていたように見えた。
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