コンビニでマンガ談議してただけ

時流話説

第1章 コンビニでマンガ談議してただけ

第1話 出会いか遭遇か



 帰り道にコンビニエンスストアに寄った。

 どうせ買って帰るのに、マンガの立ち読みは欠かさない。


 それは録画したテレビ番組を、リアルタイムでも観たい、という心境に似ている―――のかもしれない。

 毎日の楽しみだった。

 発売日に、読む。

 平凡な普通科高校に通っている自分の、数少ない特徴だ。


 マンガ好きなこと以外は、取り立てて大きな特徴がない普通の女子高生。

 その一年生です―――もちろん少女マンガも読んでますよ、はい。

 それと男子向けのマンガも、お兄ちゃんの影響でたしなんでいるの。


 私好みの絵柄なら満足して読み始めるのは、当然として。

 中にはとてつもなくクオリティが高い絵、作品もある。

 それで済めばいいのだけれど、それが理想なのだけれど。

 お気に入りの作品ほど、はやく終わってしまうパターンが何度かある。

 絵が綺麗なマンガほど、その落胆は大きい。


 綺麗すぎるのも考え物だ。

 綺麗なものをみるとうっとりするけれど、それが終わってしまうのは、辛い。

 美人は薄命はくめいという風潮があるけれど、絵が綺麗なマンガも、どうだろう、長期連載のイメージがない。

 もちろん面白いマンガが一番初めに目につく。

 絵が美麗な作品。

 人気があるらしい、けれど私にとってはあまり………なマンガ。

 気が付けば休載してしまうマンガ。

 次から始まっている新人のマンガ。

 やや絵が下手な、様子がおかしいくらいのマンガのほうが、長く楽しめるのかもしれない。

 今日も新しく始まったマンガを読んでいる。


「あと何話なんわかすれば化けるかもしれないしねぇ」


 呟くと、近くを通りかかった社会人とおぼしき女性が怪訝な顔をした。

 しまった、声に出てた―――まあいいけれど。

 私はなおもぶつぶつ―――と、呟きます。


「ぶつぶつ、ぶつぶつ」


 一字一句たがわず、正確な発音でぶつぶつと言い、先程のひとり言をごまかそうとする。

 どうごまかしたのかわからないけれど。

 私を白い目で見た(かもしれない)隣の女性はもう、私を見ていなかった。

 なおも私は、ページをめくる。

 そこそこ気に入ったマンガであったが、他の作品が見えるまで、ごっそりページを飛ばした。

 気恥ずかしいので。


「シュウくん、いいわぁ」


 呟いてしまったのは最近のしキャラ。

 今、話題になっているキャラだ―――私の頭の中で。

 私の中で話題になっているキャラで、全米では話題にはなっていない。

 全米が泣いてもいない。

 ………まあいいんだけどね。

 世間の評判は知らん。


 評判は知らないが―――物語の中では――決して良くない。

 作中イチの、すごい悲劇キャラだ。


「三角関係になってるけどこれ、どう足掻あがいてもシュウくんが失恋やめないといけない流れじゃない」


 ひどいなあ。

 でもそういうところがまた、いいんだよなぁ、とも思う。

 可哀想なキャラがまたいいんだよなぁ。

 恋愛において、やや不憫ふびんなキャラ、それが引っかかる。

 いい意味で心に引っかかる。


 それは、正解ではない、絶対に正解ではないけれど―――きっと正解ではない、けれど。

 けれどそこが。

 心に、足跡を残す要素だ。


「ああ、シュウくんいいなぁ………っていうか絵柄みためがいい」


 しかしこの展開はあんまりだ。

 これは面白くない。

 ない。



「―――えな」


 いなこれは、と呟くその声は、私が発したものではなかった。

 隣の、頭一つくらい高い位置から聞こえた。

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